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RSノートと連動した授業案について(尾花沢市)

尾花沢市は今年度から小学5年生から中学生まで、RSTを導入した自治体です。私は、普段から尾花沢市(および山形県)を「読解」の材料としてよく使います。

  1. 山形は盆地が多く、夏は暑い。
  2. 山形は盆地が多く、スイカの名産地である。
  3. 山形は盆地が多く、花笠まつりで有名だ。

「多く」は「多い」の連用形です。「多く」で止める用法を連用中止といいますが、この3つの文の「多く」は、形は同じでも、使う意図がちがいますね。1は「原因や理由を表す」ための連用中止です。3は単に2つの文を並列させています。2はどちらかはっきりしませんが、実は、盆地は朝晩の気温差が大きく、スイカの生育に適しているそうです。(山形県ホームページより)

社会科では、連用中止が多用され、それが、1の使い方なのか、3の使い方なのかを読み分けられるか否かは、社会科の教科書をひとつのまとまった知識として読めるか、それとも羅列に見えてしまうかを大きく左右します。そのような読み方指導を社会科でしているでしょうか。

そんな問いかけから、尾花沢市での講演会は始まりました。

今回の講演会は、尾花沢市教育委員会側からのご希望もあり、「RSノートと授業との関連」を中心にお話ししました。

現在、多くの自治体で「自学ノート」や「自習ノート」の取り組みが広がっています。小学校低学年や中学年は、ドリルや漢字の書き取りなど、指定した宿題をさせることが多いようですが、高学年になると学力差がつき、定型的な宿題をさせることが難しく、「自分でしたいことをやってきましょう」と自主性に任せる自治体が少なくありません。中には、素晴らしい自由研究をする子もいますが、多くの子は、「何をやっていいかわからない」状態に陥ります。

そこで提案したいのが、「RSノート」です。

RSTを受検すると、6つの分野での受検者の結果に合わせた学習アドバイス(フィードバック)が表示されます。この学習アドバイスに従って1年間頑張ってみると、それぞれの分野の苦手な部分が改善し、不安なく授業に参加できたり、自信をもって手を挙げたり、自学自習できるようになります。

一方で、クラス全員の自学ノートをチェックする時間が取れないとか、授業とどのように関連させればよいか、というお悩みも聞きます。

そこで、今回は、具体例同定とイメージ同定の2つの分野について、自学ノートと普段の授業をどのように連携させるとよいかについてお話しをしました。

まず、RSTでDやEの評価がついている児童・生徒(約1/3)は、実は、(算数・理科・社会・英語では)およそ「見開き2ページずつ授業が進む」ということを理解していないことが往々にしてあります。DやEの評価のついた児童生徒に、「今週、社会科はどこまで進みましたか?」と聞いてみてください。答えられない子が大変多いことでしょう。こうしたクラスでは、先生が教科書を使わずに授業を進めていることが多く、中高生の場合、定期試験対策も先生が配布したプリントを中心に行うことが多いようです。

まず、教科書を開く、というところから、授業改善を始めてください。

また、読解力下位の児童生徒では、見開き2ページの情報から、特定の単語を見つけるという視覚による情報検索の力が不十分な子が少なくありません。授業の冒頭で、今日の授業のキーワードになる言葉を、見開き2ページから見つけ出すゲーム(私は「ウォーリーを探せ」と呼んでいます)を30秒してみてください。たとえば、東京書籍の「地理A」p88~89の見開き2ページから「ヒンドゥー教徒を見つけましょう」という課題をします。本文には1カ所出てきますが、それ以外に、資料に2か所出てきます。最初は全員が本文中に見つけることを目指し、最終的には、資料や欄外註も含めて見つけられるようトレーニングをするとよいでしょう。教科書のレイアウトに慣れ、キーワードが目に飛び込んでくるようにすると、授業で問いかけたときの反応がよくなります。また授業の冒頭でゲーム感覚でトレーニングすることで、集中力も高まることが期待できます。そして、当然、今日はこの見開き2ページを学ぶのだな、という心構えができます。

学力テストの結果とRSTを見比べると、特にイメージ同定や具体例同定の能力値が高い児童生徒は学テの結果が良いという傾向が見られます。イメージ同定は、テキスト部分(本文)と資料を突き合わせ、資料のどの部分が本文の根拠になっているかを読み解く力を測っているため、資料が多くテキスト分量も多い全国学テとの相関が高いのは自然なことでしょう。

RSTを受検すると、イメージ同定の分野について、非テキスト情報を読み解く際、「どんなことを日ごろ気をつけて学習すればよいか」のフィードバックが表示されます。それをノートに貼り、実践します。また、子どもたちに届いているフィードバックを教員が把握し、授業に活かします。

まずは、資料の読み方の基本を学年全体で共有し、「資料の特徴を挙げる」活動をグループでさせるときに、観点として共有しましょう。社会科の資料の読み方は、教科書に明記されています。ただし、一朝一夕で身に付くような簡単な内容ではありません。繰り返し実践して、初めて身に付きます。しかも、資料の読み解きは、学年進行で難しくなるので、中高の先生も油断はできません。たとえば、5年生では、算数で割合や%を学びますが、定着しないことで悪名高い単元です。RSTでも、比が出てくると正答率が一気に下がります。にもかかわらず、社会科では、当然のように資料に割合や%が頻出します。算数だけでは身に付かない比や割合の感覚を、社会科の資料の読み方を通じて身に付けるようにしたいものです。ですが、小学校高学年の社会科の授業で、RSが低い子が「肉が多い」のように発言した際、「〇〇に占める肉の量(割合)が最も多い」のように訂正を促す先生はほとんどいません。どの子にも発言させたいがゆえに、授業では訂正しづらくなってしまったいるのでしょう。

こんな風に工夫をしてみてはいかがでしょう。

資料の読み方の基本を箇条書きで紙に書き、資料を読む前には、それを黒板に貼りましょう。そして、その読み方に則って特徴を挙るように指導しましょう。東京書籍の5年生の社会科の教科書では、次のように資料を読むことを奨励しています。

  • 図表のタイトルを使って表現する。(例:「一人1日あたりの食べもののわりあいの変化」)
  • 縦軸と横軸の単位に気をつける。(例:万t(マントン)と読めるか。総量なのか割合なのか)
  • 減っているものや増えているものに注目する。
    • 減り方や増え方を適切に学習言語で補う。(例:1960年代に比べて倍増した、急増した)(ダメな例:めっちゃ増えた)
  • 多いもの、少ないものに注目する。
    • 「〇は×より多い」のように比較対象を明確にする。
    • どれだけ多いかを適切に学習言語で表現する。(例:中小工場の数は、大工場より多い。)
  • 表現しようとしている対象を正確にとらえる。
    • 割合なのか、総量なのかを明確にする。
    • 数なのか、生産量なのか、生産額なのかを明確にする。
  • 変化しないものにも注目する。

「気づいたことを挙げてみよう」「わかったことを話し合おう」というアクティブラーニングの授業は多いですが、吟味する観点を指定する授業は私の経験上は、残念ながら見た事がありません。資料を「どのような観点で」「どのように表現すればよいか」を学年で共有し、授業でも実践し、RSノートで確認することで、その学年のうちに確実に身に付けておきたい資料の読み取り方を習得できるようになります。

先生方にも「まずは1週間子どもの気持ちになってRSノートをつけてみてください」とお願いしています。どなたも、「やってみると意外に頭を使う」と仰います。先生自身の授業力向上にもきっと役立つはずです。

 

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川南町でRSノート指導、講演を行いました。

宮崎県川南町はRST導入2年目の自治体です。毎年約千人が受検をしています。宮崎大学教育学部と連携し、RSTの結果と学テなどの総合的学力との関係の調査も始めた意欲的な町です。

8月21日に、午前中は町内の5つの小学校と2つの中学校の管理職と研究主任の先生方を主な対象として、RSTの結果をどのように学力向上に活かせばよいかについて、指導助言をしました。

RSTは受検者の読みを可視化し診断するテストです。「読み」は外からは見えないので、他の人がどんな風に読んでいるのか、理解しているのか、知る術がありません。一方、達成度を測るテストやドリルは頻繁に行われるので、子どもたちの多くが、自分の読みの得手・不得手や偏りを自覚しないまま、達成度テストの点数を見て、「自分は頭が悪い」「自分は理数系は苦手」などの(誤った)自己認識を持ってしまいがちです。RSTでは、受検者の読みを可視化し、受検者の特性や発達段階に合わせたフィードバックを返却することで、「今年一年どんなことに取り組めば、もっと巧く読めるようになるのか・授業だけで十分に学ぶことができるのか」を学習者と指導者が共に認識するためのテストです。

午前中は、(相馬市で実践したような)「個別最適化」「自己調整のための」RSノートの活用についてお話ししました。川南町では既に自学ノートを取り入れているので、自学ノートの一環として、RSノートに取り組んでいくことをお勧めしました。小学5年生でまず各自が自分の読みの凸凹を意識し、調整の仕方を小学校で学び、2年かけて基本的な教科書の読みを身に付けておくと、中学校に進学して、突然成績が下がる・勉強が嫌になる、ということを避けることができるのです。

午後は、AI時代だからこそ、RSTで測る「汎用的読解力」「自学自習力」がいかに重要になるかについてお話しをしました。その中で、興味深いエピソードがありましたので、ご紹介します。

「RSTの『イメージ同定力』と総合的学力との間には、0.65以上の高い相関があることが各自治体の報告からわかっています。ですので、どの自治体も『イメージ同定力を上げたい』と仰います。『イメージ同定』の『イメージ』とは、テキスト(文章)以外の情報(非テキスト情報)のことを指します。では、教科書の中で、どんな情報がイメージに該当するでしょう

この質問に対して、「絵」という答えが出た後、なかなか手が挙がりません。ようやく「グラフ」と「表」を挙げてくれる先生がいました。

他にどんな『イメージ』があるか。みなさんもぜひ考えてみてください。答えは「続き」へ。

 

他には、こんなものが『イメージ』に該当します。

地図、年表、写真、図形、テープ図や数直線、数式、概念図(三権分立の関係など)、楽譜

いかがでしょう。「え、数式もイメージなの?」と思われるかもしれませんが、「教科書に登場する、文章以外の情報」に該当しますね。このように考えると、「イメージ同定力」が総合的学力に直結することにうなづく方が少なくないことでしょう。しかも、写真や絵が多かった小学校中学年までの教科書は、高学年になるに従って多様な『非テキスト情報」が増加します。複数の非テキスト情報を根拠にしながら、本文を読み解くことが高学年以上では求められるのです。それは子どもたちにとって大変なことです。RSTを活用して、どの子も自信をもって中学進学・高校進学できるようにしたいですね。

それには、まず教員が率先して、教科書が、テキスト情報、非テキスト情報を駆使して、総合的にどのように情報を伝えようとしているかの「仕組み」を理解することから始めましょう。

 

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富山県立山町教育委員会で講話を行いました

12月2日(金)に立山町教育委員会主催の「読み解く力」向上研究会が立山町立雄山中学校を会場として開催され、当研究所上席研究員の目黒朋子が講話を行いました。


立山町では、今年度から「『読解力』向上3か年プログラム」を開始し、児童・生徒の読解力の向上に取り組んでいます。

今回の「読み解く力」向上委員会では、まず雄山中学校の二人の先生による、国語科3年生の公開授業が行われました。
単元名は、「自らの考えを-対象を評価し、多様性の中で自分の考えを確立する-」です。
松原仁著「人間と人工知能と創造性」と羽生善治著「人工知能との未来」の二つの論説文を題材として、これらの論説を三つ観点から読み比べ「ワールドカフェ方式」の対話手法を用いて、自分の考え(班の考え)について根拠を基に伝え合うという学習活動です。
学習指導要領の「精査・解釈」に相当する「批判的な読み」を実践する非常に意欲的な授業でした。

その後、目黒から「リーディングスキルを活用した授業づくり~教科書を読み解く~」と題して、RSの6分野7項目をどのように授業に落とし込んでいくかについて話をいたしました。
ワールドカフェ方式の授業では、記録者の書くスピードが「話すこと」に追い付かず、スムーズな話し合いが困難な場面も見受けられたので、共書き(聴写・視写)についても話をいたしました。

11/23の活動報告記事 に当研究所所長の新井紀子が書いたように、意欲的・発展的な授業でなくても、リーディングスキルは、工夫によって上げることができます。頑張って計画した特別な授業より、むしろ日々の「ふつうの授業」が大切です。

例えば、今回の授業で使用した生徒のワークシートを見てみましょう。

Q:人間がすべきことはどんなことか。

A:今後どのように対応するかを考えていくこと。

この生徒の答えは、文になっているでしょうか。教科書の本文では主語や目的語が省略されていることがあります(ゼロ照応)。省略されている本文のまま書き抜きすると「何が何に」の部分が抜け落ちてしまいます。
この答えもその一つです。常にアウトプットした文が文として成り立っているかを考えさせる(係り受け解析)、他の人の文と自分の文が同じ意味なのかを考えさせる(同義文判定)など、小さな積み重ねを大切に指導していくことが重要です。

さらに、ワークシートの質問文にも工夫が必要です。

Q:人工知能をうまく活用するとはどういうことか。

この質問文に相当する段落には、「また」という接続詞が使われているので、RSの高い生徒は、「また」を並列ととらえて理由を2つ書き表すことができますが、RSの低い生徒は、「また」を読み取ることができず理由を1つしか書けません。
このような場合には、質問文の中に「人工知能をうまく活用するとはどういうことか2つ書きなさい。」など、いくつ答えればよいのかわかるようにして、RSが低い生徒でも自力で解決できるような工夫が必要です。

また、授業をデザインする時には、生徒の実態を把握しながら、学習活動の中で「間違えた→なぜ間違えた?→こうすれば間違えない」というサイクルを作り出すことも必要です。

前述の「また」の場合で考えてみると、『理由を1つしか書けなかった→接続詞「また」を読み飛ばした。「また」が並列の記述であることが分からなかった→今回、「また」は並列の記述であることが分かったので、次回から「また」に印を付けるなどして、読み間違いに気をつける』というサイクルになります。

このようなサイクルを毎時間くり返すことにより、生徒は読解のための正しいスキルが身につけることができ、さらにはいろいろな場面でそれを活用することができるようになります。

時間はかかるかもしれませんが、学校全体で(市町村全体で)RSを意識した授業を毎時間行っていくことが読解力向上の一番の近道となるでしょう。

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新潟県燕市で講演・講評を行いました。

新潟県燕市では、令和3年度から市内全小中学校において、汎用的基礎読解力の診断のためにRSTを導入しています。

2022年11月22日に燕市教育委員会主催の「令和4年度 読解力育成プロジェクト全体研修会」が燕市立燕西小学校を会場として開催されました。まず、開催校である燕西小学校の6年生の算数において、特に「イメージ同定」を意識した授業として、「同じ形ってどんな形?~暮らしに生かす拡大図と縮図~(全 12 時間)」の仕上げに相当する発展的な授業が展開されました。市内すべての小中学校から多くの先生、教育長はじめ教育委員会の指導主事が見守る中、体育館で授業が始まりました。

燕西小学校では、毎年、小1~小6が班をつくり、遠足をします。同じ起点と終点ですが3つコースがあります。そのコースのうち「田んぼコースが一番長いらしい」ということを児童は実感(時間がかかる、疲れる)などから感じています。それが本当かどうかを地図の縮尺を用いて確認し、「どれだけの道のりの差」があるかを数値として確認するという大変意欲的な内容でした。

児童の「実感」とこれまで学んできた「縮尺」をつなげることにより、「縮尺で考えることの良さ」を実感させるという意味では、「考える力を育てる」「算数・数学の考え方の良さを実感する」という学習指導要領の目的に合致した、内容の濃い授業です。ただ、イメージ同定と推論の力はもちろんのこと、作業に集中力が求められる授業であることに注意が必要です。

1.地図上のジグザグの道を線分に区切り、コンパスで取り、直線上に移すには、コンパスの使い方の習熟が必要。

2.「どこまでは測り済みで、どれはまだ測っていないか」をチェックする注意深さが必要。

3.地図が1万9800分の1の地図だったため、「本当の長さ」を計算するには3桁以上の掛け算の能力が必要。(学習指導要領外)

3については最初から電卓またはタブレット上の電卓を使うか、2万分の1の地図を用いることで3桁どうしの掛け算を回避できるようにする工夫があるとよいでしょう。

さて、講演では「リーディングスキルに着目した授業づくり」というお話をさせていただきました。

「すべての児童(生徒)にとって、すばらしい授業」というのは存在しません。たとえば、RSTの能力値が4~5に固まっているような学校では、上記のような授業はまさに児童にとって「算数の良さ」を実感できる授業になることでしょう。一方、RSTの能力値が2.5を平均として分布しているような場合は十分な効果が得られないかもしれません。

リーディングスキルを「伸ばす授業」というのは、能力値が1の子を2に、2の子を3に、3の子を4に、4の子を5に上げ、平均を上げつつ分散を小さくする授業です。自分のクラスの子のRSTの能力値を把握した上で、「全員が手を挙げられる問題を3つ」「半数が手を挙げられる問題を2つ」「能力値が一番高い層が手を挙げられる問題を1つ」準備し、一斉授業の中で、それぞれが確実にRSを昨日より今日、今日より明日、少しずつ上がるような授業を目指すのが、(地味ではあるが)最も効果があるのではないか、というお話をしました。

※「問題」というのは、根拠をもって解決されるべき問題を意味します。(例:「軽井沢の6月の平均気温は何度ですか?」(雨温図を読む、イメージ同定)、「ゆうなさんは『土地の高いところでは、気温が低くなる』と言っています。どのグラフを見てそう言っているのでしょう?」(雨温図を読む、イメージ同定)) 「感じたこと・思ったことの表出」は上記の「問題の数」とは別でお考えください。

意欲的・発展的な授業でなくても、リーディングスキルは、工夫によって上げることができます。頑張って計画した特別な授業より、むしろ日々の「ふつうの授業」が大切です。教科書見開き2ページの本文・資料を最大限活用しましょう。文の基本構造の把握が弱い子には、本文の構造の確認を(文法的に、ではなく自然に)確認してください。DEP、ANAはできているが推論が弱い子には「〇行目に・・・と書いてあるね。なぜだろう」のように根拠を聞きましょう。その際、根拠としてまずは教科書に書いてあることを挙げられるようにしたいですね。(もちろん、児童の実感や経験とつなぐ活動も大切ですが。)そのような実践ができている学級では、「今日学習する教科書のページ」を全員が開いており、先生が質問をすると、教科書から答えを探そうとするので、どれだけ日々の実践ができているかが一目でわかります。

RSTを導入していらっしゃる他の自治体でもご参考になれば幸いです。

 

 

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大阪府和泉市で講演を行いました

 

10月27日(木)に大阪府和泉市で開催された「令和4年度 第2回 リーディングスキルテスト活用研修会」において、当研究所主席研究員の菅原真悟が研修会講師を務めました。
研修会はオンラインで開催され、市内の小中学校の先生方の参加がありました。

和泉市は今年度、中学生と先生方がRSTを受検し、その結果を分析・活用し、授業改善・学力向上をめざしています。

 研修会では、当研究所代表理事・所長の新井紀子の『AIに負けない子どもを育てる』の10章「大人の読解力は上がらないのか?」をもとに、読解力を身に着けることの重要性について解説を行いました。

 そのうえで、今回のRST受検結果の分析をもとに、生徒が抱えている課題について説明し、生徒の読解力を高めるために、教員がどのような点に注意して教科書を読んで授業を行えばよいのかを解説しました。

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燕市教育委員会で講演を行いました

8月8日(月)、燕市教育委員会の「研究主任会」において当研究所上席研究員の目黒朋子が講演を行いました。

今回の講演では、教員がRSTの6分野7項目を使って解像度高く教科書を読むとはどういうことなのかをワークショップを通して先生方に体感していただきました。

使用した教科書は、教育出版「中学社会 地理 地域に学ぶ」の168~169ページと、東京書籍「小学5年社会 わたしたちの生活と食料生産」の116~117ページです。

※    教育出版「中学社会 地理 地域に学ぶ」の模擬授業については、当ウェブサイトのこちらをご覧ください。


先生方が普段何気なく読んでいる教科書ですが、「その一方の「その」とは何を指していますか?」、「食品廃棄量と食品ロスは同じ意味ですか?」など、あらためて問われると、ほとんどの先生方が戸惑います。そこで、教科書見開き2ページをどのように読み解くか、読み解く際にはRSTのどのスキルを使うのかなど、具体的に例を示しながらワークショップを進めていきました。

【受講者の感想】

・ワークショップの中で、教師自身が「文章を正しく読み取れていないこと。」「小学校の教科書に出てくる語句の意味を正しく理解していないこと。」を実感した。

・「解像度高く教科書を読む」ということがどういうことか、難しかったが、非常によく理解できた。

・本時の目標を達成させるためにどうアウトプットさせるかを意識しながら授業を進めることで、読解力は育まれていくと感じた。

・児童の読解力の前に、教師自身が教科書を6分野7項目の視点で読み込むことが必要であると改めて気づかされた。

・今まで以上に児童の視点で教科書を読み、RSTを意識した授業づくりに励んでいこうという気持ちが高まりました。

・教師が脳に汗をかいて授業の準備することが、子どもたちの可能性につながっていくことを教わりました。

 

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富山県立山町教育委員会で講演を行いました

7月29日(金)富山県立山町町民大ホールで開催されたRST解説会で、当研究所主席研究員の菅原真悟が講演を行いました。解説会は、密にならないように町民大ホールで開催され、町内の全小中学校の先生方およそ130名の参加がありました。

立山町では、今年度から「『読解力』向上3か年プログラム」を開始し、児童・生徒の読解力の向上に取り組んでいます。

解説会では、まず読解力を身に着けることの重要性について、菅原の体験をもとに解説を行いました。

 そのうえで、小学5年生から中学3年生全員が受検したRSTの受検結果から、どのようなことが読みとれるのかを報告いたしました。

 また、児童生徒の読解力を高めるために、教員がどのような点に注意して教科書を読めばよいのか、普段の授業でどのような点に気を付ける必要があるかを、社会科の教科書を例にとって解説しました。使用した教科書は東京書籍の『新しい社会歴史』122~123ページと、東京書籍の『新しい社会地理』の58~59ページです。係り受け(主語と述語はどれか)や照応(指示詞が指すものは何か/省略された語句は何か)を意識して読むことや、児童生徒にとって親密度の低い語句に注意することなどのポイントをお伝えしました。

 質疑応答では、当初予定の時間を超過するほど質問があり、先生方の関心の高さが感じられました。

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北海道八雲町教育委員会で講演を行いました

7月27日(水)、『令和4年度八雲町確かな学び推進会議「八雲町学びセミナー」』において当研究所上席研究員の目黒朋子がオンラインで講演を行いました。

 八雲町教育委員会では昨年度より小学6年生から中学3年生まで(今年度は小学5年生から中学3年生まで)悉皆でRSTを受検しており、今回の講演は、昨年度に引き続き行われたものです。

 講演では、まず、昨年度と今年度の受検結果を比較したデータ分析について説明を行いました。
すべての学年で能力値に伸びがみられましたが、箱ひげ図を見ると、それぞれの分野の分散が大きいことが分かりました。
苦手分野(5段階評価の1)を持つ児童生徒がいることも考え合わせると、分散を少なくし、中央値をあげていく必要があることも分かりました。
講演では、学年ごとの分析結果について解説しましたが、児童生徒の個別のデータについても各種学力調査の結果とRSTの受検結果の相関を見るなど、分析結果を指導の改善に反映させていくことも重要であることをお伝えしました。

 次に、板橋第二小学校の山田禎文先生が考案した授業案をもとに、リーディングスキルを活用した授業づくりについて説明を行いました(下記リンク先参照)。
使用した教科書は「小学社会5」(教育出版)の156~157ページです。教科書見開き2ページには、本文だけではなく、写真やグラフなどの資料、問い、コラムなどが載っており、それらの多様な情報を本文と結び付けて読み解く必要があります。
大学共通テストにおいても、あらゆる科目で図や文章などの複数の情報を踏まえて関連を読み解く問題が増えています。小学校の段階から、教科書見開き2ページの内容をリーディングスキルを使って読み解き、自らの考えをまとめていく訓練が必要であることは言うまでもありません。(参照:板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。)
リーディングスキルは学習の基盤となる“学習スキル”の一つです。児童生徒がリーディングスキルを生かして問題解決できる授業づくりを「教科書」を使ってすべての教科で取り組むことが重要であることをお伝えしました。

 最後に、目黒から、ねらいを考えずに、子どもと同じ気持ちで教科書の文章に向かい、教員一人ひとりが「教科書を使い倒す授業」を改めて考えることを日々の授業づくりの中で行ってほしいとアドバイスしました。

○板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。(2020年12月5日)

 

 

 

 

 

 

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いわき市総合教育センターで講演を行いました

7月25日(月)、いわき市総合教育センターの「授業改善講座」において当研究所上席研究員の目黒朋子が講演を行いました。

 講演では、「リーディングスキルを育むための授業づくり」と題し、RSTの6分野7項目についての説明と、目黒が主宰している「rst-laboふくしま(通称:F-Labo)」での様々な実践発表を例に、「リーディングスキルを活用した授業づくり」とは具体的にどういうことなのかをお伝えしました。
そして、教員が教科書の文章やグラフや図をRSTの6分野7項目の視点で読むことは、「子どものつまずきや困難さを予測できる」⇒「教員の指示や発問が変わる」⇒「授業が変わる」という授業改善に結びつくことをお伝えしました。

 講演の後には、「授業づくりワークシート」(福島県教育庁義務教育課「リーディングスキル向上実践事例集」より)を使ったワークショップを行いました。
先生方には、実際の教科書を読み、「授業づくりワークシート」の「親和性の低い(なじみのない)言葉」、「音読の際の注意点」、「RST(6分野7項目)の視点」の各項目に落とし込んでいくという作業を行っていただきました。

 今回の講座の「めあて」は、「脳に汗をかく」というものでしたが、「久しぶりに頭をフル回転させ、脳に汗をかいた。」、「教科書の活用の仕方も理解できた。」、「まずは自分自身が解像度高く教科書を読めるようにしたい。」、「演習を行うことで、読み解く際の子どもの立場からのつまずきがわかった。」、「リーディングスキルについてさらに学びたい。」、「新井紀子先生の著書を読んでみたい。」などの感想が寄せられました。

 

当日の様子は、いわき市総合教育センターのウェブサイトにも掲載されています。
○いわき市総合教育センター
授業改善講座「リーディングスキルを育むための授業づくり」

 

 

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島根県立横田高等学校で講演を行いました

6月27日(月)に島根県立横田高等学校において、当研究所上席研究員の目黒朋子が「AI時代に求められるリーディングスキルとは」と題した講演を行いました。
横田高校では、学校全体で読解力の向上のための体制づくりを行い、すべての教科でRSTの結果分析に基づいた学習指導を行っていくという計画のもと、昨年度は1・2年生が、今年度は全学年の生徒と先生方がRSTを受検しました。

 講演では、まずAIの特徴やRST開発の経緯をお話し、AI・DX時代になぜ読解力が求められるのかを昨年度の数学の共通テストを示しながら説明しました。また受検結果の分析方法を紹介するとともに同校の生徒の結果について、具体的にデータをグラフに表し解説しました。特に、分散が大きい分野については、日々の授業の中で読解力を育成する観点を入れて授業を行い、分散を小さくし平均を挙げていくことが大切だとお伝えしました。

 次に、教員が「解像度高く教科書を読む」ということはどういうことなのか、実際の教科書の文章を提示して、RSTの6分野7項目のどのスキルを使って読めばよいのかをお伝えしました。また、教科書は教科による独特な表現もあり、生徒によってそれが読解を困難にしている可能性があります。特に、高校の場合には、先生方の専門性が高くなるため、他教科の教科書を読むことは少なく、生徒の困難さを理解できない可能性があることもお伝えしました。

 最後に、板橋区教育委員会や福島県教育委員会で実践されている、授業実践事例について紹介し、授業をRSの視点で構築していく具体的なイメージを持っていただきました。そして、生徒の実態に寄り添いながら、「間違えた」→「なぜ間違えた?」→「こうすれば間違えない」の流れをスキルとして身に付けさせ、その指導を積み重ねていくことが、頑健な汎用的読解力の育成のためには重要であることをお伝えしました。

 早速、先生方は職員室に来室する生徒への言葉掛けを話題にして、「意味が一意になっているか。」、「生徒に最後まで言葉を言わせているか。」など、まずは教員が言葉に敏感になる必要性があると話し合っているとのことです。

 

 

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寒河江市教育委員会「令和4年度 寒河江市教育研究所 第1回課題研究部会」で講演を行いました(2)

6月1日(水)「令和4年度 寒河江市教育研究所 第1回課題研究部会」において、当研究所上席研究員の目黒朋子がオンラインで講演を行いました。

 今回の講演は、5月20日の当研究所主席研究員の菅原真悟が行った講演(RSTの受検結果分析)に続いて行われたもので、RSTの分析結果をどのように授業づくりに結びつけるかについてお話いたしました。

 まず、読解力(RS)を視点に授業づくりを行うためには、教育委員会と学校が「一枚岩」となって、組織的・系統的に取り組む体制づくりが重要です。RSTを受検しただけでは児童生徒の読解力は向上しません。
先進的な自治体の取り組みを参考にしながら、寒河江市の児童生徒の実態に即した「寒河江市授業づくりプラン」を構築するようアドバイスを行いました。

次に、教員が「解像度高く教科書を読む」ということはどういうことなのか、実際の教科書の文章を提示して、RSTの6分野7項目のどのスキルを使って読めばよいのかをお伝えしました。
また、分散が大きすぎると一斉授業での個別対応は難しいという現状を踏まえ、RS先進自治体である東京都板橋区や福島県で行われている、視写、音読、共書きなど、児童生徒の学びの基礎体力を耕していく取り組みについても紹介いたしました。

 講演終了後、西根小学校の原田浩治校長より、「教育委員会と学校が一枚岩になって取り組むことが重要であること、まずはねらいを考えずに、子どもと同じ気持ちで文章に向き合ってみること、全ての教科で取り組んでいくことの重要性を感じた。」とのお言葉をいただきました。
寒河江市教育委員会の布川指導主事からは、「RST受検後にダウンロードできる、『ふりかえりプリント』をどのように有効活用するか、研究部会の先生方と考えていきたい。」とのお話もいただきました。

 

 

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寒河江市教育委員会「令和4年度 寒河江市教育研究所全体研修会」で講演を行いました

5月20日(金)に寒河江市教育委員会で開催された「令和4年度 寒河江市教育研究所全体研修会」において、当研究所主席研究員の菅原真悟が講演を行いました。
当日の講演はzoomを用いたオンラインで実施され、寒河江市の教員およそ約250名の参加がありました。

講演では、まずRSTの開発の経緯と、AI・DX時代になぜ読解力が求められるのかを説明し、その上で、RSTで出題している6分野7項目について、それぞれの出題のねらいについて解説しました。

続いて、今回のRSTの受検結果(csvファイル)の分析方法について説明しました。まずマクロ的視点での受検団体全体の分析と、ミクロ的視点での個々の受検者の分析について、それぞれ分析結果を報告しました。

最後に、今回の受検結果をふまえた授業改善について、子どもたちの読解力育成のために、どのような点に注意して取り組めばよいのか、どのように教科書を読み込めばよいのか、など例を用いて解説を行いました。

講演後に、「読書量や読書好きとの関係はあるのか?」といった質問があり、以前行った調査で、「読書が好き」「本をよく読む」などのアンケート項目とRSTの結果に相関を調べたが相関は見られなかったと回答し、今回受検した学校でも、学校が持っているアンケート調査結果などのデータとRSTの結果との相関を見てほしいとお伝えしました。

参加者からは、「RSTについて理解が深まった」「教科書を解像度高く読むことの重要性が分かった」といった感想をいただきました。

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和泉市教育委員会で講演を行いました

5月20日(金)、和泉市教育委員会の教職員研修会において、当研究所上席研究員の目黒朋子がオンラインで講演を行いました。
和泉市では今年度より中学生と先生方がRSTを受検し、その結果を分析・活用し、授業改善・学力向上を目指す取り組みを始めました。

 ここ2年間の大学共通テストの問題を見てみると、全ての教科において「読解力」が求められていることは明確です。
さらに、学習指導要領の改訂や今年度の学力学習状況調査からも「知識中心型から課題解決型へ」学びを変えていこうというメッセージを読み取ることができます。
そして、「学びを変え、読解力を向上させる」第一歩は、子どもたちは教科書を読めていないことを前提とした授業改善ではないでしょうか。

これらのことを踏まえ、今回の講演では、目黒が主宰している「rst-laboふくしま(通称:F-Labo)」での様々な実践発表を例に、「リーディングスキルを活用した授業づくり」とは具体的にどういうことなのかをお伝えしました。
音読や黙読ができていても、意味が分かって理解できているとは限りません。「それ」や「この」なのどの指示詞が何を指しているかわかっているでしょうか? 省略されている主語を補って読めているでしょうか? 教員がまず解像度高く教科書を読み、教科書に出てくる言葉にこだわり(「ひっかかり」)、子どもたちの学びを阻害する言葉に気づくことが大切です。
そして、教員が教科書の文章やグラフや図をリーディングスキルの6分野7項目の視点で読むことは、「子どものつまずきや困難さを予測できる」⇒「教員の指示や発問が変わる」⇒「授業が変わる」という授業改善に結びつくことをお伝えしました。

 RSTはあくまでも読解力の診断を目的として開発されたテストです。RSTの点数を上げることを目指すのではなく、教科・単元のねらいの達成のために、毎時間、教員がリーディングスキルを視点に授業を考え、実践していくことが重要であるとお伝えしました。

 担当の五島指導主事からは、「中学生のRST受検結果は、小学校での指導にもつながる。講演内容を参考に、本市の進めている総合的な読解力(インプットーインテイクーアウトプット)の育成を目指した授業改善の取組みをさらに推進していきたい。」との感想をいただきました。

 

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埼玉県杉戸町教育委員会で講演を行いました

5月10日(火)に埼玉県杉戸町教育委員会で開催された「令和4年度杉戸町教育研究会」において、当研究所上席研究員の目黒朋子が「リーディングスキルを活用した授業づくり」と題した講演を行いました。

 講演では、まず、RST受検後にRST事務局から送付される受検者の分析結果(csvファイル)を活用した分析方法について説明しました。「リーディングスキルを活用した授業づくり」をするためには、RSTの結果を科学的かつ客観的に分析・把握することが必要です。
一つは「マクロ」の視点で、学習集団内の読解の癖やばらつきを散布図や箱ひげ図により分析・把握します。
もう一つは「ミクロ」の視点で、読解に特徴ある個人や子ども一人ひとりの読解力の実態を分析・把握します。
そうすることにより、学習集団や個人の実態に応じた手立てや支援等を考え、授業実践することが可能になります。

 次に、教員が「解像度高く教科書を読む」ということはどういうことなのか、実際の教科書の文章を提示して、RSTの6分野7項目のどのスキルを使って読めばよいのかをお伝えしました。
また、教科書は教科による独特な表現もあり、児童生徒によってそれが読解を困難にしている可能性があります。
例として、社会科の教科書でよく見る表現である「連用中止法」を示して、社会科をよく理解するにためは、連用中止法のうちで、どれが原因で、どれが並列かを、読み解く力が大切であることもお伝えしました。

 最後に、板橋区教育委員会や福島県教育委員会で実践されている、授業実践事例について紹介し、RSTから授業を「逆算」して構築していくことの重要性についてお話しました。


参加者からは、「RSTの意義や、教科書を読むことの難しさと大切さを改めて感じた。」

「照応解決の「これ」「それ」等の指示語やゼロ照応などを確認しながら授業を進めたい。」等の感想をいただきました。

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大阪市教育センター「言語能力育成研修」で講演をします。

大阪市は全市を挙げて読解力向上に取り組んでおり、その中でRSTを導入する学校が増えています。RSTを導入する学校が増えれば増えるほど、「(うちの学校の生徒の読解力が)低くて分散が大きいことはわかったけれど、指導要領の内容も教えきらないといけないし、コロナ対策もあるし、それでなくても多忙なのに、これ以上どうすればいいのだろう?」という気持ちになるのは自然なことだろうと思います。

大阪市教育センターでは、今年度、全小中学校1枠で教員がRSTを体験した上で「言語能力育成研修」を受講する、という「言語能力育成研修」を企画しました。その研修部分の講演を新井紀子が担当し、先日収録が終わりました。

講演では、実際に中学校の理科の教科書を提示しながら、それを正確に読解するには、RSTでいう6分野(係り受け解析、照応解決、同義文判定、推論、イメージ同定、具体例同定)が不可欠であることをまずお伝えしました。

RSTの観点は決して特殊なものではありません。テキストと、図表、グラフなどのRSTで言うところの『イメージ』で構成されている教科書の内容を児童・生徒が自ら進んで読み、理解する上で避けて通ることができないものです。リーディングスキル(RS)が低い児童・生徒は、教科書を読み解くことを諦め、プリント学習や暗記学習に流れてしまいます。そういう学習では、自ら学ぶ中で好奇心がかき立てられ、さらに学ぶという好ましいサイクルを望むことは難しいでしょう。

遠回りに思えても、発達段階に合わせてRSや語彙量を伸ばすことで、「読んで理解して興味を深める」ことにつながるのです。逆に言えば、RSがない状態では、一過性の興味をひく『おもしろい授業』や最適化したデジタルドリルだけでは、教員側が期待するような学びの持続は期待し難いといえるでしょう。

これまでのRSTのデータから、入試がない公立中学1年生に比べると、同じ地域の中高一貫の公立高校の中学1年生の方がRSが圧倒的に高いことがわかっています。また、ある県の3年間の調査から、県立高校の偏差値とその高校に入学した高校1年生のRSTの能力値の平均値との相関係数が0.85あることがわかりました。県立高校の入試では、学力テスト・内申書等を総合的に判断しますから、総じてRSが高い生徒ほど、普段から学びに対して積極的に取り組む生徒だといえるでしょう。

講演では、RS先進自治体である東京都板橋区や福島県のF-Laboなどの事例を紹介しつつ、「普段の授業の中で」RSを意識した授業を進めるコツをお話ししました。

今回の講演で、いくつか質問をいただきました。以下、FAQとしてみなさんと共有します。

Q:小学5年生の担任をしています。自分のクラスの児童がどんな問題を解くことになるか知りたいです。RSTを受検するとき、大人向けではなく、小学生向を受検したほうがよいでしょうか。

A:RSTではその学年までに得ているはずの知識などで出題範囲を絞るとともに、学年配当漢字以外にルビをふるなどの配慮をしています。また小学生向けには「やさしい言い回しの指示文」が表示されます。一方、RSTの問題の難易度を見ると、出典によって難易度が大きく変わることはありません。つまり、小学校の教科書出典の問題でも、高校の教科書出典の問題でも、そのことだけで難易度が変わるということはありません。RSTは受検者の能力に最適化した問題を出題しますから、自分のクラスの「RSに課題がある子」がどんな問題を解くかを体験することはできません。むしろ、先生方は、「大人向けRST」を受検し、「自分が受け持っている子供たちは、数年後にはこういう文章も読解できるようにならなければならないのだな」と思いながら、今日の授業の設計をしていただくのが良いのではないかと思います。

Q:「イメージ同定」の「イメージ」とはどんなものを指しますか?イラストや写真ですか?

A:「イメージ=非テキスト情報」と考えてください。教科書には、図・表・グラフのほか、数式・譜面など様々な非テキスト情報が登場します。文章題を読解し、立式するという行為は、テキスト(文章題)からイメージ(式)を導く推論、あるいは同義文判定活動と考えることができます。

Q:やはりRSTを伸ばすには読書を奨励することがいちばん大切ですか?

A:読書を奨励すること自体は良いことだと思います。一方で、読書が大好きなのに、算数・数学や理科が不得意という児童生徒は少なくありません。それは、読書だけではRSTが提唱する「汎用的読解力」は身に着かないことを示しています。思い切って、読書の対象に教科書を加えてみてはどうでしょう。その日学ぶ教科の該当箇所を見開き2ページ読んでおくだけで、いつもより授業がわかる、という体験をさせてみると、子どもたちの教科書を見る目が変わるかもしれません。

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茨木市教育委員会で講演を行いました

茨木市教育委員会は、「一人も見捨てへん教育」を実現するため令和2年度から6年度までの5か年計画で「茨木っ子ネクスト5.0」というプランを策定しました。そのプランの4本柱の一つに「確かな言語力を育む」が掲げられ、小学校のモデル校3校において昨年度からRSTを受検し、確かな言語力を育むための授業づくりが行われています。

今年度は、当研究所上席研究員の目黒朋子が依頼を受け、「令和3年度茨木市教育委員会学力担当者会」において2回オンラインで講演を行いました。

1回目は2021年6月30日に開催され、「RSTの受検結果分析と生かし方」と題し講演を行い、RSTの受検結果を正しく分析しどこに処方箋をあてていくのかを明確にすることが必要であること、教員自身が教科書を解像度高く読んで授業づくりをすることが重要であることをお伝えしました。

2回目は2022年1月28日に開催され、初めにモデル校の先生からは今年度の読解力向上のための取り組みについて、茨木市教育員会の岡田指導主事からは「昨年度より係り受け解析や照応において、全体的に能力値が向上し低位層の児童が減少している」こと、「全国学力・学習状況調査においても、国語の『読むこと』で結果が良好であった」ことなどの報告がありました。その後、上席研究員の目黒が「リーディングスキルを意識した授業づくりとは」と題した講演を行い、実際の小学校5年生社会科のリーディングスキルを意識した授業の紹介と、リーディングスキルの観点で教科書を読み授業にどのように落とし込んでいくのかについてお伝えしました。

 

茨木市教育委員会では、来年度はモデル校を中学校にも広げ、小中連携して読解力向上に向け更に取り組んでいくとのことです。

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戸田市立笹目小学校で講演を行いました

戸田市教育委員会は、将来の予測が困難な時代においても、主体的に判断・行動し、よりよく問題を解決する資質・能力を確実に育むことをねらいとして、平成28年度より、リーディングスキル(以下RS)育成を最重要課題の一つとして授業改善に取り組んでいます。

2021年12月8日(水)に、戸田市立笹目小学校において研究委嘱発表会が開催され、当研究所所長の新井紀子が「AIに負けない子どもを育てる~リーディングスキル育成を通じて~」と題して講演を行いました。

まず、当日の研究授業で扱った「日本の工業の特色」の帯グラフを読み取ることは、小学5年生にとって難しい内容であるが、ただ知識を伝達するのではなく、グラフの読み方を学習スキルとして学ぶ良い授業であったと講評しました。

毎日の授業で意識して児童生徒の学習スキルを高めていくことが大切であり、例えば「分かっているよね。」と問うのではなく、どのように学べばよいかを教える授業や学習スキルが身に着いているかどうかをチェックする授業が全国に広まり、授業の質を向上させていくことが重要であると指摘しました。

講演では、2011年の東ロボプロジェクトからRSTプロジェクトをスタートさせた経緯やRSTの狙いについて紹介し、さらに、他の教育委員会が公表しているRSTと全国・学力学習状況調査(学テ)との相関や研究チームの分析をもとに、読解力を義務教育段階で身に着けさせることの重要性についても指摘しました。

当日は、オンライン配信が行なわれ、北は北海道から南は九州まで全国の教育関係者の視聴があったそうです。
また、戸田市教育委員会のFacebookでも当日の様子が公開されています。

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深谷市立南中学校で講演を行いました

深谷市立南中学校は、深谷市教育委員会から研究委嘱を受け、「RST(リーディングスキルテスト)を活用し、言語環境の整備と言語活動の充実を基にした学力向上の推進~学習の基盤となる資質・能力の育成を目指して~」を研究主題として、2年間の研究に取り組んできました。

2021年11月10日には「令和2・3年度深谷市教育委員会委嘱研究発表会」が開催され、研究授業の公開および2年間の研究成果が発表されました。当日は、当研究所主席研究員の菅原真悟が「RSTを活用した授業革新」と題した講演を行い、リーディングスキルの観点で教科書を読む方法や、実際の授業例の紹介をしました。

当日の様子は、深谷市教育委員会、深谷市立南中学校のHPにも掲載されています。

深谷市教育委員会 市教育委員会研究委嘱 研究発表会

深谷市立南中学校 深谷市教育委員会委嘱研究発表会

 

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燕市の研修会で講演を行いました

10月7日(木)に開催された「RST分析研修会(研究主任会)」において、当研究所主席研究員の菅原真悟が「RSTのねらいと結果の活かし方:AI・DX時代に求められる読解力を育む」と題した講演を行いました。

新潟県燕市は、子どもたちが人工知能(AI)に負けない能力を身に付けるために、「読解力」育成プロジェクトを今夏より開始しています。文章を正しく読み解けるかを測るためにリーディングスキルテストを全市立小中学校で導入し、分析結果を基に授業改善を進めています。

8月2日には、当研究所所長の新井紀子が「AIに負けない子どもを育てる」と題して「読解力」育成の重要性、必要性について講演を行いました。また、9月7日には、筑波大学附属小学校副校長の夏坂哲志先生から「算数の授業と読解力」と題して小学校算数科における「読解力」育成についての研修(第4回教科指導プロフェッショナル研修)を実施しています。

これらの講演・研修を受け、10月7日のRST分析研修会では、まずRSTの6つの観点についてあらためて解説し、今年の受検結果の分析、各学校の傾向についての分析結果を報告しました。どの学校でも読めている児童生徒と読めていない児童生徒の分散が大きく、特に、読めていない児童生徒の読解力を育成することが公教育の課題であると指摘しました。

また、読解力を育成するために、日々の授業の中に読解力を育成する観点を入れて授業を行うことが大切だとお伝えしました。

コロナ禍のため当日の研修会はオンラインでの開催となりましたが、市内の小中学校の研究主任および管理職の先生方30名以上の参加があり、また、当日の講演内容は、燕市内小中学校教職員限定の共有ドライブでも限定公開されました。

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北谷町で講演会を開催しました。

北谷町は沖縄県で最初にedumapの一斉導入を決めた自治体です。

台風が多く、また人口10万人当たりの新型コロナウイルス感染者数が多い沖縄において、edumapが導入され、保護者に対して迅速に緊急情報が伝わり、子どもたちの安全が確保されること、そして休校中の学びが保障されることは、「教育のための科学研究所」の願いです。

今回、代表の新井紀子が沖縄を訪問する機会に、北谷町を訪問させていただくことになりました。

会場となった浜川小学校は、多様なバックグラウンドをもつ児童の多い学校とのこと。Chrome(Googleが提供しているブラウザ)を活用すれば、edumapを使った学校ウェブサイトの情報は多言語翻訳されること、保護者の多くがスマートフォンでアクセスしてくることを前提に設計されていること等をお話すると、新型コロナウイルス対策をとった上で、edumap研修会を開き、全校スムーズに導入したいとのことでした。

edumapの説明の後、リーディングスキルテスト(RST)や、RSTの全数・縦断調査をしながら、読解力を幼稚園・保育園から中学卒業までにすべての子どもに身に着けさせようと独自のカリキュラムを設計している板橋区や、研究授業の共有をしている福島県の例をご紹介しながら、「科目に偏らない汎用的読解力」とは何か、そして、なぜそれを身に着けさせることが重要なのか、また、なぜそれが(子どもが自由に本を選ぶ形式の)読書の奨励だけでは達成が難しいか、ということを、①教科書に書かれている具体的な文章の比較、②本による語彙数の偏り、③物語の筋を追う読み方では理数科等で求められる論理的な読みがなかなか身に付かないこと、などをお話し、「教科書を日々、しっかりと深く読み込む」ことの重要さをお話ししました。

 

 

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