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板橋区立板橋第一中学校での授業実践(中2地理)ーその3
6月15日、板橋区立板橋第一中学校の2学年の社会科で、「教科書を読み解きながら期末テストに備える」授業をしました。
その1では、教科書見開き2ページからの検索課題の指導法をご紹介しました。中学生でも教科書の「使い方」が身に着いていない生徒が少なくないことを実感していただけたのではないかと思います。その2では第二次・第三次産業の定義、及び教科書の資料部分を活用して、身近な企業を第二次・第三次産業に根拠をもって分類する具体例同定の指導法を取り上げました。今回は、RSTでいうところの「イメージ同定」の力を測る問3についてご紹介します。
RSTや「読み解く力」では、説明文に掲載されている非テキスト情報を「イメージ」と呼びます。グラフ・表や図、説明的なイラスト、年表、数式、譜面などがイメージに含まれます。テキスト情報とイメージと正しく結びつける力を「イメージ同定」と呼んでいます。
問3.他の工業地帯と比べたとき、中京工業地帯の特徴(とくちょう)を3つ文章で挙げなさい。
教科書の本文には、一般的な第二次産業の特徴については書かれていますが、中京工業地帯については書かれていません。(中京工業地帯の詳しい特徴は、実は小学校5年生で習います。こちらの授業の前後に学びます。)この問題は本文ではなく、教科書に掲載されている資料3「日本の工業地帯・工業地域と出荷額の割合」の帯グラフ、円グラフ、地図を読み解いて答えなければなりません。特に次の図が重要になります。
(教育出版「中学社会 地理 地域に学ぶ」169ページ、「日本の工業地帯・工業地域と出荷額の割合」より)
教科書の該当箇所で「中京工業地帯」の文字が出てくるのは、資料3だけなので、まず「検索」の力でこの図にたどり着けるか、が最初の関門になります。本文ばかり見ている生徒には「見開き2ページで『中京工業地帯』というキーワードが出てくるのはどこか、探してごらん」を促します。資料3に目が行ってしばらくしても手が動かないときは、「帯グラフのどれが中京工業地帯かな?」と尋ね、中京工業地帯の帯グラフに注目できているか確認します。
その上で、尋ねます。「ぱっ、と見て、中京工業地帯の特徴で気づくことはない?」と。
すると、多くの子は「ピンクが多い」と答えます。
「ピンクってなんだろう?」と尋ねると、「わからない」という答えが多く聞かれました。
グラフの右下に、緑は金属(工業)、ピンクは機械(工業)と読み方が書いてあるのですが、そこに至れない生徒が少なくないのです。ひとりも取り残さない教育を目指すなら、グラフの読み方を、教科書を使って、繰り返し指導する必要があることがわかります。
「ここに色分けの意味が書いてあるよ」と指すと、「あ。」とつぶやき、文章を書き始めることができました。
さて、答え合わせです。
「機械が多い」
これを書いた生徒が多数いました。しかし、これでは、「中京工業地帯には機械が多い」のか「中京工業地帯には機械工業の会社が多い」のか「機械工業の生産量が多い」のか「機械工業に従事する人の数が多い」のか、わかりません。では、わかるようにするにはどうしたらよいか。
そこで、小学5年生のときに習った(はずの)帯グラフの読み方をとり出して指導しました。
1.グラフのタイトルは何か。単位は何か。
2.全体を見て、わりあいがいちばん多いのはどれか。
3.増えているもの、減っているもの、変化がはげしいものはどれか。
4.全体の数字はどのように変化しているか。
5.共通していえることはないか。
6.全体のけいこうから、これからの変化を予想できるか。
(東京書籍 新編「新しい社会5下」6ページより)
帯グラフには、複数のものを比較する場合と、経年変化を見る場合があります。3,4,5,6は後者のための「読み方」で、1,2が今回必要になる帯グラフの読み解き方です。
資料のタイトルは「日本の工業地帯・工業地域と出荷額の割合」です。ですから、多いのは「出荷額」でしょう。(残念ながら、教育出版のこのグラフには「単位」が書いてありません。改善を期待します。)ピンク(機械)が多い、ことを表現するには、グラフのタイトルから「出荷額(にしめる)」「割合」という言葉をもってきて、先ほどの答えを補います。
「出荷額にしめる機械工業の割合が大きい。」
このように書ければ正解です。「出荷額にしめる機械工業の割合が、5割に近い。」などもよいでしょう。
多い方に注目したら次は、少ないものにも注目します。すると、ブルー(化学)や黄色(食品)が少ないことに気づきます。もう「ブルーが少ない」と書く生徒はいません。
「出荷額にしめる化学工業の割合が小さい。」
「出荷額にしめる食品工業の割合が小さい。」
などを挙げることができました。全体をながめたときに気づくのが、中京工業地帯の出荷額全体の多さです。
「日本で一番出荷額が多い工業地帯である。」
「どの工業地帯・工業地域より出荷額が多い。」
のように自発的に書ける生徒が多くいました。
ところで、資料3の地図と本文にひっぱられたのか「太平洋ベルトにある」と書いた生徒がいました。これは不正解です。なぜなら「他の工業地帯と比べたとき、中京工業地帯の特徴を挙げなさい」と問われているので、他の工業地帯と「異なる点」を挙げなければいけないからです。他の工業地帯の多くも太平洋ベルトにあります。
これで問1~問3まで答え合わせができました。最後に私は次のように語りかけました。
「問3はテストで配点が高い問題です。問3をスラスラ書けたら日比谷高校も夢ではありません。さて、問3は『頭が良くて、才能がないと』解けない問題だったでしょうか?いいえ、違います。『ピンクが多い』『ブルーが少ない』ということがわかり、グラフの読み方を覚えれば誰もが書くことができますね。誰もができるはずのことをきちとできれば日比谷高校に合格できる、ということです。」
ここで「よっし!」とこぶしを突き上げる元気な生徒が数名いました。
「ただし、『機械が多い』と『出荷額にしめる機械工業の割合が大きい』と書けるかどうか、その差が今の君たちと日比谷高校に入学した生徒の違いでしょう。」
すると、「あー、やっぱりだめか・・・」という落胆する声が聞こえます。
「大丈夫です。なぜなら、高校入試は明日ではなく1年半後にあるからです。今日から、基本の教科書の読み方、グラフや表の読み方をしっかり身に着けて学習すれば、きっと望む学校に入学することができるでしょう。」
もう一度「よっし!」と元気に言ってくれてよかったです。
今回の授業で、私はひとつも「社会科のコンテンツを教える」ということはしていません。面白い話もしていません。ただ、教科書の読み方、グラフの読み方のコツを伝授しただけです。
中学校は義務教育の総仕上げの時期です。先生方には、コンテンツを教え込むことから、じょじょに生徒の自学自習に伴走する学習支援者を目指してほしいと思います。そして、すべての子が「自学自習するスキル」を身に着けて卒業してほしいと願っています。自学自習のベースは、「説明文を読み解く力」と「説明文を書く力」です。それらは、特別な才能がなくても、適切な指導と学ぶ機会があれば(自動車の運転免許を得るのと同じように)身に着くはずの力です。そして、「学校」は、まさに、そのようなスキルを着実に身に着ける場所として、社会に存在しているのではないでしょうか。
今回はワークシートの問4にたどり着くことはできませんでした。私は、外部講師ですから、事前にその日授業をするクラスの状況を把握することはできません。その日、子どもたちと接して、「今日はどこまでやるか」を冒頭3分くらいで決めます。今回は、冒頭で「今日は問1から問3まで一緒に解いていきましょう」と宣言しました。(他の学校では、問2まで、あるいは問1だけ、にしたかもしれません。)
ただし、問4について話はしました。「問4をスラスラ解けるようになったら、東大に入れます」と。根拠があります。東大文系の最難関は社会科の問1の600字の大論述です。そして、東ロボプロジェクトの経験から、多くの東大合格者はその600字の大論述が「大してできていない」ことがわかっています。ですから、中学2年の段階で問4が解けるようになれば、東大合格は夢ではないのです。
そう話すと、子どもたちは、大変驚くと同時に、「どういう状態を目指して勉強していけばいいか」のイメージが多少は掴めたようでした。
※ちなみに、「ドラゴン桜」ではありませんので、日比谷高校→東大に行くことを子どもたちに目指させることが良いと思っているわけではありません。ただ、「ふつうにやればできること」なのに「とんでもない才能がないと無理なこと」だと思わない方が、人生の選択肢は増えると思っているだけです。
板橋区立板橋第一中学校での授業実践(中2地理)ーその2
6月15日、板橋区立板橋第一中学校の2学年の社会科で、「教科書を読み解きながら期末テストに備える」授業をしました。
その1では、ほぼ全員に解いてほしい問1の指導方法についてご紹介しました。今回は第二次産業、第三次産業の定義を読んで、具体的な企業をどちらかに分類する課題です。教科書では二次産業を次のように定義しています。
原材料を採掘したり、加工したりして製品をつくり出す産業を第二次産業といい、主なものに工業があります。(教育出版「中学社会 地理 地域に学ぶ」168ページ、9~11行目)
分類するのは、こちらの企業です。
問2. 次の企業を第二次、第三次産業に分類しなさい。
ユニクロ、日清食品、ソフトバンク、東京電力、ローソン、パナソニック、みずほ銀行、住友金属鉱山、積水ハウス、JR東日本、ヤマト運輸
正式名称ではありませんが、CM等で子どもたちに馴染みがある略称で出題しました。
定義に従って具体的なものを分類する力を、RSTでは「具体例同定」力と呼んでいます。穴埋めプリントに「第二次産業」「第三次産業」と正しく埋められても、現実社会に応用できないようでは知識とは言えません。「あの企業は二次産業。なぜなら・・・だから」と言えるようになってほしいものです。
学校ではあまり問われないタイプの問題なので、最初の一歩が踏み出せない生徒が少なくありませんでした。が、「1つでも当てれば2点だと思って、どれかひとつでも選んで書いてごらん。白紙だと0点だけど、書けば当たるかもしれないよ」と後押しすると、多くの子が「みずほ銀行」を選び、第三次産業に分類しました。銀行は「原材料から製品をつくり出しているわけではない」からです。ひとつ書くと、次々に書き込める子が増えていきました。
答え合わせの時間には、それぞれの企業が第二次、第三次のどちらに属するのか、その理由は何か、みんなで議論しました。
日清食品は、子どもたちに馴染みのある、あの「カップヌードル」を出している企業です。ただ、子どもたちは「工業」というと真っ先に機械工業をイメージするらしく、「第三次産業だと思う」側に手を挙げた生徒が1/3ほどいました。そこで、169ページの「日本の工業地帯・工業地域と出荷額の割合」の帯グラフに注目させました。工業の中の割合を見ると、「金属、機械」のほかに「化学、食品、その他」があることがわかります。ということは、食品工業という種類が工業の中にある、ということです。日清産業は、「小麦粉などを原材料として、麺に加工しているから、第二次産業」という根拠をもって、分類することができました。
「住友金属鉱山、という会社を知らない」という子はたくさんいました。実は、私も詳しくは知りません。(住友金属鉱山さん、ごめんなさい)すると、「名前に『鉱山」と書いてあるから『鉱業』ではないか」という生徒が出て、他の生徒も納得して第二次産業に分類できました。
「積水ハウス」は、第二次・第三次半々に分かれました。「絶対に第二次」という生徒に理由を聞くと、「168ページのグラフ2『日本の産業別人口構成の移り変わり』に第二次産業は『鉱業、建設業、製造業』と書いてあって、積水ハウスは建設業だから」とパーフェクトな答え。本文ばかりに注目していた生徒たちが一斉にグラフ2に注目し「ああ、そうかぁ」「そこに書いてあったのかぁ」と言う様子は微笑ましかったです。
「東京電力」はどうでしょう。さきほどの箇所に注目すると、「第三次産業…電気・ガス・水道業、情報通信業、運輸業、卸売業、小売業、金融業、保険業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、教育、学習支援業、医療、福祉など」の冒頭に「電気」とあります。ですから、東京電力は第三次産業だということに気づけました。ここまでいくと、あとはすいすい進み、ヤマト運輸は運輸業、ソフトバンクは情報通信業、パナソニックは製造業、JR東日本は運輸業、ローソンは小売業のように分類できました。
みんなが最後まで悩んだのがユニクロでした。ユニクロは小売業なのか、製造業なのか。どちらに重きがあるのか。(私も悩んだので事前に調べました。登録は第二次産業だそうです。)
そういう中で、流通やIT、グローバル化が進む中で、第二次と第三次の境界があいまいになっていること、場合によっては、「2+3=5の5次産業」などと言われることがあることなどを話しました。
「今日から、商店街を歩いていても、CMを見ても、『あの店は第二次産業』『あの会社は第三次産業』と考えられるようになるといいね」と話し、「ところで、伊藤校長先生は第何次産業に従事していますか?」と聞くと、「第二次、生徒を生産しているから」(←原材料が何か、という部分が抜け落ちてますね。)と言ったり「学習支援業だから第三次産業」と言ったりする子がいて、まだ少し混乱もあるようです。「校長先生は教育業に携わっているので、第三次産業従事者です。学習支援業は塾です」と言ったら、「そうか!」と納得した様子でした。
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この部分については、10数人で見学にお越しになった立山町の先生方から「教科書をまさに『使い倒す』授業でした」との感想が多く寄せられました。
追記:参観していた教員からは、「積水ハウスの分類で、もっと生徒の考えを引き出して議論させてもよかったのではないか」とのご意見がありました。そのような学習活動が推奨されていることは私も認識しています。一方で、企業の分類、産業の分類には定義があることなので、(自分の考えは一度置いておいて)定義に従う、ということも「学ぶ基礎」として重要かと思います。
板橋区立板橋第一中学校での授業実践(中2地理)ーその1
6月15日、板橋区立板橋第一中学校の2学年の社会科で、「教科書を読み解きながら期末テストに備える」授業をしました。
板橋第一中学校は、板橋区が推進する「義務教育9年間で子どもたちに、『読み解く力』を育成し、学力向上を図る」ことを目的として考案された「i-カリキュラム」の学びの重点校のひとつです。4年前から学校一丸となって「読み解く力」育成の授業改善に取り組んでいます。
その一環として、令和3年度から社会科の一部で、定期考査を「教科書持ち込み可」にするという試みが行われています。生徒は「教科書持ち込み可」を歓迎しますが、平均点を比較すると、実は教科書持ち込み可のテストの方が成績は奮いません。なぜでしょう。
定期テストの範囲は見開き10ページ以上あることがほとんどです。テストが始まってから、初めて教科書を読むようでは、時間内に問題を解き終えることはできません。事前に教科書を読み解き、どのページにどんなことが書いてあるか把握した上で、内容が腹落ちしていていないと、「読み解き、記述する」テストには対応できないのです。しかし、ひとりで事前に教科書を読み解ける生徒は少数です。
そこで、今回は、期末テストの準備として、期末テストの範囲から見開き2ページに絞り、どんな風に教科書を読み解き、問題を解けばよいか、その方法を伝授しました。今回、読み解く対象に指定したのは、教育出版の「中学社会 地理 地域に学ぶ」の168~169ページ、「日本の産業活動と立地」です。
写真1:貿易の自由化の参照表現について指導しているところ。指で指している箇所が「貿易の自由化」
授業の冒頭でワークシートを配布しました。板橋区1年生持ち込み可問題2022年.pdf
彼らが経験した中間テストのボリュームから考えると、問1~問3は15分で解きたいところ。該当箇所を開き、15分にタイマーを設定し、解き始めました。この記事では、クラスの大半に解いてほしい問1の指導法についてお伝えします。
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問1の1「貿易の自由化とは何か。25 字以上 30 字以内でかきなさい。」
これは、「教科書の構造を理解しているか」「検索できるか」という、学習基礎スキルを問う問題です。「貿易の自由化」というキーワードは教科書に太字で書かれています。但し、本文には定義は書かれておらず、「貿易の自由化」の言葉の右上にピンクで①と書いてあります。同じページの左下に同じくピンクの①があり、それが「参照先」で、次のように書かれています。
ものやサービスの輸出入には国境を越える時に関税(税)がかかることがほとんどです。この関税や輸入の制限などをやめて、自由な貿易を行うようにすることを貿易の自由化といいます。(教育出版「中学社会 地理 地域に学ぶ」168ページ註①より)
机間巡視すると、教科書の「参照表現」を知らないせいで第一問からつまずいている生徒が半数ほどいました。
「貿易の自由化の右肩にピンクの①と書いてあるよね。これ、なんのマークか知っている?」と聞くと、「知らない」とのこと。「ピンクの数字がついている言葉の説明が、同じピンクの数字の先に書いてあるよ。見てごらん」というと、「えー、そうなんだ」と驚いているようでした。大人にとっては、当たり前の「教科書の使い方」でも、児童生徒は教えてもらわないとわからないことがあるのです。
答え方も具体的に指導する必要があります。
「~とは何か」と問われたら「・・・・こと」と書きましょう。
「~とは何か」は定義を聞かれているので、「・・・・すること」「・・・・のこと」のように、最後が「こと」で終わるように書くとよいです。この「型」を覚えておくと、「・・・こと」と書かれた部分を探せるようになりますし、この型にはまらないようなものは答えではない、と排除することができるようになります。
問1の1の答えは参照先をそのまま引用すると、「関税や輸入の制限などをやめて自由な貿易を行うようにすること」(29字)です。
問1の2「貿易の自由化が日本の農業にとってなぜ打撃になったのか、そのわけを 15 字以上 20 字以内でかきなさい。」
全員、貿易の自由化の周辺に視線が向いています。そこには、以下のように書かれています。
貿易の自由化が進んで、国内より低価格の農産物が輸入されるようになると経営は厳しくなります。農業で働く人の減少や高齢化、後継者の不足も課題になっています。こうした状況もあって、農業で働く人は、東京や大阪などの大都市から離れた、地方に多いという特徴がみられます。(教育出版「中学社会 地理 地域に学ぶ」168ページ本文4行目~9行目)
ここで答えが大きく2つに分かれました。「国内より低価格の農産物が輸入されるようになるから」を選ぶ生徒と、「農業で働く人の減少や高齢化、後継者の不足」を選ぶ生徒です。前者が原因で、後者は結果です。「わけを書く」のように原因の記述を求められているのに、結果の方を書いてしまう生徒がいるのです。このようなときにも「型」の指導は有効です。
わけ(理由)を書くときは「・・・から」と書きましょう。
「国内より低価格の農産物が輸入されたから、経営に打撃を受けて、(その結果)農業で働く人の減少や高齢化、後継者の不足が起こった」ので、前者が選ぶべき箇所だということがわかります。RSTでは推論(INF)能力に該当する箇所です。
ただし、「国内より低価格の農産物が輸入されるようになるから」あるいは「海外から低価格の農産物が輸入されるようになるから」と書くと字数制限に収まりません。意味を変えずに言い換える能力(RSTでは同義文判定(PARA))が必要になります。縮約(約め方)の工夫を具体的に指導しました。
「されるようになるから」を「されるから」と約めると5文字減って、字数制限に収まります。他にも「低価格」を「安い」、「海外からの農産物」を「海外産農産物」にすることで、意味を変えずに字数を減らすことができます。
生徒たちに次のように問いかけてみました。
「問1は『頭がいい人』や『社会科が好きで得意な人』や『文章が巧い人』だけができるかな?」
そうではありません。教科書の使い方を知れば、そして、約め方のやり方を工夫すれば、誰でもできる、ということを生徒たちは実感できたようです。実際、下校する生徒たちに校長先生が授業の感想を聞いたところ、(「楽しかった!」という感想が多かったのは嬉しいことでしたが)「教科書の読み方がわかった」「答えの書き方がわかった」と言う子が多かったそうです。
この記事をお読みの教員の中には、「そういう指導はもちろんしている」と思う方も少なくないでしょう。教科書の使い方や読み方、答えの書き方は、一度や二度の指導ではなかなか身に着きません。何度も実践し、失敗しながら上達していく過程が必要なのです。
では、その2に続きます。
追記:
この記事をお読みになった方の中には、「紙の教科書だから参照表現を理解しなければならなくなる。デジタル教科書にハイパーリンクを埋め込んでおけば、ワンクリックで参照先に飛べる。だからデジタル教科書の方が良い」と思う方もおられるでしょう。しかし、ハイパーリンクは認知負荷が大きく、本文の理解を阻害するとの研究結果がこちらの論文を始めとし、いくつも出ており注意が必要です。
実際、デジタルコンテンツで学ぶ児童・生徒を見ていると、「詳しく知りたいからリンクをクリックする」というより、「目立っているからクリックする」「厭きたから(何らかの気分転換をしたくて)クリックする」ことの方が多く、「この画面の前に何を見ていた?」「何を調べようとしてクリックしたの?」と聞くと「わからない」と答えることが圧倒的に多いのが現状です。
追記2:
小中学校の授業で、「自分の言葉で書きましょう」「自分の意見を言いましょう」という指導が徹底されているためでしょうか。教科書から「抜き書き」するのはいけないことだ、と思う生徒が少なからずいます。「教科書を読み解いて自分のものになったら、抜き書きしても自分の言葉になるんだよ」というと安心した顔をするのが印象的でした。
追記3:
この記事をお読みになった複数の方から、「なぜ中学生になっても教科書の凡例がわからないのか。読書量が足りないからではないか」との疑問が寄せられました。私たち大人でも、Excelの滅多に使わない機能や、自分が契約している保険がどこまでをカバーしているか、等を知らずに生活していることは多いです。なぜでしょう。滅多に使わず、意識に上らないからではないでしょうか。
「本文だけでなくグラフや表、地図、コラムや実験の注意事項も含め、教科書を毎日使い倒して」いれば、どの子も教科書を使えるようになります。一方、プリントやワークシート学習を中心にしていれば教科書の使い方が身に着かないのは当然かと思います。