ブログ

タグ:RST

「メジャーリーグ問題」(メジャーリーグ構文)とは?

「メジャーリーグ問題」または「メジャーリーグ構文」とは、リーディングスキルテスト(RST)の6分野7項目のうち、「イメージ同定」のスキルを測るために考案された、特定の問題を指します。なお、「メジャーリーグ問題」や「メジャーリーグ構文」という呼称は通称であり、学術的な名称ではありません。

「イメージ同定」とは、文と非言語情報(図表など)を正しく対応させる力を指し、従来の「読解力」の文脈では、必ずしも明示的に診断・評価されてこなかったスキルです。

以下が、「メジャーリーグ問題」と呼ばれている問題です。

メジャーリーグ問題(リーディングスキルテストからのオリジナル画像)

出典は、2016年発行の「中学生の地理」(帝国書院)の81ページです。

この問題は、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子著、東洋経済新報社、2018年)で紹介され、その後、テレビ(ワイドナショー等)やインターネットメディアで繰り返し取り上げられました。その際、日常的に流暢に日本語を使いこなす方々が、右下の図(アメリカ合衆国が28.0%、ドミニカ共和国がおよそ35%と示された図)を選択する例が見られ、話題となりました。

この問題は、提示文の「メジャーリーグの選手のうち28%はアメリカ合衆国以外の出身である」という記述を正しく読み取り、人数ではなく割合について述べられていることを理解できれば解くことができます。したがって、アメリカ合衆国が約72%と示されている図(右上)以外は条件を満たしません。

正解は右上の図のみです。

しかし、中学生および高校生を対象とした大規模調査では、中学生の正答率は12%、高校生でも28%にとどまりました。

この問題には次のような特徴がありました。

  1. 「識別力が高い」:この問題は、能力値が高くなるにつれて正答率が急激に上昇する特徴を持っています。能力値0(偏差値50)では正答率が10%を下回っていますが、能力値0.8(上位約21%)で正答率が約5割に達します。能力値が1.4(上位約8%)になると正答率が約8割に達します。したがって、中位層と上位層を分離する上で、非常に有効な問題であることが確認されています。
  2. 「悪文とはいえない」:仮に文自体が理解困難な「悪文」であれば、高い能力を持つ受検者であっても誤答が増え、識別力は低下するはずです。しかし、この問題では高い識別力が観測されています。したがって、少なくとも一般的な意味において、この文を悪文とみなす根拠はありません。
  3. 「否定文は中位層には認知負荷が高い」:この問題の要点は、「28%はアメリカ合衆国以外」という記述を正しく処理し、アメリカ合衆国出身者がおよそ70%であると把握することにあります。否定表現の理解と簡単な数量処理を同時に行う必要があるため、中位層にとっては認知負荷が高くなります。

以上のように、この問題は「事実について書かれた短文を正確に読み取り、それを図表と対応させる力」を測るRSTの設問として、特に中位層と上位層を識別する上で有効であることが、データに基づいて示されています。

リーディングスキルテストでは、このように、教科書や新聞、辞書・事典などを出典とし、人間による数段階のレビューを経て、かつ基準値を超えた識別力を有する問題を出題しています。

「メジャーリーグ問題」は、「アミラーゼ問題」などと共に、藤田医科大学 2026(令和8)年度入学試験問題保健衛生学部 推薦試験問題(看護学科・リハビリテーション学科)「小論文」で出題されました。

リーディングスキルテスト(RST)とは何かについては、こちらで詳しく解説しています。

 

「アミラーゼ構文」とは?

(最近、メディアから「アミラーゼ構文について教えてほしい」という要望が多く寄せられるので、この記事で解説します。)

「アミラーゼ構文」とは、リーディングスキルテスト(RST)の6分野7項目のうち、文の構造を正確に把握する能力(係り受け解析など)を測るために考案された、特定の問題を指します。ただし、「アミラーゼ構文」という呼称はネットミームであり、学術上そのような構文が存在するわけではありません。

以下が、「アミラーゼ構文」と呼ばれている問題です。

アミラーゼ問題(アミラーゼ構文)、リーディングスキルテストからのオリジナル画像

 正解は「デンプン」です。中高生を対象とした大規模調査での正答率は16.3%でした。

出典は、東京書籍「新編生物基礎」(19ページ、2016年)で、ちょうど高校入学したての4月ごろに学ぶ箇所からの引用です。

この問題が最初に紹介されたのは、「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」(新井紀子著、東洋経済新報社、2018年出版)で、それ以降、フジテレビのワイドナショーやAbema Prime、NewsPicksなどで度々取り上げられる度に、日頃流暢に日本語を使う、MCやアナウンサーの方々が誤ってアミラーゼまたはグルコースを選択することでも話題になりました。

この問題はこれまでリーディングスキルテストにおいて項目応答理論に基づき数千人に出題されてきました。その結果から、次のような特長がわかりました。

  1. 「習ったかどうか」と「読めるか」の間に関係がない:この内容を未習の中学生と、既習の高校生以上の受検者との間で、解答行動に差は見られませんでした。よって、「習っていなければ読めないはずだ」という説明は、このデータからは支持されません。
  2. 「識別力がとても高い」:この問題は、能力値が高くなるにつれて正答率が急激に上昇する、識別力が高いという特徴を持っています。難易度は1.08、識別力は0.87であり、能力値1(偏差値60、上位約16%)では正答率が約50%なのに対して、能力値2(偏差値70、上位約2.3%)では約90%に達します。したがって、読解力上位層と最上位層を分離する上で、非常に有効な問題であることが確認されています。
  3. 「悪文だとはいえない」:仮に文自体が理解困難な「悪文」であれば、高い読解力を持つ受検者であっても誤答が増え、識別力は低下するはずです。しかし、この問題では高い識別力が観測されています。したがって、少なくとも一般的な意味において、この文を悪文とみなす根拠はありません。

以上の通り、この問題は「事実について書かれた短文を正確に読み取る力」を測るRSTの設問として、特に読解上位層の中でも、最上位層とそれ以外を識別する上で有効であることが、データに基づいて示されています。

リーディングスキルテストでは、このように、教科書や新聞、辞書・事典などを出典とし、人間による数段階のレビューを経て、かつ基準値を超えた識別力を有する問題を出題しています。

「アミラーゼ問題」は、「メジャーリーグ問題」などと共に、藤田医科大学 2026(令和8)年度入学試験問題保健衛生学部 推薦試験問題(看護学科・リハビリテーション学科)「小論文」で出題されました。

リーディングスキルテスト(RST)とは何かについては、こちらで詳しく解説しています。

 

「アレクサンドラ構文」とは?

(最近、メディアから「アレクサンドラ構文について教えてほしい」という要望が多く寄せられるので、この記事で解説します。)

「アレクサンドラ構文」はネットミームの一種です。学術上は「アレクサンドラ構文」という構文が存在するわけではありません。「アレクサンドラ構文」は、リーディングスキルテストの6分野7項目のうち、文の構造を正確に把握する「係り受け解析」の能力を測るために考案された以下のテスト問題を指すようです。

 

アレクサンドラ構文(アレクサンドラ問題)、リーディングスキルテストからのオリジナル画像

 

正解は「Alex」です。

「Alexandraの愛称は(Alex)である。」

問題文は特に長いわけでも、専門性を要求するわけでもありません。読めばわかるはずの文章です。ところが、中学生の正答率は38%に過ぎませんでした。

この問題の正答率の低さへの驚きや危機感から、この問題に「アレクサンドラ構文」という名称がネット上でつけられたと考えられます。例文として、「アレクサンドラ構文も読めないような人が多いから、SNS上でのいざこざが絶えないのではないか」などがあります。

この問題が最初に紹介されたのは、「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」(新井紀子著、東洋経済新報社、2018年出版)です。「アレクサンドラ問題」の中学1年生~高校3年生までの正答率は以下の通りでした。

中1

(n=68)

中2

(n=62)

中3

(n=105)

中学生平均

(n=235)

高1

(n=205)

高2

(n=150)

高3

(n=77)

高校生平均

(n=432)

23% 31% 51% 38% 65% 68% 57% 65%

注意が必要なのは、中学生に比べて高校生の正答率が飛躍的に伸びているように見える点です。

残念ながら、中学生よりも高校生の方が正しく読めている、ということはありません。いくつか公立中学校で調査をすると、中学生のランダムサンプルに近いデータを取ることができます。一方、高校は入試があるため、同じ方法ではランダムサンプルは取れません。上記の結果は、「県立高校の上位3校程度の中での平均値」だとお考えください。

リーディングスキルテストの過去50万人のデータから、リーディングスキルテストの6分野7項目の能力は、どれも、小学5年生から中学3年生まではゆるやかに上昇します。一方、高校入学以降はどの高校でも(現状の教育では)上昇しないことがわかっています。(詳しくは、「シン読解力」(新井紀子著、東洋経済新報社、2025年)をお読みください。)

このことから、「アレクサンドラ構文」の成人日本人の正答率は50%を下回ると推定されます。

では、正答のAlexを選ばなかった人はどの選択肢を選んだのでしょう。

中学生の39%が「女性」を選んでいます。正答を選んだ38%よりも多いです。

つまり

「Alexandraの愛称は(女性)である。」

が正解だと思ったことになります。なぜそのようなことになったのかについては、いくつかの考察がありますが、最も説得力があるのは、こうです。

まず問題文である「Alexandraの愛称は(   )である」を見て(×読み)、提示文から似たフレーズを探す。すると、「女性の名Alexandraの愛称であるが」が見つかる。2つを比較すると、どちらにも「Alexandra, 愛称」という文字列があるのに、問題文には「女性」という文字列がない。よって、空欄を「女性」で埋めればよい、と考えたのではないか、という推測です。これを、プリント教育偏重による弊害と見る人もいますし、本当にこうした説明文を読むスキルが欠落しているのではないか、と考える人もいます。

多くの先進国では、97%以上の人が文字の読み書きができると言われています。一方で、OECDのPIAAC(成人スキル調査)によれば、説明書や行政文書、ビジネス文書などを高度に読みこなせるレベル5以上は、日本では1.2%程度、フィンランドでは2.2%程度、アメリカでは0.6%程度に過ぎないと言われています。

一方、低スキル(レベル1以下)の成人は、日本では4.9%、フィンランドでは10.7%、アメリカには17.5%もいると推定されています。特に、レベル1以下の割合が大きいアメリカ、イタリア、フランスなどでは、説明文の読解力が低いことで、社会生活で不利益を被る「機能的非識字」が社会問題化しているようです。 

リーディングスキルテスト(RST)とは何かについては、こちらで詳しく解説しています。

 

教科書を中心に据える授業の良さ(学びの空間のフェアネスの観点から)

今、学校では、「教科書を中心に据えた授業」はほとんど行われていません。その問題点を、学びの空間のフェアネス(公正さ、公平さ)の観点からお話ししようと思います。

そもそも「教科書を開かない授業」がどこでどのように始まり、広まったのかはよくわかりません。1970年代くらいまでは教科書を開いて授業をするスタイルが主流でしたので、1980年代以降のどこかではないかと考えられます。

教科書を開かない授業の最大の問題点は、教師の知識や創意工夫と、学習者の狭い経験知に、正しさの根拠が委ねられてしまうことにあります。教師の創意工夫が、学習指導要領の中に正しく位置付けられる、科学的なものであればよいのですが、現状は必ずしもそうではありません。むしろ非科学的で思い込みに基づく授業を、管理職や評価者が「工夫があってよい」と評価する場面に何度も出くわしました。

そのような授業では、子どもたちは正しさの根拠を「教師の考え」に求め、教師の顔色を窺って物事を判断し、学びの空間からフェアネスが失われがちになります。例えばある4年生の授業でこんなことがありました。

先生「夜空にはたくさんの星が光っているけれど、実は星の光が地球に届くまで何万年もかかることがあるんですよ。」

児童A「太陽はどうですか?太陽の光も地球に届くまでに時間がかかりますよね」

先生(困惑して)「さぁ、太陽はどうかな・・・」

児童B「今先生は星の話をしてるんだよ。太陽は関係ない。太陽は今光ったに決まってる」

他の児童「そうだよ。太陽は今光ったんだよ。Aはバカだな」

(先生、児童たちの声を制止せずに、曖昧に授業を続ける。)

光の速度は一定ですから、当然太陽から地球に光が届くにも時間がかかります。約8分19秒です。このケースでは、教師がそのことを理解しないまま、星の光が地球に届くのにかかる時間の話題を取り上げ、失敗したケースです。(ちなみに速さと時間と距離の関係は、5学年(当時は6学年)で学ぶ内容なので、4年生には自力解決できない内容です。)ただ、それ以上に問題なのは、教師を困惑させた児童を他の児童が責め、学びの空間がアンフェアになった点です。こうしたことは、多くの教室で大なり小なり日常的に起きており、ほとんどの場合、見過ごされています。

「自分で問題を考えて、自分で解いてみよう」という算数の授業で、円に内接する正三角形の一辺の長さを求めようとした児童に対して、教師が「もっとよく考えてごらん」という場面に出くわしたこともあります。平方根や三平方の定理を学ばないと求めることができない長さですから、小学生には無茶な課題です。

このように、教科書を読み解かずに進める授業では、「何を根拠として物事を考えればよいか」に関するフェアネスが欠如しがちになるのです。

***

2024年秋に行われた「RSフォーラム」で授業実践をした、会津美里町立高田小学校の井上雄騎先生の授業では、聖武天皇による大仏づくりについて、東京書籍「新しい社会6(歴史編)」の30-31ページの本文と資料を読み解くことが中心に据えられていました。その中で、「大仏が光っているから、金でできているんじゃないか」という児童の発言に対して、他の児童が、「本文に、『金銅の大仏』と書いてあるので、金だけでできているわけではないのではないか」とか、「資料5に『大仏づくりで使った金属の量』が書かれていて、使われた金が440kgに対して、銅が499トンなので、金の占める割合はとても小さい」などと指摘するのが印象的でした。教科書の資料に基づいて議論するやり方を教え、実践することは、フェアな学びの空間を保証することにつながります。このような空間は、空気を読むのが苦手なタイプの学習者にとっても、安心して学べる場になることでしょう。

「教科書」は子どもたちが身に付ける「学習言語」の手本として、優れた書物です。しかも小中学校では全員に無償で提供されます。そして、教科書から読み解いたことを根拠にして議論を進めることで、(教師の表情や声音に正解を求めるのではない)フェアな学びの場を創り出すことができます。

「教科書を使いきった!」と教師も学習者も満足するフェアな授業について、改めて考えてみませんか?

シン読解力

 

追記:

「教科書を中心に据える授業」とは、「教科書を絶対的に正しいものと前提とする授業」とは異なる、ということを追記しておきたいと思います。

教科書というと、戦前の国定教科書の問題、1960年代の教科書裁判、1970年代以降の教科書論争が想起され、「教科書に書かれていることが正しいかどうかなどわからない」というご意見もあるでしょう。ただ、それは教科書に限られることではなく、ウェブや新聞の情報でも同じことが起き得ます。

では、「教科書を中心に据える授業」はなぜ、相対的にフェアだと言えるのでしょう。それは、教科書に書かれた本文や資料は、授業に参加している全員(教師・学習者)が対等に参照できるからです。また、1回の授業が、教科書見開き2ページで進む、ということを授業に参加する全員が知っていれば、教師と学習者の間に、活用できる情報に関する非対称性は生じません。

一方、教師の頭の中にある「正しさ」は本人以外は参照できません。教師と学習者の間に、情報に対するアクセスに関する圧倒的な非対称性があり、それが、学びの空間のフェアネスを損なうのです。

シン読解力の「オーバーアチーバー」と「アンダーアチーバー」

知能テストの結果(IQ)は学力と正の相関があることが、知られています。IQのレベルに対して学力が高い人を「オーバーアチーバー」、IQのレベルに対して学力が低い人を「アンダーアチーバー」といいます。

リーディングスキルテスト(RST)の能力値と学力でも、「オーバーアチーバー」(RSTの能力値で期待される以上の学力を発揮する受検者)と「アンダーアチーバー」(RSTの能力値で期待される学力を発揮できていない受検者)がいます。

図で解説しましょう。これはRSTの能力値とテストの結果の相関係数が0.6だったときの例です。

オレンジの点はRSTの能力値に比べて学力が高い、典型的なオーバーアチーバーです。水色や緑色の点はRSTの能力値に比べて学力が低いアンダーアチーバーです。

リーディングスキルテストの能力値を横軸、学テの正答率を縦軸にとった散布図の例。オレンジがオーバーアチーバーを表している。緑はアンダーアチーバーを表している。
アンダーアチーバーが実力を発揮できていないのには多様な理由があります。家庭環境かもしれませんし、単に今他に夢中になっていることがあるだけかもしれません。成績や行動に現れるので、先生も保護者も気づくでしょう。

一方、オーバーアチーバーは、努力家で、成績が良く、生活態度・授業に向かう姿勢なども良好なので、教師や保護者もサインを見逃しがちです。オーバーアチーバーの多くは、シン読解力不足により小学校高学年から大学入試のどこかの時点で学力が伸び悩み始めます。努力家のオーバーアチーバーは、学習時間を増やしますが、それでも成績を維持できなくなります。その様子を端的に示したのが次の図です。

学年を上がるにつれ、オーバーアチーバーはRSTの能力値相当の学力に落ち着くことが縦断調査から確認された。

こうならないうちに、早めに、読み解き方の軌道修正をしてあげましょう。

IQは後天的に改善できなくても、シン読解力は科学的なトレーニングや、RSTの6つの分野を意識した授業により改善することが多くの学校の取り組みからわかっています

リーディングスキルテストを受検することで、クラスの中で見逃されがちなオーバーアチーバーを早期に発見し、オーバーアチーバーの心が折れる前に、支援してあげてください。支援の方法は、RST受検後の学習アドバイスを参考になさってみてください。学習アドバイスの具体的な実行方法については、『新井紀子の読解力トレーニング』(東京書籍)でも詳しくご紹介しています。

 

板橋区「読み解く力」で学力向上

2025年2月20日、板橋区教育委員会にて、令和6年度「読み解く力」推進委員会(第4回)が開催され、その中で、令和6年度の全国学テにおいて、板橋区の小中学校が、全国平均を大きく上回り、都の平均並みになったことが報告されました。

板橋区といえば、2017年に出版された『東京23区教育格差』(昼間たかし、鈴木士郎/マイクロマガジン社)で、「東京都学力テストの結果によると、区ごとに学力差が生じており、学力上位グループは、平均年収の高い区(港区、千代田区、渋谷区など)、下位グループは平均年収の低い区(足立区、板橋区、北区など)と、ほぼ一致していた」と名指しされた区のひとつです。

板橋区では、2018年度から、全小中学校でリーディングスキルテスト(RST)が導入し、「読み解く力」推進委員会を立ち上げ、研究指定校で「(教科書を)読み解く」を研究するとともに、クラス内格差を縮めるために、視写、音読、中学校も含めた授業の「めあて」の設定、めあての「共書き」、板書の聴書などに取り組んできました。また、RSTの6つの分野を意識しながら授業をすることを心がけてきました。その結果、大幅な学力向上と格差の圧縮に成功したのです。平均年収による学力格差は乗り越え得ることを示してくださった板橋区の先生方に敬意と祝意を表したいと思います。

板橋区で取り組んだ「読み解く力」を、わかりやすく12章にまとめたのが、『新井紀子の読解力トレーニング』(東京書籍)です。ぜひ参考になさってみてください。

 

『新井紀子の読解力トレーニング』送付のご案内

 

多くの学校が、「自ら学び、自ら活かす子」を教育目標に掲げています。ところが、「どのように学ぶか」「学んだことをどう活かすか」の方法を、体系的に指導している学校や先生はまれです。「自ら学ぶ」ことの大切さや良さを強調するだけでは、「自学」を身に付けさせることはできません。結果的に、資質や家庭環境等によって、偶然「自学の方法」を身に付けた子だけが、「自ら学び、自ら活かす子」に育つのが現状です。

どの子にも「自ら学び、自ら活かす」力を付けるには、体系的なトレーニングが必要です。

『新井紀子の読解力トレーニング』(東京書籍)では、「ページを開く」「視写の仕方」などの基本から始め、「社会科のグラフの特徴を文章でまとめる」「算数の証明を書く」まで全12回でトレーニング方法を詳しく解説します。小中学生も楽しく読めるようにイラストやレイアウトにも工夫しました。紙上のクラスメートである、コンカワさん(キツネ)、コアラダさん(コアラ)、クマヤマさん(クマ)、ウサギノさん(ウサギ)と一緒に、教科書やノートを開いて取り組めるようになっています。登場する4人は小学5年生という設定ですが、ここで紹介する読解力トレーニングは、中学生にも有効です。

本書を2024年にRSTを受検してくださったすべての小中学校にお送りしました。

ぜひ、小中学校の先生にもご一読いただき、「体系的なトレーニングを通じた読解力向上」を授業や朝時間に取り入れていただければ幸いです。

 

 

【動画あり】読解力がなぜ必要か?AI時代の読解力(角川ドワンゴ学園)

11月30日(木)に、角川ドワンゴ学園STEAM系女子プログラムにおいて、弊所代表理事・所長の新井紀子が「読解力がなぜ必要か?AI時代の読解力」と題して講義を行いました。

講義は、角川ドワンゴ学園N高等学校・S高等学校・N中等部の生徒さんを対象に、学習を進める上で必要となる「読解力」とは何か、自身が効果的に学習できているか、また現在効果的に学習できていないとして、今後どうやって高めていくか...など、AI時代に必要な「読解力」について扱っています。

講義の内容は、下記のN高等学校・S高等学校のYouTubeチャンネルで視聴いただけます。

大学初年次教育での取り組み

毎年1年生全員がRSTを受検する都内のとある社会科学系学部があります。

担当のI教授にRST継続の理由やその活用方法をお尋ねしたのでご紹介します。

I教授はその大学の必修の初年次教育の講義を担当されています。人数は毎年250名程度です。その講義の一回目でRSTを全員が受検するそうです。受検し終えたら「評価(フィードバック)を必ずスマホで撮影する」ことを義務づけています。スマホの画面を見ながら、各自、自分の読解のどこに課題があるかを把握するのが一回目の講義の目標です。

その後も、「フィードバックの内容を踏まえながら」日経新聞の記事を読むことを課題として課し続け、読解力を上げることで大学の講義やゼミについていけるようになろう、資格試験に合格できるようになろう、と目標を掲げてトレーニングを奨励しつづけるとのことです。

そして、最後の講義でもう一度学生たちはRSTを受検します。成績に加味されるということもあり、真剣に受検するそうです。「二度目の受検結果は、一度目より有意によくなっています」とのこと。

「RSTを受検できてよかった」という学生のコメントが多いので、毎年受検を続けている、というのも興味深い点です。RSTは45分、相当に集中して解かなければならないので、小中学生だけでなく大学生や大人の中にも「疲れる」との感想を漏らす受検者は少なくありません。ですが、「自分の読解力を診断してもらえる機会は他にないので、受検してよかった」「どうして伸び悩んでいたのかわかった気がする」というような感想が学生から多く聞かれるというのは嬉しい驚きでした。

大学でもRSTを通じて、学生の読解力向上に取り組んでいるという事例としてご紹介しました。大学生や大人のRS向上に悩んでいる機関や会社のご参考になれば嬉しいです。

読解力の向上に役立つ『RSノート』の取り組み(燕市)

燕市はRSTを2021年度に導入し、市内の小学6年生から中学3年生までRSTを受検しています。読解力に対する先生方の興味関心も高く、自発的にRSTを受検する先生が多い市です。2023年度の全国学テでは、中学校が大きく成績を伸ばしました。

読解力を育てるRSノートの具体的な作り方と活用法はこちら

昨年は(コロナ禍のため)オンラインで現地の算数の授業を拝見し、コメントをさせていただきました。今年度は、まずRSノートを導入した学校を視察しました。その後で、RSノートと授業を両輪で回していくことが、子どもたちの読解力向上、学力向上、そして先生方の授業への自信や働き方改革につながるという道筋について、先生方に具体的にお話しさせていただきました。(講演の内容は、尾花沢市とほぼ同じです。)

市内で「RSノート」への取り組みをまず進めてくださったのは吉田中学校でした。

中学校は教科担任制です。自分は専門ではない科目のRSノートを見るには、中学校の先生にとって心理的ハードルが高いことと思います。にもかかわらず、取り組みを引受けてくださった吉田中学校の先生方には感謝の気持ちでいっぱいです。

燕市では、もともと自学ノートを作ることには積極的でした。また、毎日の時間割に「長善タイム」が設けられ、学校で自習をする習慣があります。その中でRSノートに取り組む時間を捻出しています。私が視察した木曜日は「イメージ同定」の日、だそうで、どの学年も社会科や理科の指定されたページの指定された資料から言えることをノートに書き出していました。子どもたちはすぐに慣れるもので、RSノートに取り組み始めてまだ2ヶ月経っていないのに、「今日はイメージ同定ですか」とか「具体例同定やってもいいですか」などとRSTの用語を使いこなしているようです。

燕市のように学校でRSノートに取り組む時間を10分でも取れるところは、その間、先生にはぜひ「机間巡視」をしていただきたいです。10分間は短いですので、30秒で日付や指定された教科書の箇所をノートに書き、1分で指定された教科書の箇所を開けるようにしたいですね。子どもたちがさっと始めるように、良い前向きな声掛けをして心を配りたいところです。残りは8分30秒。ポストイットと赤ペンを持って机間巡視をしましょう。

このとき、専門外の教科について正しく指導しなければ、と思うと気が重くなりますが、ポイントを押さえれば、誰でも上手にコメントすることができます。イメージ同定の代表例である「(社会科の)グラフ」の読み取りでは、次のようなことに注意すると上手に特徴を読み取ることができます。

  1. グラフのタイトルを上手に使う。グラフのタイトルが「日本の工業生産にしめる中小工場と大工場の割合」ならば、「日本の工業生産」「中小工場」「大工場」「しめる割合」という言葉を使うと的確な文が書けます。
  2. 縦軸、横軸が何かを意識する。横軸が年、縦軸が生産量(単位はトン)など。
  3. 大きく増えているものに注目し、主語を正しく選びながら、1の「グラフのタイトル」を使って文にする。
  4. 大きく減っているものに注目し、主語を正しく選びながら、1の「グラフのタイトル」を使って文にする。
  5. 量が増えているのか、割合が増えているのか区別する。

このポイントを意識しながら、机間巡視をしつつ声掛けをしましょう。3と4の「増えている・減っている」が書けるようになったら、「どのように増えた(減った)」がわかるように、的確に言葉を補えるようにしたいですね。

「増えた」→「急激に増えた」と書けるようになったら、「急激に」のところに赤丸をし、「『急激に』って書けたね。かっこいいね。すごくいいと思うよ」と励ましましょう。

「急激に増えた」→「1960年代から1990年代にかけて急激に増加した」と書けるようになったら、「「1960年代から1990年代にかけて」や「増加した」が書けたね。すごくわかりやすくなったね」とほめて、赤丸をつけましょう。また、声に出してほめ、クラス全体でも「的確な表現をすることが良いこと」だと、評価の視点が共有されるようにするとよいでしょう。用語の誤り等に気付いたら、ポストイットを貼り、「もう一度考えてごらん」「教科書をよく見比べてごらん」と声掛けしましょう。

このように机間巡視をすると、「増えた・減ったはわかっても、割合なのか総量なのかがわかっていない」「用語が定着していない」など子どもたちの課題が見えてきます。それを授業に活かすと、クラス全体の底上げにもつながります。

燕市での講演会には、はるばる泉大津市から視察の先生方がお越しになりました。泉大津市の指導主事に、燕市の指導主事が「RSTは一校ではなく、全校で取組んだほうがいいです。そうでないと、教員は自信をもって読解力に取り組めません。本当はどの学校に異動しても読解力に取り組み続けられるように、新潟県全体、いや日本全部で導入してほしいです」と力説する姿を見て、胸が熱くなりました。

燕市の先生方、本当に有難うございました。

※写真は、具体例同定に取り組んだ生徒のノートから。本人の許可を得て掲載しています。

リーディングスキルテストを導入している燕市で行っているRSノートの例。具体例同定に取り組む生徒の実際のノートの写真