板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。
10月27日、令和2年度板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業(第3回目)が、板橋第七小学校で行われました。教育のための科学研究所からは、新井紀子代表のほか、菅原真悟主席研究員が参加し、各科目の研究授業の参観、助言を行いました。
第6学年の社会科では、現在、第2章「日本の歴史」の第8節「明治の新しい国づくり」(教育出版)の中盤に差し掛かったろころです。前回は自由民権運動、そして今回はいよいよ国会開設の前の大日本帝国憲法制定について学んでいきます。
日本近代史は、内容が複雑で、ストーリーとして読み解くことが難しいこともあり、高校生でも理解することが難しい箇所です。ただ、授業者は「大日本帝国憲法と日本国憲法を比較し、明治政府がどんな国づくりを目指していたのかを読み解く授業をしたい」と強く望んでいました。教科書が提案している↓の「発展的内容」以上に挑戦的な課題です。
やってみよう 大日本帝国憲法を、五日市憲法や、今の日本国憲法と比べて、どのような特徴があるか考えてみよう。 (「小学社会6年」、p.187、教育出版、令和2年1月20日発行) |
新しい指導要領では、6年生は日本史よりも先に公民を学びます。つまり、1学期のうちに日本国憲法の内容や特徴は学んでいるのです。その意味では、大変有意義な授業目標です。一方、1学期の内容が十分に児童に定着していないと混乱する可能性もあります。また、大日本帝国憲法の特徴が見開き2ページ、1段落+資料にコンパクトにまとまっているのに比べて、日本国憲法についての記述は10ページから29ページと20ページにわたっており、検索能力に課題のある児童では比較まで至らないことが懸念されました。
そこで、授業者の希望を尊重しながら、「大日本帝国憲法に関する次の記述から、その特徴を箇条書きで抜き出す」ことまでを自力解決させ、その結果を全員でしっかりと確認することを提案しました。予定時間内に全員がそこまで達成できたら、発展的内容として、日本国憲法の特徴をグループで読み解かせます。大日本帝国憲法と日本国憲法を黒板上で比較しやすくするために、特徴の箇条書きの順番を揃えること、文型を揃えることを提案しました。
クラス全員に自力で読み解かせたいのは以下の段落です。
この憲法では、主権は天皇にあり、天皇が大臣を任命し、軍隊を統率し、外国と条約を結ぶことができると定められました。言論の自由などの国民の権利も、法律で定められた範囲内で認められました。国会は、法律をつくったり予算を決めたりする権限をもつことと定められました。 (「小学社会6年」、p.186~187、教育出版、令和2年1月20日発行) |
ここから、7つの特徴を箇条書きで8分程度で抜き出すことができれば、かなりよく耕されたクラスだと言えるでしょう。7つあることを事前に伝えることにより、RSが低い児童でも目標をもって取り組むことができます。また、漏れがないかチェックすることもできます。
大日本帝国憲法の特徴
- 主権は天皇にある。
- 天皇が大臣を任命する。
- 天皇が軍隊を統率する。
- 天皇が外国と条約を結ぶことができる。
- 言論の自由など国民の権利は、法律で定められた範囲で認められた。
- 国会が法律をつくる権限をもつ。
- 国会が予算を決める権限をもつ。
これを箇条書きするのは「当たり前で、何の読解力も必要としない」と多くの大人は考えがちです。しかし、RSTの係り受け解析・照応解決で能力値が0.5 を超えないと、これをすらすらと書くことは難しいのです。実際、この日の授業では、クラスの半分以上の児童が、「軍隊を統率する」の主語がわからず、2で止まってしまいました。この箇条書きタスクで1や2で止まってしまう児童ですと、20ページにわたる日本国憲法の記述の中から、これと比較できる箇所を見つけ出し(検索タスク)、同じ文型で記述する(同義文判定)タスクに取り組める可能性は極めて低いので、授業の軌道修正が必要です。
RSTを受検した学年で、その結果の分散が大きかったり、評価3以下の生徒が半数いるようなクラスでは、まずは、このような基本的タスクを確実に達成できるかをよく見守り、基本ができたことを共に喜ぶことで児童の自己肯定感を高めましょう。児童のRSに合わない高度すぎる課題にやみくもに取り組ませると、かえって児童が興味関心を持てなかったり、自己肯定感を下げてしまう結果になることが心配です。
この段落に登場する「統率」という言葉にはルビがふってあります。新出の漢字かつ熟語です。授業者には、この漢字を児童が正しく写せたか、意味がわかるかを確認する時間の余裕をもって丁寧な指導案を作成してほしいと思います。
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もしも、上述の基本タスクを8分以内にほぼ全員が遂行できる「よく耕されたクラス」であれば、5分以内で書き終えた生徒には、同じページに掲載されている他の段落や資料から、それ以外の情報も箇条書きに加えるように指示しましょう。
例:
- 国会は貴族院と衆議院から構成される。(187ページ右図から、非言語情報の言語化)
- 衆議院議員のみが選挙で選ばれる。(187ページ右図から、非言語情報の言語化)
- 選挙権をもつことができたのは、一定の金額以上の税金を納めた25才以上の男性に限られた。(187ページの段落から抽出)
- 国民から徴兵することで軍隊がつくられた。(187ページ右図から、非言語情報の言語化)
第二段落を直接箇条書きするのは係り受け解析や照応解決で達成できますが、非言語情報の言語化は「イメージ同定」の逆になり、読み解くだけでなく書く力も求められます。クラスの上位層にはちょうど良いタスクになるでしょう。
ここまでの内容を黒板の左側に挙げていき、いよいよ日本国憲法の復習をしながら、右側に、帝国憲法と対比するような形で特徴を挙げていきます。これは高度な検索能力と、同義文判定能力が求められます。大日本帝国憲法と特徴の記述の順序が異なるのも、RSが低い児童が苦労する点です。グループで活動をさせ、担当ページを割り振って検索させる(検索範囲の限定)、該当箇所が正しいか吟味させる等のグループ解決をすると良いでしょう。
- 主権は国民にある。(p16)
- 内閣総理大臣が大臣を任命する。(p.24)
- 軍隊はもたない。(p.20)
- 内閣が外国と条約を結ぶ権限があるが、国会の承認を得る必要がある。(p.24)
- 国民には、居住・移転、職業を選ぶ権利、法のもとの平等、政治に参加する権利、信教・学問・思想の自由、健康で文化的な生活を送る権利、働く権利、裁判を受ける権利、団結する権利、言論・出版の自由、教育を受ける権利が保障されている。(p18資料より)
- 国会が法律をつくる権限をもつ。(p.22)
- 国会が予算を決める権限をもつ。(p.22)
最後の2つが共通で、それ以外は異なることがわかります。その上で、大日本帝国憲法と日本国憲法の違いを言語化できるクラスであれば、小学生の「読み解く力」としては百点満点といえるでしょう。
この授業では、冒頭に先週の自由民権運動の振り返り等を盛り込んだりしたことも災いして、2番目を何人かが到達できただけで時間切れになってしまいました。2番目の項目について「内閣が大臣を任命する」と書いた児童も複数いましたが、それが「内閣総理大臣が大臣を任命する」と同義か異義かの指導もできないままでした。
児童のRSに比べて過大な要求をすると、すべてが中途半端になってしまい、児童は「何が正しくて、何が間違っているのか」を判断できないまま授業時間を過ごすことになります。
「すべてのクラスにとって正解な授業」は存在しません。児童・生徒のRSTの結果に応じたテーラーメードな授業設計が求められるといえるでしょう。
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板橋第七小学校では、朝の時間や授業前の数分を使って、読み解く力、聞く力を高める取り組みをしています。このクラスでは、「先生が口頭で言った内容を図にする」ことをゲーム感覚でイメージ同定として取り組んでいました。この日の「お題」は、「四角に対角線をひく。四角の中にいっぱいになるように丸を書く。対角線の上下と丸の内側を黒く塗る」でした。このとき、「いっぱいになるように」と「いっぱい」を聞き取り間違えて、四角形の中にたくさん円を書いた児童がいました。
ただ、6年生ですので「四角」や「まる」ではなく、「正方形とその対角線を、正方形の底辺が下になるように書く。正方形の内側になるべく大きな円を1つ書く」のように、より明確な指示をするとよいのではないか、との意見が授業後の研究会では参観した他の教員から指摘がありました。答えが一通りに決まる明確な指示を準備することは、教員自身のRSを高める上でも、非常に効果的な鍛錬になると感じました。