活動報告
沖縄県立球陽中学校で研究授業をしました。
まだ最高気温が30度になる沖縄で、研究授業を実施しました。
今回、お招きいただいたのは沖縄県立球陽中学校です。中高一貫の公立学校です。迎えてくれたのは中学3年生の生徒のみなさん。礼儀正しく明るい笑顔が印象的な学校です。
授業のテーマは「偽定理を探せ!」
これは中学1年生から大学生までどの学年でも実践していただける授業として、『AIに負けない子どもを育てる』(新井紀子著、東洋経済新報社、2019年)でも紹介しています。冒頭で、「真偽が決まる文を命題という」という定義を紹介し、どのような文が命題で、どのようなものはそうでないかを区別できるようにします。その上で、真であることが証明された命題を「定理」と呼ぶと説明し、「今日、皆さんは数学者になって、命題の真偽を見分け、真だと思うものには証明をつけましょう。偽だと思うものには、偽である証拠を見つけましょう」と活動の概要を説明しました。
ここまで約5分ですが、すでに球陽中が、私が今まで「偽定理を探せ!」を指導した中で、ずば抜けて「よく耕されたクラス」であることを感じました。
よく耕されたクラスの特徴は、「集中できる」「聞ける」「待てる」にまず現れます。「どれが定理かどうかなんて、自分には関係ない」と思えば急速に興味を失うものです。経験が限られている児童生徒は、どうしても視野が狭い面があります。「待てない」「聞けない」ことで、可能性を狭め、世界への窓を閉じてしまうのを見ると残念に思います。
このクラスは、5分間、一人も脱落せずに話を聞いているので、今日はだいぶ先に連れて行ってあげられるな、と直感しました。
最初の問題は定番の「0は偶数か」問題です。
0は偶数である。 |
偶数に手を挙げた生徒が圧倒的多数でした。(※RSTで大学生や一般社会人の3人に2にが「0は偶数ではない」を選ぶのに比べて、球陽中の3年生がいかに定義を正確に読めるか、がわかります。)ただ、数名「これは偽定理」だと言いました。
意見が割れたときには、定義に戻ることが重要です。
偶数の定義は?というと手を挙げて次のように答えてくれた生徒がいました。
2で割り切れる整数を偶数という。 |
「0 割る」と聞くと、「できない」と反応するRST受検者は少なくありません。「どんな数も0では割れない」ということと混同しているのでしょう。0は2で割り切れます。やってみましょう。
0÷2=0 あまり 0
つまり、これは真の命題で、しかも証明がつきましたから、「定理」になりました。
ここで、「偶数を他の文章で定義できますか?」と聞きました。すると、
「整数の並びは偶数、奇数、偶数、奇数、・・・と順番に繰り返す」という意見が出ました。
「でも、整数の並びは、奇数、偶数、奇数、偶数、・・・と順番に繰り返しているともいえるのではありませんか?」と問いかけると、はっとして、「ああ、確かにそうです。これではだめです」と返事がありました。このように指摘をされたときに、自分で「はっ」とする、ことが学びではとても重要です。はっとして、ああそれではだめだと思うから自分で修正ができるのですから。「はっ」とする瞬間、子どもは一番自分ごととして学ぶと感じます。
そうこうしているうちに「2の倍数を偶数といいます」という意見が出ました。私が「変数を使ってみませんか?」と誘うと、「$$2n$$で表される整数。(ただし、$$n$$は整数)」という意見も出ました。定義は何種類か持っていると使い勝手が良いのです。それはおいおいわかってきます。
次も定番問題です。
どんな素数も奇数である。 |
まず、素数の定義から振り返りました。
1とそれ自身以外は約数をもたない、1より大きい整数を素数という。 |
素数の定義は数学でしかありえないような複雑な形をしています。悪文といってもいいでしょう。けれども、それ以外表現のしようがないのです。平易な文では表現できないことが科学の中にはたくさんあります。
球陽中ではあっという間に、これは「偽定理」だと見抜かれました。理由は「2は偶数で素数だから」です。「反例」です。反例をみつければ、偽定理だということを簡単に説得できます。
次に挑んだのは次の命題です。
連続する2つの整数の和は、奇数になる。 |
こういうシンプルな命題を証明するにはコツがあります。それは式にすることです。式の中には「ことば」を含めることはできません。「連続する2つの整数の和」を式にするにはどうしたらよいだろう。
そう、変数を使えばいいんです。
連続する2つの整数の和は、$$n$$を整数として、$$n+(n+1)$$と表すことができる。 $$n+(n+1)=2n+1$$ なので、これは奇数である。 |
式にすることの良さは「式にすれば勝手に式が考えてくれるところ」(by ライプニッツ)にあります。変形すると、「奇数だ」という証拠が出てくるわけです。先ほど、偶数の定義として、「$$2n$$(ただし$$n$$は整数)と表せる数」という確認をしておいたことが、ここで効いてきます。
このクラスならば大丈夫と思い、最後はちょっと難しい問題を出しました。
連続する2つの整数の積は偶数になる。 |
一般に、いくつかの数に、ひとつでも偶数が混じっていれば、その積は偶数になります。
多くの生徒が「$$n(n+1)=n^2+n$$」という式を前に「うーん」と悩んでいます。その悩める時間の長さこそが、生徒の伸びしろになります。
ここには答えは書きません。みなさんもぜひ「うーん」と悩んでみてください。