カテゴリ:指導・助言

令和6年度全国学力状況調査(中学国語)について

令和6年度全国学力状況調査(学テ)の結果が公表されました。今年度は、中学国語の平均正答率が歴代最低だったことなどから、中学国語にスポットライトが当たり、私(新井紀子)も各方面からコメントを求められています。メディア等では一部しか分析結果をお伝えできないので、ここでご紹介します。

まず、学テの国語では、著作権の関係で提示文のいくつかは公開されません。その点、ご了承ください。

Q1:昨年に比べて平均正答率が10ポイント以上低下したのは、読解力の低下によるものか?

RSTの結果からは、令和5年と6年とで大きな変化は感じられません。問題の難易度による影響だと考えられます。

Q2:昨年に比べて今年は問題そのものが難しかったということか?

令和5年は小林秀雄の評論(「読書について」内容非公開)が取り上げられている一方、令和6年は比較的平易でストレートな題材ばかりが取り上げられているため、「読み解きの対象となる文章」そのものが令和6年のほうが難しかったとは言い難いと思います。

Q3:昨年に比べて今年の問題はどこが難しかったのか?

令和5,6年の「正答率が8割を超えている問題」に着目してください。令和5年は4問ある一方、令和6年は1問しかありません。それらに共通する「易しさ」は、(1)提示された資料や本文全体を理解しなくても、傍線の箇所およびその周辺だけを読めば正解を選べる、または(2)学校教育の中の「道徳」に従いさえすれば正解を選べる、ことにあります。たとえば、令和5年で91.3%の正答率だったのは文中の「落胆する」が、①慌てる、②恐れる、③恥ずかしがる、④がっかりする、のうち④が正解だと答えるものでしたが、これは中学3年生の9割以上が「落胆する」を語彙として獲得している証拠ではなく、文中の「落胆する」を①~④で言い換えたときに成立しやすい言葉を選んだ、特に正解がひらがなだったことに遠因があるのではないかと思います。(①や③は読めなかったので選ばなかった可能性がある。)

令和6年で最も正答率が高かった問題は、「物語の読み手に、紙の辞書を久しぶりに使って気付いたよさがより明確に伝わるようにするため。」という「学校における『望ましい考え』」がわかれば、問題文を読まずに正答できる問題(正答率(81.5%)でした。

 そのような「読みが苦手な生徒が取るテストワイズネス」が効かない良問だったのが、令和6年度の大問1です。大問1は、「フィルターバブルとはなにか」の解説の後に3人の生徒が「本を選ぶ」シーンに限定して、フィルターバブルの功罪について自分の経験に照らし合わせて議論し、他の選書の方法と比較する内容でした。資料と本文の両方を読まないと、正解にたどり着けない問題設定は、国語が目指す「新しい読解力観」として注目に値します。また、書くことに関しても、「自分の意見を書く」だけではなく、「いくつかの条件を満たすように、自分の考えを書く」ということの制約が例年に比べて厳しいところも、大問1の特徴だったといえるでしょう。

Q4:RSTが求める読解力と令和6年度の国語の問題との共通点は?

RSTの「イメージ同定」では、資料と本文を対応づけて読む力を測ります。令和6年度の問題でいうと、1-2(正答率68.3%)や2-1(正答率36.7%)がイメージ同定の問題に分類できるでしょう。また、大問1は「フィルターバブル」という言葉の定義を踏まえないと、その後の会話だけを読んでも正解できないため、定義を読む力を問う「具体例同定」と親和性の高い問題だったといえるでしょう。それ以外にも、「条件1,2を満たすように、~について書きなさい」という問題は、RSTのイメージ同定や具体例同定と親和性が高いです。今回、「書くこと」に該当する1-4の正答率が45.1%(昨年は類似の問題で82.7%)にとどまりました。条件1「フィルターバブル現象について取り上げながら、これからどのように本を選びたいか具体的に書くこと」条件2「話し合いの一部の誰の発言と結び付くのかが分かるように書くこと」と2つの条件を満たすように自分の考えを書くことが求められましたが、実は分解すると、①フィルターバブル現象について取り上げる、②本文中の誰かの発言と結び付ける、③具体的に、④自分の考えを書く、という4つの条件を満たすように5行で書く必要があります。文部科学省でも、「自分の考えなどを記述していても、必要な情報を取り出すことや表現の効果を考えることに課題が見られた。」と分析しているように、④の自分の考えを書く、はできていても、①~③のどれかの条件を落としてしまった生徒が多かったと考えられます。RSTのイメージ同定や具体例同定でも、同じ提示文であっても、条件が1つや2つの際にはそれを満たす選択肢を選べるが、3つ以上になると能力値上位の受検者しか正解できないという現象があります。認知負荷がかかりすぎて、条件をすべて満たすように選べない・書けないと想像できます。

Q5:どのような授業や学習が有効か?

文部科学省では、「主体的・対話的で深い学び」を目標として掲げています。ただ、単に「主体的に考えましょう」「アクティブラーニングを通じて対話しましょう」「未知の課題を解決しましょう」と児童・生徒に求めるだけでは、その目標は達成できません。特にRSTで、評価A+Bが3割を下回る(評価C+D+E+Fが7割を上回る)学校では、まずは「読む・書く・話す」に関して基礎的なトレーニングを積み、学習言語の語彙や言い回しに馴染み、書くことへの抵抗感を下げることが重要です。

RSTを導入し、RSTのフィードバックに従って「RSノート」に取り組んでいる(公立の)ある学校では、小学国語の平均正答率が77%(全国平均は67.8%)だったそうです。その学校のRSTの能力値を見ると、特にイメージ同定と具体例同定理数の能力値平均が中学3年生並みに高く、また、文章構造を頑健に読む力を問う「係り受け解析」の分散が小さい点が特徴的でした。

さいごに

学テは年ごとに問題傾向が変わりますので、その正答率に一喜一憂することなく、まずはRSTの「学習アドバイス」に従って、RSTの能力値、特に係り受け解析や照応解決をしっかり上げ、次にそれ以外の能力値を上げていくことで、自然に(国語だけでなく)学力全般が向上すると考えられます。

 

 

0

読解力の向上に役立つ『RSノート』の取り組み(燕市)

燕市はRSTを2021年度に導入し、市内の小学6年生から中学3年生までRSTを受検しています。読解力に対する先生方の興味関心も高く、自発的にRSTを受検する先生が多い市です。2023年度の全国学テでは、中学校が大きく成績を伸ばしました。

昨年は(コロナ禍のため)オンラインで現地の算数の授業を拝見し、コメントをさせていただきました。今年度は、まずRSTノートを導入した学校を視察しました。その後で、RSノートと授業を両輪で回していくことが、子どもたちの読解力向上、学力向上、そして先生方の授業への自信や働き方改革につながるという道筋について、先生方に具体的にお話しさせていただきました。(講演の内容は、尾花沢市とほぼ同じです。)

市内で「RSノート」への取り組みをまず進めてくださったのは吉田中学校でした。

中学校は教科担任制です。自分は専門ではない科目のRSノートを見るには、中学校の先生にとって心理的ハードルが高いことと思います。にもかかわらず、取り組みを引受けてくださった吉田中学校の先生方には感謝の気持ちでいっぱいです。

燕市では、もともと自学ノートを作ることには積極的でした。また、毎日の時間割に「長善タイム」が設けられ、学校で自習をする習慣があります。その中でRSノートに取り組む時間を捻出しています。私が視察した木曜日は「イメージ同定」の日、だそうで、どの学年も社会科や理科の指定されたページの指定された資料から言えることをノートに書き出していました。子どもたちはすぐに慣れるもので、RSノートに取り組み始めてまだ2ヶ月経っていないのに、「今日はイメージ同定ですか」とか「具体例同定やってもいいですか」などとRSTの用語を使いこなしているようです。

燕市のように学校でRSノートに取り組む時間を10分でも取れるところは、その間、先生にはぜひ「机間巡視」をしていただきたいです。10分間は短いですので、30秒で日付や指定された教科書の箇所をノートに書き、1分で指定された教科書の箇所を開けるようにしたいですね。子どもたちがさっと始めるように、良い前向きな声掛けをして心を配りたいところです。残りは8分30秒。ポストイットと赤ペンを持って机間巡視をしましょう。

このとき、専門外の教科について正しく指導しなければ、と思うと気が重くなりますが、ポイントを押さえれば、誰でも上手にコメントすることができます。イメージ同定の代表例である「(社会科の)グラフ」の読み取りでは、次のようなことに注意すると上手に特徴を読み取ることができます。

  1. グラフのタイトルを上手に使う。グラフのタイトルが「日本の工業生産にしめる中小工場と大工場の割合」ならば、「日本の工業生産」「中小工場」「大工場」「しめる割合」という言葉を使うと的確な文が書けます。
  2. 縦軸、横軸が何かを意識する。横軸が年、縦軸が生産量(単位はトン)など。
  3. 大きく増えているものに注目し、主語を正しく選びながら、1の「グラフのタイトル」を使って文にする。
  4. 大きく減っているものに注目し、主語を正しく選びながら、1の「グラフのタイトル」を使って文にする。
  5. 量が増えているのか、割合が増えているのか区別する。

このポイントを意識しながら、机間巡視をしつつ声掛けをしましょう。3と4の「増えている・減っている」が書けるようになったら、「どのように増えた(減った)」がわかるように、的確に言葉を補えるようにしたいですね。

「増えた」→「急激に増えた」と書けるようになったら、「急激に」のところに赤丸をし、「『急激に』って書けたね。かっこいいね。すごくいいと思うよ」と励ましましょう。

「急激に増えた」→「1960年代から1990年代にかけて急激に増加した」と書けるようになったら、「「1960年代から1990年代にかけて」や「増加した」が書けたね。すごくわかりやすくなったね」とほめて、赤丸をつけましょう。また、声に出してほめ、クラス全体でも「的確な表現をすることが良いこと」だと、評価の視点が共有されるようにするとよいでしょう。用語の誤り等に気付いたら、ポストイットを貼り、「もう一度考えてごらん」「教科書をよく見比べてごらん」と声掛けしましょう。

このように机間巡視をすると、「増えた・減ったはわかっても、割合なのか総量なのかがわかっていない」「用語が定着していない」など子どもたちの課題が見えてきます。それを授業に活かすと、クラス全体の底上げにもつながります。

燕市での講演会には、はるばる泉大津市から視察の先生方がお越しになりました。泉大津市の指導主事に、燕市の指導主事が「RSTは一校ではなく、全校で取組んだほうがいいです。そうでないと、教員は自信をもって読解力に取り組めません。本当はどの学校に異動しても読解力に取り組み続けられるように、新潟県全体、いや日本全部で導入してほしいです」と力説する姿を見て、胸が熱くなりました。

燕市の先生方、本当に有難うございました。

※写真は、具体例同定に取り組んだ生徒のノートから。本人の許可を得て掲載しています。

 

 

0

相馬市教育委員会で「RSノートづくり」の研修を行いました

教育のための科学研究所では、今年度からRST受検後に返されるフィードバックコメントが一新されたことを受け、リーディングスキルと学力を伸ばしていくための「RSノートづくり」を、受検した自治体や学校にご紹介しています。

今回は、6月28日(水)、第2回相馬市公立学校研究指導員会において、当研究所の上席研究員 目黒朋子 が「RSノートの活用方法 ~受検結果を個別最適な学びにつなげる~」と題し、「RSノートづくり」についての研修を行いました。

※「RSノートづくり」についてはこちらを参照

 その後、相馬市立桜丘小学校の加藤政記教頭より、「読むために書く活動の充実とRSノートへの挑戦 ~家庭学習という作業からの脱却~」と題したお話がありました。
桜丘小学校での教育は、一つひとつがRSを意識して行われており、授業はもちろんのこと、子どもたちのプリントやテストに対しても先生方は常にRSの視点でコメントを返しています。RSが文化として根付いている学校と言えるでしょう。
さらに、桜丘小学校では、家庭学習の「さくらっこ自学メニュー」をRSの視点で見なおし、RST受検後すぐに「RSノート」を実施できるよう準備を進めているとのことでした。

 

研修を受講した先生方からの感想は以下の通りです。

〇RSノートの演習を通して、相馬市が今年度重点としている家庭学習の「5分復習・1分予習」と「RSノート」を関連づけて実施できるのではないかと思った。

〇RSノートをまずやってみようと思った。その前に、フィードバックコメントをしっかり読み、子どもたちの実態を確認していきたい。「ちりも積もれば山となる」の気持ちでやっていきたい。

〇本校では、朝学習に「RSタイム」を設定し、家庭学習は「家庭学習の手引き」で示している。しかし、子どもたちは与えられるままに取り組んでいるだけで、自ら学ぶ意識や方法をもっていない。RSノートを用いて、RSTの受検結果を個別最適な学びにつなげることで、教師が提示しなくても自ら学ぶ子どもたちに育成できるのではないかと思った。他の教員の協力を得ながら自校化を図っていきたい。

〇教員が子どもたちの結果を把握するだけでなく、結果をどう生かすかについて、RSノート作成を通して、個への指導方法や視点を知ることができ、良かった。教科書の読み取り方は、今後も解像度高く行っていきたいと感じた。

〇RSTの結果を学校全体としての授業改善に生かすことはしてきたが、「個別最適な指導」には活用できていなかった。学校としてすぐに取り組んでいきたい。

〇目黒朋子先生のRSノートの取組についてのお話をうかがい、おもしろい取組だと思った。授業では、日々RSの視点で授業を行っているが、それだけでは足りず、家庭学習でもRS向上に向けて何か取り組めないかと思っていたので、ぜひやってみたいと思った。

〇RSノートの有効性が分かった。自校化していくために、予習・復習とどうつなげるのかを学校で話し合っていきたい。桜丘小学校のように、自学メニューとつなげていきたい。 

0

板橋区でRSTの結果の活用方法と「RSノート」の指導をおこないました

RSTでは、2023年度、評価とコメントを一新しました。(能力値の考え方は変わりません。)特に注目していただきたいのが「コメント」です。それぞれの受検者が「今日からどんなことに取り組めばよいか」が具体的に書かれています。

来年、再来年とリーディングスキルと学力を伸ばしていくための「RSノートづくり」を、受検した自治体や学校にご紹介しています。今回は板橋区の研究主任の皆さんを対象に、研修を行いました。

 RSTを受検すると、RSTの6つの項目に関するコメントが受検者にフィードバックされます。学校でも、その内容を把握することができます。このコメントを使って、受検した児童生徒がRSノートを作ります。

まず、最初の方のページにRSTの6つの項目に関するコメントを糊で貼ります。これが、診断に基づく「それぞれの児童生徒が取り組むとよいこと」です。1日に6つの項目をすべてやろうとしては大変です。月曜日は係り受け解析と照応解決、火曜日は同義文判定、のように曜日ごとに取り組むことを決めて5日で6項目を満遍なくやるのもよいでしょう。あるいは、まずは係り受け解析のコメントに全員で取り組み、それができるようになってからは、曜日ごとに1つずつする、というのでもよいでしょう。学校やクラスの実態に合わせながら、1年間をかけて、すべて「できるようになる」ことを目指します。

たとえば、係り受け解析(DEP)や照応解決(ANA)で課題があるときには、音読と視写に取り組みましょう、というコメントがつきます。どんなやり方で取り組むかは、診断結果によって変わります。ただし、かかる時間は5分程度です。

この日は、先生方に持参の教科書を使って、1週間分のRSノートを作ってもらいました。小学校では全教科を担任の先生が教えますが、中学以上はそうではありません。他の科目の教科書を視写してみて、「こんなに難しいの?」と驚かれる方が少なくありませんでした。RSノートを初めて体験してみての、率直な感想が交わされ、多くの質問がありました。

「(デジタル化が進んだ今でも)音読と視写ですか?」「中学生に音読ですか?」との質問がありました。

「今だからこそ」と私たちは考えています。

デジタル化が進んだことによって、家庭では本と新聞が消えました。また同じテレビ番組を家族で見ることも減りました。子どもたちが確実に手に入れることができる字が書いてある文書は、教科書だけ、という家庭も少なくありません。子どもたちが、説明文の書かれ方や読み方に慣れるためにも、各種の教科書を音読し、言葉や言い回しに慣れてほしいのです。その力が、先生が授業中にする説明を「耳で聞いて理解できる」ことにつながります。

また、小学校に比べて中学校の教科書は一気に抽象度が上がることが私たちの研究からわかっています。小学校の国語の教科書を音読できたからといって、中学校の地理の教科書もすらすら音読できるとは限りません。ぜひ、中学生にも高校生にも音読を勧めてください。

かつての学校のように、全員が同じ教科の同じ箇所を音読・視写するのではなく、それぞれの得意不得意に合わせて、様々な教科の教科書を音読・視写するとよいでしょう。社会科と理科、国語と算数・数学では、言葉も言い回しも違うからです。

「数学の教科書を音読して意味があるんですか?」との質問もありました。

音読させてみると、中学校や高校の数学の記号を正しく読めない生徒が少なくないことに気づくでしょう。数学の式を正しく読めないということは、先生が授業中に口頭でする説明を聞いても、頭の中で式につながっていない、ということになります。

「担当以外の科目をやってきたときに、どう指導してよいかわからない」との声もありました。

RSノートは、子どもたちが自己調整能力を身に付けるための自学自習用のノートです。指導しなくては、と身構えるのではなく、励ましてあげてください。惰性でやっている雰囲気が出たら「理科にも挑戦してみよう」「がんばってよく身に付いたね。次のコメントに進んでみよう」など、挑戦を促してください。質問があったら、「数学の先生に質問してみるといいよ!」と明るく送り出してあげてください。

「RSノートをチェックすることで、教員の多忙に拍車がかかるのでは?」とのご懸念もありました。

実は、教員の多忙の原因の大きな部分は、児童生徒が説明文を読み慣れていないことにまつわることが少なくありません。

昭和の時代であれば、「おたより」で持ち物を指定したり、行事の集合場所・集合時間を指定しておけば、ほとんどの子がそのように行動してくれました。「時間割」を渡したにもかかわらず「明日は何をもってくればいいですか」と真顔で聞くような生徒は、いなかったでしょう。高学年になれば多くの子がHBでノートを取れました。だからこそ、45人学級でも学級運営が成り立っていたともいえます。子どもたちを取り巻く環境が激変する中、徐々に、説明が伝わる子とそうでない子の差が開き、教員の多忙に拍車をかけた面があります。リーディングスキル向上に自治体と学校全体で取り組んでいるところでは、(1)中学生全員が50分の授業に集中し、ノートを書くことができている、(2)授業が成立するようになった、(3)「おたより」を読めるようになり、明日の準備ができる子が増えた、などの報告が相次いでいます。RSノートをすることで、それだけの改善が見込めるのであれば、試してみる価値はあるのではないでしょうか。

※音読と視写以外にはどんなコメントがついているかは、RSTを受検して結果をダウンロードしたときについてくる5段階評価コメント一覧のPDFをご覧ください。

 

 

 

0

RSTを導入した企業で研修を行いました。

4年前からRSTを社内研修の一環として導入している上場企業において、中間管理職の方を対象とした研修を行いました。

中間管理職は、部下から上がってくる日報・週報・報告書・企画書・設計書、外部から届いた仕様書・報告書・提案書など大量の「文書」に目を通します。「内容が伝わらない、わかりにくい文書」の割合が多いと、意図や内容を書いた本人への聞き取りや文書添削に多くの時間を割かざるを得ません。そのことが、中間管理職の忙しさに拍車をかけ、生産性向上を阻む隠れた要因になっています。テレワークやDXを進めようとする中で、まさにそこがボトルネックになっている、と悩む組織は少なくないのではないでしょうか。

上場企業のホワイトカラーの圧倒的多数は大卒です。説明文の書き方くらい、学校で学んでいるはず、と思われるかもしれません。しかし、中高では説明文を書く機会はほとんどありません。大学では成績評価のためのレポートはあっても、朱入れや書き方指導までは手が回りません。理系の場合、各研究室で論文指導が行われていますが、年々就職活動期間が長くなり、十分な指導ができないのが現実です。

「内容が伝わらない・わかりにくい文書」に対して、「これでは意味がわからないだろう」「SNSばかりやっていないで、もっと新聞や文学を読め」といった叱責や、逆に、上司が全部書き直してやる、といった対応では、部下はどう修正すればよいのかがわかりません。

今回は、「文章苦手克服のための20時間トレーニング」と題して、(インセンティブがある部下であれば)20時間程度で書き方の向上が見込める具体的かつ定型的指導の方法を伝授し、ご好評いただきました。

実際に「わかりにくい文書」を見せて頂きましたが、RSTの結果と相関しているところが大変興味深かったです。

0

相馬市教育委員会「第2回公立学校研究指導員会」で指導助言を行いました

5月17日(火)に相馬市教育委員会で開催された「第2回公立学校研究指導員会」において、当研究所上席研究員の目黒朋子が指導助言を行いました。

 

相馬市教育委員会では、令和元年度よりすべての小学校6年生から中学校3年生までリーディングスキルテストを受検し(今年度より小学校5年生から)、本テストの実施を通じて子どもたちに必要とされる「読解力」の育成に力を入れ、子どもたち一人ひとりの学力定着・向上を目指しています。
読解力育成の方針は『心豊かに 力強く 生き抜く 読解力向上 「相馬プラン」』にまとめられており、先生方の研修もその「相馬プラン」を基にきめ細かく実施されています。

 

今年度相馬市では、東京都板橋区の取り組みを参考に、小中学校の教科書を読み込み、単元で重要な言葉や児童生徒にとって親和性の低い言葉を拾い出し、「授業お役立ちシート」にまとめ、データベース化する作業が行われています。
さらには、「授業づくりワークシート」(福島県教育庁義務教育課「リーディングスキル向上実践事例集」より)を使って、RSTの6分野7項目の視点から、教科書を解像度高く読み取り、授業に落とし込んでいく取り組みも行われています。

 

今回の指導員会では、小学校5年生の社会科教科書(東京書籍)「これからの食料生産とわたしたち」のP.116~P.117を読み、「授業づくりワークシート」に落とし込んでいくワークショップを実施しました。

目黒からは、折れ線グラフや円グラフを読み取るにはイメージ同定や推論、具体例同定のチカラが必要であること、本文の中に出てくる「その一方」の「その」や、食品ロスについて説明する文の「このうち」の「この」を読み取るには照応解決のチカラが必要であることなど、RSTの6項目の視点から教科書を読むと読みの解像度が高くなり、児童生徒のつまずきに気付けるようになることをお伝えしました。

 

参加した先生方からは、以下のような感想が寄せられました。

・講師のお話は、まさに「目からうろこ」でした。グラフの変化の読み取りも「~と比べて( )倍増えている」など、書き方の手本を示すと、子どものアウトプットする力もぐんと高まること、読み取りも深まることを学んだ。

・あっという間の時間で、もっとお話をお聞きしたいと思った。「教科書を使いたおす」ということを実感するとともに、具体的に6つの視点で読み解くとおもしろいことが分かった。校内の先生方にもすぐお伝えしたい。

・改めて教科書を読み切ることの難しさを痛感し、どれだけ今まで教科書を解像度低く読んでいたかを気付かされた。RSの視点で読もうとすることで、教科書の見え方が増えていく、視野が広がることを確信した。

・「児童目線で読んでいく」ことや、「児童がすると思われる質問」を考えていくことが、より深い学びや、教科書の写真やグラフを深く読み取っていくことにつながることを学んだ。また、一つの文章や語句をRSの視点で読んでいくと、あいまいなものが明確になっていくことも研修できた。

 

 

 

0

板橋区で令和3年度「読み解く力」発表会が開催されました

東京都板橋区では読み解く力の育成を目指して、独自に「板橋 i(あい)カリキュラム」の開発を行っています。12月15日(水)には、令和3年度「読み解く力」発表会が開催され、当研究所所長の新井紀子が講演を行いました。

詳細は以下の板橋区教育広報に掲載されています。
板橋区教育広報107号

0

「板橋の i(あい)カリキュラム」読み解く力 中間報告会が開催されました

東京都板橋区では読み解く力の育成を目指して、独自に「板橋 i(あい)カリキュラム」の開発を行っています。12月3日(木)には、板橋区立文化会館において「板橋の i(あい)カリキュラム」読み解く力 中間報告会が開催され、当研究所所長の新井紀子がパネルディスカッションのファシリテーターを務めました。

 
パネルディスカッションに先立って、板橋区教育委員会の中川修一教育長から、society5.0に向けて、板橋区では言葉の意味を理解して考えるといった人間ならではの優位性を10年間のカリキュラムの中で育成していきたいとお話がありました。


そして、今後の取組として、①板橋区がめざす「読み解く力」について理解する、②教科書で学ばせることをめざす、③6つのリーディングスキルの観点を最低1つは日々の授業に取り入れる、④児童生徒に自分の考えを書かせアウトプットする場面を入れる、⑤日常的な取組として継続していく、ことを行っていくと説明がありました。

 

 次に、板橋区教育委員会の水谷知由統括指導主事より、板橋区の取り組みについて解説がありました。

水谷統括指導主事は、読むことができていない子どもに「教科書を読めば分かる」と指導しても内容を理解できないので、「読んでも分からないかもしれない」と考えて指導するなど、指導観の更新が必要であることを強調されていました。

また、コロナ禍で学校が一斉休校のときに、児童生徒に学習プログラムの提供を行ったところ、一人では十分に学ぶことができず、保護者が付き添わなければならなかったケースもあり、自己学習力・自己決定力の重要性が改めて明らかになったそうです。
そして、授業革新の3つの原則として
①教科の目標の達成をめざす
②子どもたちに教科書を読み取らせる
③この言葉の意味を理解しているか?と疑問をもって授業をする
の3つを常に意識して、主たる教材は教科書であり、教員が教科書を研究して授業を行うことが重要であると述べられていました。

 

続いて、パネルディスカッションでは、板橋区立小学校の校長をはじめ、区内学校の研究主任2名、教員2名、板橋区教育委員会の指導主事1名が登壇し、子どもたちの「読み解く力」を育成するためには、どのような点に注意すべきかが議論されました。

登壇された先生方からは、「指導書から授業をつくるのではなく、一から教科書を読んで授業を作る」「子どもたちに、なぜ?どうして?と問いかける時間を大切にしている」「最後に教科書を開くだけ、という授業から脱却する」「教科書をよく読んで、子どもたちが躓きそうな箇所を調べておく」「指導観の変換は評価観を変えること」といった発言があり、教科書で教えるために普段どのような点を意識されているのかがよく分かりました。

ディスカッションの最後に、教育委員会指導主事からは、先生方が使いやすいと感じるカリキュラムの作成をめざしていく、また、これからの授業研究等を通して「板橋メソッド」を提案したいと発言がありました。

パネルディスカッションのまとめとして、新井からは、板橋区立の学校には1800人の先生がいて、一人ひとりが「教科書を使い倒す授業」を改めて考えることが大切。教科書をもう一度読み直してみてほしい。ここを試験に出す、ここがポイントと思わずに、まずは教科書を読むことを第一歩としてやってみてほしいとアドバイスを行いました。

 

 

今回の中間報告会では、板橋区が新しく作成した板橋のiカリキュラムのパンフレットが配布されました。当パンフレットでは、読み解く力の育成のために、どのように授業改善を行えばよいのかが分かりやすくまとめられています。これをベースに板橋区で読み解く力の育成がさらに進むことが期待されます。(RST事務局)

0

沖縄県教育庁を表敬訪問しました。

教育のための科学研究所所長の新井紀子が沖縄県教育庁を表敬訪問し、金城弘昌沖縄県教育長と意見交換を行いました。

近年、沖縄県では全国学力調査における小学校のA問題はかつてに比べて改善されたものの、中学校で伸び悩んでいるのが悩みとのお話しを伺いました。

学テA問題に課題がある自治体では、A問題に似た算数・国語のドリルを高学年で多用することが多いようです。昨年のPISA調査で日本の読解力の順位が下がったのは「日本の子どもがICT慣れしていなかったせい」との誤った報道もあり、「とにかくタブレットを入れなくては」と考える自治体は少なくありません。

しかし、小中学校で一人一台タブレットを導入し、職員室にプリンターも配置して教員が自由にプリントを印刷できるようにし、エアコンも設置して、ドリルも購入したのに、中学校で伸び悩む自治体が多いのが実情です。

そんな中、「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」をお読みになって、「うちの自治体の子どもたちも、そもそも教科書が読めないのではないか」とRSTをお申込みになられるところが増えています。

RSTの能力値は、中学3年生の国語だけでなく、数学、理科とも0.5~0.7の高い相関があることが各自治体の調査から明らかになっています。また、県立の中間一貫中学校と同じ地域の公立中学校では、やはりRSTの能力値、解ける問題数が大きく異なることがわかっています。このことから、小学校卒業の段階で、どの科目の教科書も確実に意味が分かって読める児童を育てて中学校に入学させること。そして、さらに抽象度が増し、難しくなる中学校の教科書を自力で読んで理解できる生徒を育てる、という基本こそが教育立県のためには大切なのではないか、というお話しをさせていただきました。

小中の教科書は、国により無償で提供されます。財政が厳しい自治体や家庭であっても、教科書は手に入ります。その教科書を100%活用する授業を組み立てること、その授業が浸透するために家庭と協力して普段から子どもたちの基礎的な学ぶ力を耕すことが大切です。

教育指導統括監や義務教育課長も同席され、様々なご質問を頂きました。沖縄の学力向上の一助になれば幸いです。

0

板橋区iカリキュラム「読み解く力」育成への助言を行いました。

板橋区では、幼稚園・保育園から中学校卒業に至るまで、「読み解く力」を中心に据え、ひとりの子どもも取り残さない「iカリキュラム」の策定に着手しました。

2020年9月、板橋区教育委員会で教育長、担当指導主事らが、まず小学校の教科書を徹底的に読み込んだ上で、児童がつまずきそうな箇所をリストアップする作業が始まりました。中川教育長の「教科書採択をするときには気づかなかったが、小学校の教科書はこんなに難しいのかと驚いた。けれども、これを読み解くことができる児童が育てば、本当に素晴らしいことだと思う」という感想を始めとして、指導主事からも「授業にばかり目が行って、こんなに時間をかけて教科書を読みこんだことがなかった。RSTの6項目の観点から教科書を読むと、『あ、ここは具体例同定だ』『ここで問われているのが推論の力だ』ということを実感できた。なぜもっと早く教科書を読み込まなかったのだろう」という声が聞かれました。

板橋区では、小学校の国語と理科は東京書籍の教科書を採択しています。教科書から学習に必須の「学習語彙」をリストアップした上で、その意味を授業中にではなく、それより前に教員が意識して児童の語彙に定着させてから授業を受けさせれば、語彙量が少ない児童であっても、授業の内容が腑に落ちやすいのではないかなど、具体的な方策を活発に話し合いました。

小学2年生上の国語の教科書には、「サツマイモのそだて方」という説明文が取り上げられています。サツマイモの育て方を説明した2つの文を読み、説明の仕方の違いを比較するというかなり高度な教材です。3年生の理科「植物の育ち方」につながる良い教材なのですが、低学年にとっては語彙親密度が低い語彙が並んでいるのが難点です。

語彙の例:五月のなかごろ、なえ、しおれる、やがて、つゆのころ、くき、つる、うね、しげる、えいよう

こうした語彙の意味がわからないと、この教材を理解することは難しいでしょう。でも、国語の時間に「うね」や「つる」「しおれる」を言葉で説明したり、スライドを見せたりしても実感がわかないかもしれません。であれば、むしろ、総合的学習の時間に、実際にサツマイモをこの説明のとおりに育ててみて、秋に収穫をし、「うねをつくる」「たかうねにする」「つるがのびる」様子を観察することで実感をもたせてはどうか、という案も出ました。

住環境等の制約で、植物や生き物を育てる機会がない児童は、板橋区には少なくありません。秋に収穫して食べることができるサツマイモを国語の教科書のとおりに、(あるいは、国語の教科書とは異なる方法で)育ててみて、どれだけ収穫できたかを長さや量で比べることができれば、2年生の算数の「長さ比べ」や3年生の「重さ」にも展開できる内容になります。

「そう思うと、総合的な学習の時間や、教科横断というのが、当たり前のことに思えてきました」「わくわくしますね」という声が上がる、良い話し合いの場が持てたと思います。

今後も、教科の枠を超えて、「読み解く力」「学ぶスキル」を向上させるための板橋区のカリキュラム構築を応援していきたいと思います。

写真:下は「新しい国語 二上」(東京書籍)86~87ページ、上は「新しい理科 3」(東京書籍)38~39ページ

 

参考:新井紀子所長が2020年5月にサツマイモの端から「リボベジ」で育てたサツマイモの様子

東京書籍「サツマイモの育て方」の2つ目の説明の「ひりょうを やりすぎると、くきと はだけが のびて しまい」に従って、肥料はやっていません。ちなみに1つ目の説明は、いわゆる「豊かな表現」なのですが、土や苗の選び方が具体的ではなく迷うことが、実際に育ててみるとよくわかります。

0