活動報告
RSTを導入した企業で研修を行いました。
4年前からRSTを社内研修の一環として導入している上場企業において、中間管理職の方を対象とした研修を行いました。
中間管理職は、部下から上がってくる日報・週報・報告書・企画書・設計書、外部から届いた仕様書・報告書・提案書など大量の「文書」に目を通します。「内容が伝わらない、わかりにくい文書」の割合が多いと、意図や内容を書いた本人への聞き取りや文書添削に多くの時間を割かざるを得ません。そのことが、中間管理職の忙しさに拍車をかけ、生産性向上を阻む隠れた要因になっています。テレワークやDXを進めようとする中で、まさにそこがボトルネックになっている、と悩む組織は少なくないのではないでしょうか。
上場企業のホワイトカラーの圧倒的多数は大卒です。説明文の書き方くらい、学校で学んでいるはず、と思われるかもしれません。しかし、中高では説明文を書く機会はほとんどありません。大学では成績評価のためのレポートはあっても、朱入れや書き方指導までは手が回りません。理系の場合、各研究室で論文指導が行われていますが、年々就職活動期間が長くなり、十分な指導ができないのが現実です。
「内容が伝わらない・わかりにくい文書」に対して、「これでは意味がわからないだろう」「SNSばかりやっていないで、もっと新聞や文学を読め」といった叱責や、逆に、上司が全部書き直してやる、といった対応では、部下はどう修正すればよいのかがわかりません。
今回は、「文章苦手克服のための20時間トレーニング」と題して、(インセンティブがある部下であれば)20時間程度で書き方の向上が見込める具体的かつ定型的指導の方法を伝授し、ご好評いただきました。
実際に「わかりにくい文書」を見せて頂きましたが、RSTの結果と相関しているところが大変興味深かったです。
北海道八雲町教育委員会で講演を行いました
7月27日(水)、『令和4年度八雲町確かな学び推進会議「八雲町学びセミナー」』において当研究所上席研究員の目黒朋子がオンラインで講演を行いました。
八雲町教育委員会では昨年度より小学6年生から中学3年生まで(今年度は小学5年生から中学3年生まで)悉皆でRSTを受検しており、今回の講演は、昨年度に引き続き行われたものです。
講演では、まず、昨年度と今年度の受検結果を比較したデータ分析について説明を行いました。
すべての学年で能力値に伸びがみられましたが、箱ひげ図を見ると、それぞれの分野の分散が大きいことが分かりました。
苦手分野(5段階評価の1)を持つ児童生徒がいることも考え合わせると、分散を少なくし、中央値をあげていく必要があることも分かりました。
講演では、学年ごとの分析結果について解説しましたが、児童生徒の個別のデータについても各種学力調査の結果とRSTの受検結果の相関を見るなど、分析結果を指導の改善に反映させていくことも重要であることをお伝えしました。
次に、板橋第二小学校の山田禎文先生が考案した授業案をもとに、リーディングスキルを活用した授業づくりについて説明を行いました(下記リンク先参照)。
使用した教科書は「小学社会5」(教育出版)の156~157ページです。教科書見開き2ページには、本文だけではなく、写真やグラフなどの資料、問い、コラムなどが載っており、それらの多様な情報を本文と結び付けて読み解く必要があります。
大学共通テストにおいても、あらゆる科目で図や文章などの複数の情報を踏まえて関連を読み解く問題が増えています。小学校の段階から、教科書見開き2ページの内容をリーディングスキルを使って読み解き、自らの考えをまとめていく訓練が必要であることは言うまでもありません。(参照:板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。)
リーディングスキルは学習の基盤となる“学習スキル”の一つです。児童生徒がリーディングスキルを生かして問題解決できる授業づくりを「教科書」を使ってすべての教科で取り組むことが重要であることをお伝えしました。
最後に、目黒から、ねらいを考えずに、子どもと同じ気持ちで教科書の文章に向かい、教員一人ひとりが「教科書を使い倒す授業」を改めて考えることを日々の授業づくりの中で行ってほしいとアドバイスしました。
○板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。(2020年12月5日)
いわき市総合教育センターで講演を行いました
7月25日(月)、いわき市総合教育センターの「授業改善講座」において当研究所上席研究員の目黒朋子が講演を行いました。
講演では、「リーディングスキルを育むための授業づくり」と題し、RSTの6分野7項目についての説明と、目黒が主宰している「rst-laboふくしま(通称:F-Labo)」での様々な実践発表を例に、「リーディングスキルを活用した授業づくり」とは具体的にどういうことなのかをお伝えしました。
そして、教員が教科書の文章やグラフや図をRSTの6分野7項目の視点で読むことは、「子どものつまずきや困難さを予測できる」⇒「教員の指示や発問が変わる」⇒「授業が変わる」という授業改善に結びつくことをお伝えしました。
講演の後には、「授業づくりワークシート」(福島県教育庁義務教育課「リーディングスキル向上実践事例集」より)を使ったワークショップを行いました。
先生方には、実際の教科書を読み、「授業づくりワークシート」の「親和性の低い(なじみのない)言葉」、「音読の際の注意点」、「RST(6分野7項目)の視点」の各項目に落とし込んでいくという作業を行っていただきました。
今回の講座の「めあて」は、「脳に汗をかく」というものでしたが、「久しぶりに頭をフル回転させ、脳に汗をかいた。」、「教科書の活用の仕方も理解できた。」、「まずは自分自身が解像度高く教科書を読めるようにしたい。」、「演習を行うことで、読み解く際の子どもの立場からのつまずきがわかった。」、「リーディングスキルについてさらに学びたい。」、「新井紀子先生の著書を読んでみたい。」などの感想が寄せられました。
当日の様子は、いわき市総合教育センターのウェブサイトにも掲載されています。
○いわき市総合教育センター
授業改善講座「リーディングスキルを育むための授業づくり」
島根県立横田高等学校で講演を行いました
6月27日(月)に島根県立横田高等学校において、当研究所上席研究員の目黒朋子が「AI時代に求められるリーディングスキルとは」と題した講演を行いました。
横田高校では、学校全体で読解力の向上のための体制づくりを行い、すべての教科でRSTの結果分析に基づいた学習指導を行っていくという計画のもと、昨年度は1・2年生が、今年度は全学年の生徒と先生方がRSTを受検しました。
講演では、まずAIの特徴やRST開発の経緯をお話し、AI・DX時代になぜ読解力が求められるのかを昨年度の数学の共通テストを示しながら説明しました。また受検結果の分析方法を紹介するとともに同校の生徒の結果について、具体的にデータをグラフに表し解説しました。特に、分散が大きい分野については、日々の授業の中で読解力を育成する観点を入れて授業を行い、分散を小さくし平均を挙げていくことが大切だとお伝えしました。
次に、教員が「解像度高く教科書を読む」ということはどういうことなのか、実際の教科書の文章を提示して、RSTの6分野7項目のどのスキルを使って読めばよいのかをお伝えしました。また、教科書は教科による独特な表現もあり、生徒によってそれが読解を困難にしている可能性があります。特に、高校の場合には、先生方の専門性が高くなるため、他教科の教科書を読むことは少なく、生徒の困難さを理解できない可能性があることもお伝えしました。
最後に、板橋区教育委員会や福島県教育委員会で実践されている、授業実践事例について紹介し、授業をRSの視点で構築していく具体的なイメージを持っていただきました。そして、生徒の実態に寄り添いながら、「間違えた」→「なぜ間違えた?」→「こうすれば間違えない」の流れをスキルとして身に付けさせ、その指導を積み重ねていくことが、頑健な汎用的読解力の育成のためには重要であることをお伝えしました。
早速、先生方は職員室に来室する生徒への言葉掛けを話題にして、「意味が一意になっているか。」、「生徒に最後まで言葉を言わせているか。」など、まずは教員が言葉に敏感になる必要性があると話し合っているとのことです。
F-labo 6月例会を開催しました(rst-laboふくしま)
6月26日(日)にrst-labo ふくしま(通称:F-labo)の6月例会が郡山市安積総合学習センターで開催されました。
F-Laboでは、福島県内の小学校から大学まで多くの先生方がリーディングスキルについて自発的に学び合いを行っています。現在はコロナ禍のため、オンラインによる配信も行っており、県外から参加してくださる先生方も増加しています。
今回のF-laboでは、RSTへの取組について、3つの教育委員会から発表がありました。
最初に、塙町教育委員会の有馬光一指導主事から、「リーディングスキルに関する塙町の取組」と題してお話をいただきました。塙町でリーディングスキルに関する取組が始まったのは、秦(しんの)教育長が令和元年の全国町村教育長会議で当研究所所長・新井紀子の講演を聞いたことがきっかけだったとのことです。
その後3年間、すべての小学校・中学校でRSTを受検し、その分析に基づく学習指導を行っています。町全体が一枚岩となって取り組んでいることにより、徐々に成果も上がってきており、全国学力学習調査やRSTの結果にも表れてきているとのことでした。また、RSTを受検したメリットとして、
・エビデンスデータを全学年持ち、共有できる。
・全教科、全教科書でRSを意識した取組ができる。
・授業改善に取り組んでいく際、教科の壁を越えてRSの視点で話し合うことができる。
などを挙げられ、塙町では今後も各園、各小・中学校の教職員が一丸となって子どもたちのリーディングスキル育成に取り組んでいきたいとのことでした。
次に、西会津町教育委員会の五十嵐正彦学校教育アドバイザーから、「西会津町における読解力(RS)向上の取組」と題してお話をいただきました。
五十嵐先生は、西会津中学校の校長時代から4年にわたり読解力向上に関わっており、試行錯誤を繰り返しながら以下の3点を中心に読解力向上に向けて取り組んできたとのことでした。
1 「RS」を意識した授業の実践
・全教科でRSを意識した授業を実践する。
・各教科の年間指導計画にRSを明記する。
2 「認知機能」を育てる「朝トレタイム」の実施
・ゴグトレ(覚える・数える・写す・見つける・想像するための認知機能を強化するトレーニング)を朝の5分間で実施。
3 「熟読」を核とした「読書活動」の実践
・「ビブリオバトル大会」の実施⇒令和3年福島県大会で優勝
授業では、本来授業のねらいを達成することが第一の目的です。そのため、ねらいを達成しつつRSも向上するのが理想です。3年間実践していく中で、「RSを意識した授業を行うことで生徒の理解が深まって」さらに「そのような授業の積み重ねによりRSも身についている」ことを実感しているとのことでした。令和3年度からは、中学校だけではなく、保・小・中を通した読解力育成に取り組んでいるそうです。
最後に、相馬市教育委員会の青田雅子指導主事から、「令和4年度 相馬市の取組について」と題してお話をいただきました。今年度の相馬市教育委員会の取組は以下の通りです。
・「相馬プラン」で今年度の取組を示す。
・「相馬メソッド」により、子どもたちの読解力向上と学力向上のために必要な、授業改善ポイント(8つの視点)を示す。
・「授業お役立ちシート」を基に、子どもたちにとって親密度の低い言葉や、つまずきやすい言い回しをデータベース化する。
・「RSやってみましたシート」にRSの視点を意識した実践を記入し、それをデータベース化する。
・RST便り「サポートRST」を昨年に引き続き発行する。(昨年度は全10号発行)
・担当指導主事による授業参観・指導助言を実施する。
・公立学校研究指導員会(各校より1名推進リーダーと、校長会代表1名、教頭会代表1名が参加)を年6回程度開催し、RSTの分析、授業実践発表、成果検討を行う。
・小・中学校長会議でRSTに関する情報共有を行う。
相馬市では、2020年当研究所所長の新井紀子が相馬市で講演を行ったことにより全市挙げてのRST受検が始まりました。3年目を迎える今年は、何とか結果が出せるように、一丸となって授業改善に取り組んでいくとのことでした。
F-laboのロゴマーク。たちあおいの花言葉:「大望」「豊かな実り」。