活動報告
「板橋の i(あい)カリキュラム」読み解く力 中間報告会が開催されました
東京都板橋区では読み解く力の育成を目指して、独自に「板橋 i(あい)カリキュラム」の開発を行っています。12月3日(木)には、板橋区立文化会館において「板橋の i(あい)カリキュラム」読み解く力 中間報告会が開催され、当研究所所長の新井紀子がパネルディスカッションのファシリテーターを務めました。
パネルディスカッションに先立って、板橋区教育委員会の中川修一教育長から、society5.0に向けて、板橋区では言葉の意味を理解して考えるといった人間ならではの優位性を10年間のカリキュラムの中で育成していきたいとお話がありました。
そして、今後の取組として、①板橋区がめざす「読み解く力」について理解する、②教科書で学ばせることをめざす、③6つのリーディングスキルの観点を最低1つは日々の授業に取り入れる、④児童生徒に自分の考えを書かせアウトプットする場面を入れる、⑤日常的な取組として継続していく、ことを行っていくと説明がありました。
次に、板橋区教育委員会の水谷知由統括指導主事より、板橋区の取り組みについて解説がありました。
水谷統括指導主事は、読むことができていない子どもに「教科書を読めば分かる」と指導しても内容を理解できないので、「読んでも分からないかもしれない」と考えて指導するなど、指導観の更新が必要であることを強調されていました。
また、コロナ禍で学校が一斉休校のときに、児童生徒に学習プログラムの提供を行ったところ、一人では十分に学ぶことができず、保護者が付き添わなければならなかったケースもあり、自己学習力・自己決定力の重要性が改めて明らかになったそうです。
そして、授業革新の3つの原則として
①教科の目標の達成をめざす
②子どもたちに教科書を読み取らせる
③この言葉の意味を理解しているか?と疑問をもって授業をする
の3つを常に意識して、主たる教材は教科書であり、教員が教科書を研究して授業を行うことが重要であると述べられていました。
続いて、パネルディスカッションでは、板橋区立小学校の校長をはじめ、区内学校の研究主任2名、教員2名、板橋区教育委員会の指導主事1名が登壇し、子どもたちの「読み解く力」を育成するためには、どのような点に注意すべきかが議論されました。
登壇された先生方からは、「指導書から授業をつくるのではなく、一から教科書を読んで授業を作る」「子どもたちに、なぜ?どうして?と問いかける時間を大切にしている」「最後に教科書を開くだけ、という授業から脱却する」「教科書をよく読んで、子どもたちが躓きそうな箇所を調べておく」「指導観の変換は評価観を変えること」といった発言があり、教科書で教えるために普段どのような点を意識されているのかがよく分かりました。
ディスカッションの最後に、教育委員会指導主事からは、先生方が使いやすいと感じるカリキュラムの作成をめざしていく、また、これからの授業研究等を通して「板橋メソッド」を提案したいと発言がありました。
パネルディスカッションのまとめとして、新井からは、板橋区立の学校には1800人の先生がいて、一人ひとりが「教科書を使い倒す授業」を改めて考えることが大切。教科書をもう一度読み直してみてほしい。ここを試験に出す、ここがポイントと思わずに、まずは教科書を読むことを第一歩としてやってみてほしいとアドバイスを行いました。
今回の中間報告会では、板橋区が新しく作成した板橋のiカリキュラムのパンフレットが配布されました。当パンフレットでは、読み解く力の育成のために、どのように授業改善を行えばよいのかが分かりやすくまとめられています。これをベースに板橋区で読み解く力の育成がさらに進むことが期待されます。(RST事務局)
板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。
12月3日、板橋区の学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」で令和2年度、3回目となる研究授業が実施されました。今回は、板橋第二小学校での小学5年生社会科の研究授業の様子をご紹介します。
今、板橋第二小学校の5年生の社会科では、日本の工業生産の中盤にさしかかっているところです。科学技術立国といわれる日本において、どんな工業が誰によってどのように支えられているのかを5年生の段階で理解をしておくことは、日本がこれからどのような国になっていくのか、また、自分がその国でどのような産業の担い手になっていくのかを想像する上でも重要な単元です。
今回の研究授業では、「小学社会5」(教育出版)の156ページ~157ページを学びます。この授業案を考案した山田禎文先生は、この2ページを何度も何度も読み込んだそうです。
高学年になると教科書は抽象度を増すだけでなく、異なるレイヤーの資料が見開き2ページに詰め込まれていることがわかります。黒で囲まれているのが本文、それ以外に青で囲んだ資料、薄い青で囲んだコラム、ピンクで囲んだ「強調したいポイント」(ただし、まとめではない)、加えて、緑で囲んだ「問い」があります。資料にも、統計のグラフや表、地図、そして本文の一部を強調するための写真やイラスト、歴史の場合には当時の風刺画なども含まれています。
教科書の本文を読み解くことが難しい児童にとって、このような本文と資料の関係性を把握することはさらにハードルが高いことです。そして、それはまさに近年重視されている「多様な資料を参照しつつ、自らの考えをまとめていく」PISA型読解力は、まずは教科書の見開き2ページを十分に活用して読めるようになること、から身に付けていくべきでしょう。
さぁ、この2ページの「読解」を山田先生はどのように設計したのでしょう。授業に沿って、紹介したいと思います。
今日のめあては「大工場と中小工場のちがいを知り、中小工場の特色や役割を読み取ろう。」です。
めあてを最初に書くことは、どこの教室でもしていることでしょう。ただし、山田先生の方法は、他と少し違います。「よく聞いて。今日のめあてはいつもより少し長くて難しい。だからしっかり聞いて書き始めよう」
つまり、声でめあてをはっきりと伝え、その意味を児童に考えさせて(頭の中で文字に変換させて)自力で書き始めさせるのです。児童が書き始めたのを確認した上で、山田先生はめあてを黒板に書き始めました。
山田先生のクラスでは日頃からそうしているようで、めあてを「聞く」ということに児童が「全集中」していることがわかります。これまで多くの教室で、めあてを先生が書き終わるのを待ってから、ただの文字列として児童・生徒が写している情景を見てきた私にとって、このクラスの「音としてめあてを聞いて、それを仮名漢字交じりの文章にする」集中度の高さが強く印象に残りました。こんなところからも「読み解く力」は育成できます。どのクラスでもその気になれば取り組めることではないでしょうか。
めあてを書き終えた後、山田先生は驚くべきことを児童に問いかけました。
「今日の授業のめあてが『大工場と中小工場のちがいを知り、中小工場の特色や役割を読み取ろう。』だとすると、今日の授業ではどんなことを学習しないといけないのかな。」
めあてから授業で何を学習すべきかを児童が考える、というのは究極のアクティブラーニングではないでしょうか。そのためには、もちろん事前に授業の全体設計をし、めあてから児童でも授業計画ができるように練っておく必要があります。
このめあてから、自然に2つの達成目標が導出されました。
- 大工場と中小工場のちがいを知る。
- 中小工場の特色や役割を読み取る。
「めあてを単に分解しただけではないか」と思う人もいるでしょう。いいえ、そんなことはありません。小学5年生の半数は、複文を単文に箇条書きで分解するだけでもつまずくのです。児童が今日すべきことを意識した上で、その2つを達成しようと思う、この小さなことが、この授業で児童が最後まで集中力と途切れさせない上で、鍵になっていたように思います。
めあての第一「 大工場と中小工場のちがいを知る。」に取り掛かります。
次に、山田先生は子どもたちにゆさぶりをかけていきます。
「大工場か中小工場か、というのはどこで決まるのだろう?」
- 面積で決まる。
- 働く人の人数で決まる。
- (生産額で決まる、生産量で決まる、を入れてもよいかもしれません。)
挙手をさせると、面積で決まるという児童が何人かいました。人数で決まると言った児童も明確な根拠があるわけではないようでした。
そこで、山田先生は、「実はその定義は教科書の156ページに書いてある。どこに書いてあるか探してみよう」と指示しました。興味深いことに、成績下位の児童ほど、まず本文をべったりと読んで答えを探そうとします。目の前に「キーワード」として中小工場と大工場の定義が書いてあるのに、気付きません。成績下位の児童は教科書の「構造」が十分にはよくわかっていないようです。
指導者が「書いてあるのだから、誰でもわかるはず」との先入観をもたずに、実際に探させることで、「定義だから、『中小工場とは・・・、大工場とは・・・』と書いてあるはず」と見当をつけて探そう、という基本的学習スキルとしての検索が身に付くようになるのです。具体例同定に着目した指導です。
「わかった人はいますか?」の呼びかけで、手を挙げた生徒が数名いました。ですが、山田先生はすぐに答えを言わせずに「どこに書いてありましたか?」と尋ねました。「キーワードに書いてありました」との返事を受け、「そうだね。キーワードに書いてあったね」とクラス全員で共有すると、成績下位の子も「ああ」「あ、そうか」などと声をもらし、定義を書き始めました。
教科書上の資料から、「働く人が1~299人までの工場を中小工場という。」「働く人が300人以上の工場を大工場という。」をクラスほぼ全員が「どこに書いてあるか」を認識した上で書くことができました。
山田先生は「文章になっているかな?『という』『です』までしっかり書こう」と促しました。これも、読み解く力の出力の質を高める上で重要な指導です。実は、文章で書けるか、キーワードでしか書けないかで、高学年はどの科目でも大きな差がでます。キーワードを書けているからわかっているだろう、と流さずに、「文になっているか、なっていないか」は繰り返し指導したい点です。
(文になっていない部分を指摘され、「です」を付け加えて文章化している途中のノートの様子。ただし、「働く人が300人以上の工場を大工場です」では文にならないので悩んでいるところ。このようなつまずきを予想し、表現方法をクラスで共有することで、表現のバリエーションが各自の中で蓄積されていきます。学びのコミュニティの中で学んでいく一斉授業の良さのひとつです。)
その上で、「実は働く人が1~29人の工場を小工場というそうです。中工場はどんな工場かな?」と聞き「働く人が30人~299人までの工場を中工場といいます」と答えさせていました。
算数と社会の科目横断が実現されている、良いシーンでした。
次に、まためあての1を確認し、「違いを知るために、156ページの下の帯グラフを見て、中小工場と大工場の違いを文章で書いていこう」というイメージ同定に相当する活動を行いました。RSTでは文から正しい図を選びますが、それはテストの形式上のことに過ぎません。図から正しい説明文を書くというのもイメージ同定のむしろ高度な活動です。
グラフの特徴を3つ挙げるという課題を与えると、比較的成績の良い児童はグラフを順番に見て、効率よく特徴をあげていきます。一方、中位層以下は、グラフ全体をぐるぐるみていて視点が定まらず、迷っているうちに時間を浪費しがちです。中位層以下には机間巡視の際、「まず最初のグラフからわかることを文にしてみよう」などとアドバイスするとよいでしょう。第一のグラフから
- 工場数は圧倒的に中小工場が多い。
- ほとんどの工場が中小工場である。
が出てくると良いのですが、
・工場数は中小工場の方が多い。
のように「どれだけ」の修飾節を書けない児童がいます。この修飾節を書けないと、理科でも国語でも困ります。修飾節や形容詞を適切に書くことに対して児童がインセンティブを感じられるようになれるとよいですね。机間巡視のときに、的確な修飾節や形容詞、接続詞等を書いた児童のノートの該当箇所に赤丸をつけて「かっこいいね!」などとほめ、「〇〇さんは「主に」「圧倒的に」という言葉を使ったよ、かっこいいね」などのようにして語彙を共有する授業を心がけるとよいでしょう。表現に困ったときにぴったりとあてはまる語彙を学んだとき、語彙はもっともよく身に付くからです。
こうして、皆が特徴を挙げたことで、
- 工場数は圧倒的に中小工場が多い。
- 働く人の数は中小工場の方が多いが、その割合は全体の2/3程度である。
- 生産額は大工場の方がやや多いが、中小工場と同じくらいである。
- 機械工業では、大工場の生産額の方が多い。
- 重工業では大工場の生産額の方が多い。
- 軽工業では中小工場の生産額の方が多い。
などが並びました。ここで、156ページの下の左側の帯グラフは中小企業と大企業の「割合」に関するグラフであるのに対し、右側の帯グラフは「生産額」という絶対量に関する帯グラフである、ということを認識していた生徒が少なかったのがやや気になりました。本来ならば「重工業では、大工場の生産額の方が多い」と書くべきところ、「重工業では大工場の方が多い」と書いた児童が相当数いました。この2つは異義です。同義文判定が重要になるのは、このような場面においてです。ここは一歩踏み込んで、同義か異義かを確認するとさらに良かったでしょう。
ところで、2つめのグラフのラベルは「各工業の生産額にしめる中小工場と大工場の割合」です。「しめる」という言葉になじみのない児童は少なくありません。学習必須用語ですから、さらっと流さずに確認しておきたい語彙です。
ここまでで、今日のめあての半分である1が終わりました。「まだ2つめのめあてが終わっていないね」と山田先生は児童に確認させます。児童が時計に目をやり、「残り時間で2を頑張らないと」と思う様子がほほえましかったです。今日すべきことのどこまでが終わったか、とプログレスを意識する、ということは自学自習をスムーズに進めていく上でも必要になる能力です。授業時間の管理を先生が一方的にするのではなく、児童も意識することで、時間管理の方法を具体的な成功例や失敗例を体験することで学んでいくことができます。
さて、2つめは「 中小工場の特色や役割を読み取る」です。
見開き2ページの右側にそのことが書いてあります。「157ページの本文をよく読んで『中小工場の特色や役割』について書いてある部分に線を引こう。その上で、できるだけノートに箇条書きにしよう」と児童を励まします。ここは、中小工場の特色や役割が、3つの長い複文の中に埋め込まれています。その中から、児童は次のような特色を挙げました。
- 中小工場は、情報を交かんし、協力して製品の開発に取り組んでいる。
- 中小工場は、高い技術をもっている。
- 中小工場は、大工場の生産を支えている。
興味深かったのは「それぞれの中小工場でもっている高い技術を生かしてつくり出される製品は、大工場の生産を支えるとともに、わたしたちのくいらしの様々な場面で使われています。」の文から「中小工場は何をもっていますか?」に答えられる児童が大変少なかったことです。係り受け解析の能力が問われる場面です。
5年生にとって「もっている」というのは、「品物を所有していること」であって、「高い技術をもっている」ということが腑に落ちないのかもしれません。「もつ」という基本語彙であってもその使い方が高学年になると変化することで、児童がつまずくということをよく把握した上で課された箇条書き課題でした。
その上で、山田先生は157ページの写真と地図に着目させました。円筒の金属から複雑な形状の部品を作っている写真です。
「これは、中小工場で生産された製品ですが、それは、今出た3つの特色のうちのどれを表した写真ですか?」
という問いかけに対して、
- 高い技術を示した写真
という答えが多くの児童から聞かれました。手を挙げるか迷っていた下位の生徒も「ああ」という声が聞かれ、「高い技術をもつ」ということの具体イメージが持てたのではないかと思います。
次に、(やや駆け足になりましたが)157ページ右上の地図、「工場が多く集まる地域」に着目させました。まず、既習知識の確認です。
「どんなところに工場は集まっているかな」
「関東と関西」という答えもありましたが、先生が、おなかの周りをジェスチャーで示したことで「太平洋ベルト」という答えが引き出されました。その上で、さらに「どうしてここに工場が集まっているんだろう。今挙げた特徴から考えてみよう」と高度な問いかけをしました。
このような高度な問いは、特徴をあげずに問いかけると、答えが発散してしまい、どの意見が正しく、どの意見は間違っているのか、わからないまま授業が終わってしまいがちな部分です。この授業では、前もって特徴を挙げていたからこそ、
- 協力して製品をつくるのに都合がよいから。
- 大工場のそばに中小工場が集まるから。
など、論理的に推論をすることができました。
最後に、まとめを書いた後、各自がふりかえりを書きました。その中に、
「今日は中小工場の数や特色のことがよくわかった。次は大工場の特色について勉強したい」という意見がありました。
ところが、教科書は中小工場に多くのページ数を割いているのに、大工場については記述がないのです。
参観された文部科学省の塩見みづ枝審議官(初等中等教育局担当)は、「それは大変申し訳なかった」と苦笑しながら、「児童がこれだけ意欲をもって学んでいるので、興味関心に応える学習指導要領にしなくては」「教科書を『使い倒す』ことで、これだけ豊かな授業が生まれることに感銘を受けた」との感想を述べられました。
RSの概念に基づきつつ、しかも本来の科目の目標をしっかりと達成できた、まさに「読み解く力を育成する授業」でした。
全国どこの学校でも実践できる極めて質のよい授業を考案してくださった山田先生と板橋第二小学校に心から感謝します。
ワンポイントアドバイス
小学校の授業は、通常見開き2ページで一回の授業を組み立てます。社会科では、2つまたは3つの項目で2ページが構成されています。そこで、社会科のめあてをつくるとき、各項目をまとめた複文で全体のめあてを作ると、授業をスムーズに進めやすくなり、時間切れによる取りこぼしがなくなります。
山田先生のめあても、156ページで1つ、157ページで1つという2つのめあてで、授業全体のめあてが構成されていることがわかりますね。
考えてみよう
一人一台パソコンが小中学校に導入されつつあります。学校には、教科書を紙のままにするかデジタルにするか、迷っているところもあるでしょう。デジタル教科書は、キーワードで検索ができたり、知らない言葉に辞書が連動しているなどのメリットがあります。一方で、デジタル教科書が想定しているキーワード検索をして適切な箇所を参照したり、辞書機能を自ら使いこなすことは、高学年であっても困難であることが上記授業録からもわかります。
国立情報学研究所等の研究グループや教育のための科学研究所が行ったこれまでの研究成果から、以下のようなことがわかっています。
- 県立偏差値上位の高校であっても、デジタル化した教科書を自由に検索をして記述式問題(日本史)に答えるタスクの正答率が極めて低かった。一方、ほとんどの生徒が、「答えが書いてあるページ」は検索によって表示していた。つまり、検索の技巧が低いというより、検索して目的のページを表示しても、そこを読み解く力がないため、タスクに失敗したと考えられる。
- A町の小中学校において、RSTをふりがななしと総ルビをつけた状態半々で実施し、正答率を比較した。その結果、全学年で、ルビあり・なしで正答率は統計的に有意な差がなかった。加えて、小学6年生から中学2年生までは、ルビを活用していないと思われる(問題文を読む時間が有意に伸びていない)一方、中学3年生は問題文を読む時間が有意に伸びたので、ルビを活用したと考えられる。ただし、その中学3年生も正答率は上がっていない(むしろ下がった)。
デジタル教科書には、紙と異なり、様々な「押すことによって状態が変わるボタン」(リンクやルビ等)があります。小学生では授業中に集中が切れると、こうしたボタンを次々に押してしまい、元に戻ってこられなくなるという現象がよく見られます。
紙とデジタルを選ぶ上で参考になれば幸いです。
リーディングスキルフォーラム ふくしま2020 が開催されました
2020年11月22日(日)にビッグパレットふくしま3階中会議室において、「リーディングスキルフォーラムふくしま2020」が開催されました。コロナ禍のため、会場座席数の3分の1が定員(105名)となったこともあり、告知わずか数日で予約が埋まり、急遽オンライン配信も実施することになりました。当日は、対面・オンライン合わせて230名以上の方が参加され、盛況のうちに開催することができました。
今年はコロナ禍により、当研究所が例年11月に開催していたリーディングスキルフォーラムの開催を断念せざるを得ませんでしたが、リーディングスキル向上を通じて学力や人間力の向上を目指す、 rst-laboふくしま(通称:F-labo)の皆さんが中心となって、リーディングスキルフォーラムふくしま2020を開催してくださいました。
第一部では、まず、研究開発の現場からの報告として、当研究所主席研究員の菅原真悟より「読解力を鍛えるには~RSTで自分の読み方を見直す~」と題して、リーディングスキルテストがどのようなテストなのか、またリーディングスキルテストと学力の関係についての報告を行いました。そのうえで、リーディングスキルの観点で読解力を鍛えることの大切さについて解説がありました。
次に、RSTの導入事例として、「相馬市が目指す教育行政~方向性の絞り込み~」と題して相馬市教育委員会教育長の 福地憲司 氏より、相馬市内の全学校にリーディングスキルテストを導入した経緯についての報告がありました。
相馬市では、これまで読解力を測る客観的なデータがなかったので、RSTを導入することで評価の指標として使いたいと考えたそうです。また、児童生徒だけではなく教員もRSTを受検することによって、RSTについての理解を深め、読解力向上に向けた取り組みを進めていくとのことです。
子どもたちに「瞬間学力」ではなく、これからの人生を「生き抜く力」を育成するための取り組みの中心に、RSTを位置付けていただいています。
第二部では、実践報告として、最初に福島県立安積黎明高等学校教諭 今野充宏 氏の山川出版社の『詳細日本史B』を用いた模擬授業の実演が行われました。
授業では、教科書をもとに、どのように授業を行っているのか模擬授業が実施されました。教科書を読みながら生徒に質問を投げかけ続けることで、主語、述語、目的語を生徒に意識させつつ日本史の内容を学ぶ授業となっています。「係り受け解析」「照応解決」「推論」を意識した授業内容となっていて、太字のキーワードを覚えるのではなく、教科書全体を通して日本史を構造的に学ぶように設計されています。授業の際、40人学級の場合、最低でも1回の授業で2回は質問を当てることを心がけているそうです。
次に、授業実践事例紹介として、いわき市立湯本第一小学校教諭の 徳永一夢 氏より、小学校での授業実践報告がありました。徳永氏は小学校4年生の担任ということもあり、受け持つ子どもたちがRSTを受検できませんが(RSTは6年生以上を対象に設計しているため)、リーディングスキルの観点で読解力育成を念頭に授業を行っており、国語、社会、算数、日常の実践(視写)での取り組みが紹介されました。
国語科の「漢字の広場」の単元では、RSTを知ったことでこの単元あらためて見直すことができ、「書くこと」によって語順や文の構造への意識を高める授業実践につながったこと、算数科の業者テストをRSTの6分野7項目で分類すると、あてはまることがほとんどで、そこから授業を組み立てられることなどの報告がありました。
読解力の育成には、教員自信がまず教科書を読み、教科書に出てくる言葉にこだわり(「ひっかかり」)、子どもたち学びを阻害する言葉に気づくことが大切であると述べられていました。
最後に、東京学芸大学准教授の 犬塚美輪 氏より「読むことに関する3つの誤解-読むことをどう教えるか-」と題した講演がありました。
講演で犬塚氏は、読解力育成に関するよくある3つの誤解として、
1.辞書・教科書を読めば語彙・知識が獲得できる
2.読解力を高めるためには特別な授業が必要だ
3.グループ学習で言語力が高められる
と言われることがあるが、けっしてそう単純ではないことが具体的な例を提示しながら解説していただきました。そのうえで、読解力の育成には、
・理解には内包と外延の両方が重要
・日々の授業の中で「どう読むかを」明示的に指導する
・児童生徒の良い説明を引き出す
といった3つの観点が重要であるとまとめられました。
なお、当日のフォーラムでは、当研究所所長の新井紀子もzoomでサプライズ参加いたしました。新井からは、子どもたちの読解力育成のために、まず教員がRSTを受検して読解力について理解しようする自治体が増えていることを紹介しました。そして、子どもたちが自学自習できる力を身につけ一人で歩いていけるために、読解力を育成する教育が今まさに求められていることをお伝えしました。
写真 講演の様子(東京学芸大学 犬塚美輪 氏)
F-labo 10月例会を開催しました(rst-labo ふくしま)
rst-labo ふくしま(通称:F-labo)では、福島県内の小学校から大学まで多くの先生方がリーディングスキルについて自発的に学びあいを行っています。
10月の例会が郡山市富久山総合学習センターで開催されました。郡山市のガイドラインに基づき、ソーシャルディスタンスを取りつつ毎月開催しています。
今回のF-laboは、授業実践報告2件とワークショップの構成で開催しました。
まず、岩根小学校の菅野千恵先生から、小学校4年生算数科「ちがいに注目して」の授業についての実践報告がありました。
この問題文を正しく読解させるため、まず、「りこさんのまい数の方が12枚多くなるようにします。」の文を、たいちさんを主語にして同じ意味になるように言い換えさせ、「たいちさんはりこさんより12枚少ない」を引き出します(同義文判定)。
子どもたちは、「60枚の色紙を2人で分ける」という文を読むと、「分ける=割り算」と安易に考え、60÷2=30と計算し、その考えに固執します。そこを、2人の数量関係をテープ図を基に線分図に表すことで、視覚的に問題文をとらえさせます(イメージ同定)。そして、「12枚を引けば(12枚足せば)同量になる」、「合わせて60枚」であることを理解させます。このように同義文判定、イメージ同定の力を使って立式させ、「60-12=48→48は何を表しているか」「48÷2=24→どうして÷2をするのか」「24+12=36→どうして12を足したのか」など、式の意味を問いながら2人の枚数を求めていきます。
菅野先生は、「子どもたちは問題文全体をとらえることができないため、RSTの6分野7項目の複数の力が必要になる」と、子どもたちのRSTの結果を分析し、実態に合わせた授業実践を心掛けているとのことでした。
次に、喜多方第一小学校の渡邉良輔先生からは、これまで行ってきた「学びあい」についての研究に加えて、RSの視点を入れた研究に発展させているという報告がありました。
RSTを実施したことで、子どもたちが抱えている読解力に関する課題について、データ化し顕在化できたそうです。
これまで、読み方の指導についてはいろいろなやり方が提唱されていますが、評価することが難しいため、RSTを評価ツールの一つとして引き続き取り入れていく予定だそうです。
最後のワークショップでは、教育のための科学研究所の目黒朋子上級研究員が、授業準備のためにどのように教科書を読めばよいのか、ワークシートを用いたワークショップを行いました。
ワークショップでは、東京書籍『新編新しい社会5上』の98、99ページを用いて、授業でおさえたい言葉、子どもたちにとって親和性が低い言葉を抜き出し、音読の際の注意点やRSの観点からどのような授業を行えるのかを考えました。
このワークショップを体験した先生方からは「こんな風に教科書を読んだことはなかった。」「校内研修で実施したい。」との感想が述べられ、目黒からは、教員が教科書を丁寧に読み、言葉に敏感になることが大切であるとの助言がありました。(RST事務局)
F-laboのロゴマーク。たちあおいの花言葉:「大望」「豊かな実り」。
板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。
10月27日、令和2年度板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業(第3回目)が、板橋第七小学校で行われました。教育のための科学研究所からは、新井紀子代表のほか、菅原真悟主席研究員が参加し、各科目の研究授業の参観、助言を行いました。
第6学年の社会科では、現在、第2章「日本の歴史」の第8節「明治の新しい国づくり」(教育出版)の中盤に差し掛かったろころです。前回は自由民権運動、そして今回はいよいよ国会開設の前の大日本帝国憲法制定について学んでいきます。
日本近代史は、内容が複雑で、ストーリーとして読み解くことが難しいこともあり、高校生でも理解することが難しい箇所です。ただ、授業者は「大日本帝国憲法と日本国憲法を比較し、明治政府がどんな国づくりを目指していたのかを読み解く授業をしたい」と強く望んでいました。教科書が提案している↓の「発展的内容」以上に挑戦的な課題です。
大日本帝国憲法を、五日市憲法や、今の日本国憲法と比べて、どのような特徴があるか考えてみよう。 (「小学社会6年」、p.187、教育出版、令和2年1月20日発行) |
新しい指導要領では、6年生は日本史よりも先に公民を学びます。つまり、1学期のうちに日本国憲法の内容や特徴は学んでいるのです。その意味では、大変有意義な授業目標です。一方、1学期の内容が十分に児童に定着していないと混乱する可能性もあります。また、大日本帝国憲法の特徴が見開き2ページ、1段落+資料にコンパクトにまとまっているのに比べて、日本国憲法についての記述は10ページから29ページと20ページにわたっており、検索能力に課題のある児童では比較まで至らないことが懸念されました。
そこで、授業者の希望を尊重しながら、「大日本帝国憲法に関する次の記述から、その特徴を箇条書きで抜き出す」ことまでを自力解決させ、その結果を全員でしっかりと確認することを提案しました。予定時間内に全員がそこまで達成できたら、発展的内容として、日本国憲法の特徴をグループで読み解かせます。大日本帝国憲法と日本国憲法を黒板上で比較しやすくするために、特徴の箇条書きの順番を揃えること、文型を揃えることを提案しました。
クラス全員に自力で読み解かせたいのは以下の段落です。
この憲法では、主権は天皇にあり、天皇が大臣を任命し、軍隊を統率し、外国と条約を結ぶことができると定められました。言論の自由などの国民の権利も、法律で定められた範囲内で認められました。国会は、法律をつくったり予算を決めたりする権限をもつことと定められました。 (「小学社会6年」、p.186~187、教育出版、令和2年1月20日発行) |
ここから、7つの特徴を箇条書きで8分程度で抜き出すことができれば、かなりよく耕されたクラスだと言えるでしょう。7つあることを事前に伝えることにより、RSが低い児童でも目標をもって取り組むことができます。また、漏れがないかチェックすることもできます。
大日本帝国憲法の特徴
- 主権は天皇にある。
- 天皇が大臣を任命する。
- 天皇が軍隊を統率する。
- 天皇が外国と条約を結ぶことができる。
- 言論の自由など国民の権利は、法律で定められた範囲で認められた。
- 国会が法律をつくる権限をもつ。
- 国会が予算を決める権限をもつ。
これを箇条書きするのは「当たり前で、何の読解力も必要としない」と多くの大人は考えがちです。しかし、RSTの係り受け解析・照応解決で能力値が0.5 を超えないと、これをすらすらと書くことは難しいのです。実際、この日の授業では、クラスの半分以上の児童が、「軍隊を統率する」の主語がわからず、2で止まってしまいました。この箇条書きタスクで1や2で止まってしまう児童ですと、20ページにわたる日本国憲法の記述の中から、これと比較できる箇所を見つけ出し(検索タスク)、同じ文型で記述する(同義文判定)タスクに取り組める可能性は極めて低いので、授業の軌道修正が必要です。
RSTを受検した学年で、その結果の分散が大きかったり、評価3以下の生徒が半数いるようなクラスでは、まずは、このような基本的タスクを確実に達成できるかをよく見守り、基本ができたことを共に喜ぶことで児童の自己肯定感を高めましょう。児童のRSに合わない高度すぎる課題にやみくもに取り組ませると、かえって児童が興味関心を持てなかったり、自己肯定感を下げてしまう結果になることが心配です。
この段落に登場する「統率」という言葉にはルビがふってあります。新出の漢字かつ熟語です。授業者には、この漢字を児童が正しく写せたか、意味がわかるかを確認する時間の余裕をもって丁寧な指導案を作成してほしいと思います。
***
もしも、上述の基本タスクを8分以内にほぼ全員が遂行できる「よく耕されたクラス」であれば、5分以内で書き終えた生徒には、同じページに掲載されている他の段落や資料から、それ以外の情報も箇条書きに加えるように指示しましょう。
例:
- 国会は貴族院と衆議院から構成される。(187ページ右図から、非言語情報の言語化)
- 衆議院議員のみが選挙で選ばれる。(187ページ右図から、非言語情報の言語化)
- 選挙権をもつことができたのは、一定の金額以上の税金を納めた25才以上の男性に限られた。(187ページの段落から抽出)
- 国民から徴兵することで軍隊がつくられた。(187ページ右図から、非言語情報の言語化)
第二段落を直接箇条書きするのは係り受け解析や照応解決で達成できますが、非言語情報の言語化は「イメージ同定」の逆になり、読み解くだけでなく書く力も求められます。クラスの上位層にはちょうど良いタスクになるでしょう。
ここまでの内容を黒板の左側に挙げていき、いよいよ日本国憲法の復習をしながら、右側に、帝国憲法と対比するような形で特徴を挙げていきます。これは高度な検索能力と、同義文判定能力が求められます。大日本帝国憲法と特徴の記述の順序が異なるのも、RSが低い児童が苦労する点です。グループで活動をさせ、担当ページを割り振って検索させる(検索範囲の限定)、該当箇所が正しいか吟味させる等のグループ解決をすると良いでしょう。
- 主権は国民にある。(p16)
- 内閣総理大臣が大臣を任命する。(p.24)
- 軍隊はもたない。(p.20)
- 内閣が外国と条約を結ぶ権限があるが、国会の承認を得る必要がある。(p.24)
- 国民には、居住・移転、職業を選ぶ権利、法のもとの平等、政治に参加する権利、信教・学問・思想の自由、健康で文化的な生活を送る権利、働く権利、裁判を受ける権利、団結する権利、言論・出版の自由、教育を受ける権利が保障されている。(p18資料より)
- 国会が法律をつくる権限をもつ。(p.22)
- 国会が予算を決める権限をもつ。(p.22)
最後の2つが共通で、それ以外は異なることがわかります。その上で、大日本帝国憲法と日本国憲法の違いを言語化できるクラスであれば、小学生の「読み解く力」としては百点満点といえるでしょう。
この授業では、冒頭に先週の自由民権運動の振り返り等を盛り込んだりしたことも災いして、2番目を何人かが到達できただけで時間切れになってしまいました。2番目の項目について「内閣が大臣を任命する」と書いた児童も複数いましたが、それが「内閣総理大臣が大臣を任命する」と同義か異義かの指導もできないままでした。
児童のRSに比べて過大な要求をすると、すべてが中途半端になってしまい、児童は「何が正しくて、何が間違っているのか」を判断できないまま授業時間を過ごすことになります。
「すべてのクラスにとって正解な授業」は存在しません。児童・生徒のRSTの結果に応じたテーラーメードな授業設計が求められるといえるでしょう。
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板橋第七小学校では、朝の時間や授業前の数分を使って、読み解く力、聞く力を高める取り組みをしています。このクラスでは、「先生が口頭で言った内容を図にする」ことをゲーム感覚でイメージ同定として取り組んでいました。この日の「お題」は、「四角に対角線をひく。四角の中にいっぱいになるように丸を書く。対角線の上下と丸の内側を黒く塗る」でした。このとき、「いっぱいになるように」と「いっぱい」を聞き取り間違えて、四角形の中にたくさん円を書いた児童がいました。
ただ、6年生ですので「四角」や「まる」ではなく、「正方形とその対角線を、正方形の底辺が下になるように書く。正方形の内側になるべく大きな円を1つ書く」のように、より明確な指示をするとよいのではないか、との意見が授業後の研究会では参観した他の教員から指摘がありました。答えが一通りに決まる明確な指示を準備することは、教員自身のRSを高める上でも、非常に効果的な鍛錬になると感じました。
沖縄県教育庁を表敬訪問しました。
教育のための科学研究所所長の新井紀子が沖縄県教育庁を表敬訪問し、金城弘昌沖縄県教育長と意見交換を行いました。
近年、沖縄県では全国学力調査における小学校のA問題はかつてに比べて改善されたものの、中学校で伸び悩んでいるのが悩みとのお話しを伺いました。
学テA問題に課題がある自治体では、A問題に似た算数・国語のドリルを高学年で多用することが多いようです。昨年のPISA調査で日本の読解力の順位が下がったのは「日本の子どもがICT慣れしていなかったせい」との誤った報道もあり、「とにかくタブレットを入れなくては」と考える自治体は少なくありません。
しかし、小中学校で一人一台タブレットを導入し、職員室にプリンターも配置して教員が自由にプリントを印刷できるようにし、エアコンも設置して、ドリルも購入したのに、中学校で伸び悩む自治体が多いのが実情です。
そんな中、「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」をお読みになって、「うちの自治体の子どもたちも、そもそも教科書が読めないのではないか」とRSTをお申込みになられるところが増えています。
RSTの能力値は、中学3年生の国語だけでなく、数学、理科とも0.5~0.7の高い相関があることが各自治体の調査から明らかになっています。また、県立の中間一貫中学校と同じ地域の公立中学校では、やはりRSTの能力値、解ける問題数が大きく異なることがわかっています。このことから、小学校卒業の段階で、どの科目の教科書も確実に意味が分かって読める児童を育てて中学校に入学させること。そして、さらに抽象度が増し、難しくなる中学校の教科書を自力で読んで理解できる生徒を育てる、という基本こそが教育立県のためには大切なのではないか、というお話しをさせていただきました。
小中の教科書は、国により無償で提供されます。財政が厳しい自治体や家庭であっても、教科書は手に入ります。その教科書を100%活用する授業を組み立てること、その授業が浸透するために家庭と協力して普段から子どもたちの基礎的な学ぶ力を耕すことが大切です。
教育指導統括監や義務教育課長も同席され、様々なご質問を頂きました。沖縄の学力向上の一助になれば幸いです。
沖縄県立球陽中学校で研究授業をしました。
まだ最高気温が30度になる沖縄で、研究授業を実施しました。
今回、お招きいただいたのは沖縄県立球陽中学校です。中高一貫の公立学校です。迎えてくれたのは中学3年生の生徒のみなさん。礼儀正しく明るい笑顔が印象的な学校です。
授業のテーマは「偽定理を探せ!」
これは中学1年生から大学生までどの学年でも実践していただける授業として、『AIに負けない子どもを育てる』(新井紀子著、東洋経済新報社、2019年)でも紹介しています。冒頭で、「真偽が決まる文を命題という」という定義を紹介し、どのような文が命題で、どのようなものはそうでないかを区別できるようにします。その上で、真であることが証明された命題を「定理」と呼ぶと説明し、「今日、皆さんは数学者になって、命題の真偽を見分け、真だと思うものには証明をつけましょう。偽だと思うものには、偽である証拠を見つけましょう」と活動の概要を説明しました。
ここまで約5分ですが、すでに球陽中が、私が今まで「偽定理を探せ!」を指導した中で、ずば抜けて「よく耕されたクラス」であることを感じました。
よく耕されたクラスの特徴は、「集中できる」「聞ける」「待てる」にまず現れます。「どれが定理かどうかなんて、自分には関係ない」と思えば急速に興味を失うものです。経験が限られている児童生徒は、どうしても視野が狭い面があります。「待てない」「聞けない」ことで、可能性を狭め、世界への窓を閉じてしまうのを見ると残念に思います。
このクラスは、5分間、一人も脱落せずに話を聞いているので、今日はだいぶ先に連れて行ってあげられるな、と直感しました。
最初の問題は定番の「0は偶数か」問題です。
0は偶数である。 |
偶数に手を挙げた生徒が圧倒的多数でした。(※RSTで大学生や一般社会人の3人に2にが「0は偶数ではない」を選ぶのに比べて、球陽中の3年生がいかに定義を正確に読めるか、がわかります。)ただ、数名「これは偽定理」だと言いました。
意見が割れたときには、定義に戻ることが重要です。
偶数の定義は?というと手を挙げて次のように答えてくれた生徒がいました。
2で割り切れる整数を偶数という。 |
「0 割る」と聞くと、「できない」と反応するRST受検者は少なくありません。「どんな数も0では割れない」ということと混同しているのでしょう。0は2で割り切れます。やってみましょう。
0÷2=0 あまり 0
つまり、これは真の命題で、しかも証明がつきましたから、「定理」になりました。
ここで、「偶数を他の文章で定義できますか?」と聞きました。すると、
「整数の並びは偶数、奇数、偶数、奇数、・・・と順番に繰り返す」という意見が出ました。
「でも、整数の並びは、奇数、偶数、奇数、偶数、・・・と順番に繰り返しているともいえるのではありませんか?」と問いかけると、はっとして、「ああ、確かにそうです。これではだめです」と返事がありました。このように指摘をされたときに、自分で「はっ」とする、ことが学びではとても重要です。はっとして、ああそれではだめだと思うから自分で修正ができるのですから。「はっ」とする瞬間、子どもは一番自分ごととして学ぶと感じます。
そうこうしているうちに「2の倍数を偶数といいます」という意見が出ました。私が「変数を使ってみませんか?」と誘うと、「$$2n$$で表される整数。(ただし、$$n$$は整数)」という意見も出ました。定義は何種類か持っていると使い勝手が良いのです。それはおいおいわかってきます。
次も定番問題です。
どんな素数も奇数である。 |
まず、素数の定義から振り返りました。
1とそれ自身以外は約数をもたない、1より大きい整数を素数という。 |
素数の定義は数学でしかありえないような複雑な形をしています。悪文といってもいいでしょう。けれども、それ以外表現のしようがないのです。平易な文では表現できないことが科学の中にはたくさんあります。
球陽中ではあっという間に、これは「偽定理」だと見抜かれました。理由は「2は偶数で素数だから」です。「反例」です。反例をみつければ、偽定理だということを簡単に説得できます。
次に挑んだのは次の命題です。
連続する2つの整数の和は、奇数になる。 |
こういうシンプルな命題を証明するにはコツがあります。それは式にすることです。式の中には「ことば」を含めることはできません。「連続する2つの整数の和」を式にするにはどうしたらよいだろう。
そう、変数を使えばいいんです。
連続する2つの整数の和は、$$n$$を整数として、$$n+(n+1)$$と表すことができる。 $$n+(n+1)=2n+1$$ なので、これは奇数である。 |
式にすることの良さは「式にすれば勝手に式が考えてくれるところ」(by ライプニッツ)にあります。変形すると、「奇数だ」という証拠が出てくるわけです。先ほど、偶数の定義として、「$$2n$$(ただし$$n$$は整数)と表せる数」という確認をしておいたことが、ここで効いてきます。
このクラスならば大丈夫と思い、最後はちょっと難しい問題を出しました。
連続する2つの整数の積は偶数になる。 |
一般に、いくつかの数に、ひとつでも偶数が混じっていれば、その積は偶数になります。
多くの生徒が「$$n(n+1)=n^2+n$$」という式を前に「うーん」と悩んでいます。その悩める時間の長さこそが、生徒の伸びしろになります。
ここには答えは書きません。みなさんもぜひ「うーん」と悩んでみてください。
北谷町で講演会を開催しました。
北谷町は沖縄県で最初にedumapの一斉導入を決めた自治体です。
台風が多く、また人口10万人当たりの新型コロナウイルス感染者数が多い沖縄において、edumapが導入され、保護者に対して迅速に緊急情報が伝わり、子どもたちの安全が確保されること、そして休校中の学びが保障されることは、「教育のための科学研究所」の願いです。
今回、代表の新井紀子が沖縄を訪問する機会に、北谷町を訪問させていただくことになりました。
会場となった浜川小学校は、多様なバックグラウンドをもつ児童の多い学校とのこと。Chrome(Googleが提供しているブラウザ)を活用すれば、edumapを使った学校ウェブサイトの情報は多言語翻訳されること、保護者の多くがスマートフォンでアクセスしてくることを前提に設計されていること等をお話すると、新型コロナウイルス対策をとった上で、edumap研修会を開き、全校スムーズに導入したいとのことでした。
edumapの説明の後、リーディングスキルテスト(RST)や、RSTの全数・縦断調査をしながら、読解力を幼稚園・保育園から中学卒業までにすべての子どもに身に着けさせようと独自のカリキュラムを設計している板橋区や、研究授業の共有をしている福島県の例をご紹介しながら、「科目に偏らない汎用的読解力」とは何か、そして、なぜそれを身に着けさせることが重要なのか、また、なぜそれが(子どもが自由に本を選ぶ形式の)読書の奨励だけでは達成が難しいか、ということを、①教科書に書かれている具体的な文章の比較、②本による語彙数の偏り、③物語の筋を追う読み方では理数科等で求められる論理的な読みがなかなか身に付かないこと、などをお話し、「教科書を日々、しっかりと深く読み込む」ことの重要さをお話ししました。
板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。
10月1日、令和2年度板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業(第2回目)が、板橋第一中学校で行われました。教育のための科学研究所からは、新井紀子代表のほか、菅原真悟上席研究員、犬塚美輪学芸大学准教授(教育のための科学研究所客員研究員)が参加し、各科目の研究授業の参観、助言を行いました。
研究授業のひとつである中学2年生の数学は、一次関数が題材でした。関数は中学生にとって最も理解が難しい内容のひとつで、一次式と一次関数の区別がつかない生徒も少なくありません。教育指導要領が求める「数学を使うことの良さ」を実感させることもなかなか難しい単元です。
本授業では、教育のための科学研究所からの事前助言に基づき、3つの問いから始まりました。
次の文章のうち、「変化する2つの量」の関係が「一次関数」になっているものはどれかを考える問いです。
- ダイエットに挑戦したが、体重が増えた日もあれば減った日もあった。
- ひまわりの種をまいたところ、芽が出てからしばらくはなかなか成長しなかったが、その後ぐんぐん成長し、花が咲くころに成長が止まった。
- 冷たいペットボトル飲料をある保冷バックに入れて持ち歩いたところ、その飲料は時間がたつにつれてほぼ一定の割合で温度が上がることがわかった。
クラス全員が3が一次関数であると手を挙げました。
授業者はここで流すことなく、(1)なぜ3は一次関数だと思ったのか、(2)1と2はなぜ一次関数ではないと思ったのか、を生徒から文章で引き出していました。これは、具体例同定(理数)の活動として位置づけられました。
「3は時間に対して一定の割合で温度が上がるので一次関数になる」「1は時間に対して体重が一定の割合で増えても減ってもいないので一次関数ではない」「2は時間に対してひまわりの成長が一定でないから一次関数ではない」
ただし、2について「変化する2つの量」が何かがわからない生徒もいました。「ひまわりの高さ」が明示的に文中に書いてないので迷うようです。このように、ふつうに書かれている文章の中で、着目すべき数量が何かを取り出すこと、そして、その関係を式で表すことの良さ(=未来や過去を予測できる)を感じてほしいと思います。
次に授業者はプリントを配布しました。そこには、実際にペットボトル飲料の温度がどのように変化したかが表になっています。
分 | 20 | 30 | 40 | 50 | 60 |
℃ | 5.2 | 5.8 | 6.4 | 6.9 | 7.6 |
まず、「変化量」を見ます。小数が入る2桁の引き算を4回しなければならないのですが、結構時間がかかりました。やはり小学校で3桁の計算までは苦労なくできるようになって中学校に進学しておくと、中学校の授業では概念理解に集中できますね。適度な量のドリル、そして中学入学後も一定量の四則演算ドリルは必要だということがわかります。
さて、差分は、0.6, 0.6, 0.5, 0.7になりました。平均すると「10分ごとに約0.6度上がる」と言えるというところまでは全員が納得できました。ところが、「1分(1単位)ごとにどれだけ変化するか」がなかなかわかりません。
「10分で0.6度上がる」⇔「1分で0.06度上がる」
の変換が難しいようです。これはRSTでは「同義文判定」に位置付けられる内容です。
このあと、表をグラフで表し、式にしていきます。その際、教科書に書かれている一次関数の定義を振り返ります。
一次関数とは$$y$$を$$x$$の一次式で表せる関数のことである。 $$ y=ax+b $$ $$a,b$$は定数 |
この定義を正確に理解するのが極めて難しいことが、RSTのこれまでの結果からわかっています。
まず、$$a,b$$は定数という但し書きを読まずに、前提なしに「$$ax+b $$」という形の式は一次式だと勘違いする生徒(学生)は東大生にも少なくありません。また、「$$y$$を$$x$$の1次式で表せる関数」を正しく読解できる生徒は少なく、その後に書いてある$$ y=ax+b $$を一次式だとほとんどの生徒が読みます。正しくは、$$a,b$$は定数のとき$$ax+b $$は一次式であり、そのような$$x$$の一次式として$$y$$を表せる、つまり$$ y=ax+b $$と表現できるとき、一次関数といいます。
このように解像度高く読まないと、数学では様々な概念を混同してしまいますので、注意が必要です。授業者には、生徒の興味関心を引くだけでなく、解像度高い読解を促すような問いかけも意識してほしいところです。
プリントで示された表には初期値、つまり最初の温度が書かれていません。20分後からの表だけです。$$x=20$$と$$x=60$$の$$y$$の値から、連立方程式で式を求めるか、変化の平均値が1分ごとに0.06度であることから$$ a=0.06 $$は得られているとし、20分後の値から一次方程式を解くことで、切片である$$b$$を求めるなど、いくつかの方法で生徒たちは、求めるべき式、
$$y=0.06x+4$$
を導出しました。一人ひとりだとなかなか難しかったので、隣どうしで話し合いを行うことで計算間違いを見つける等の手がかりを得て、式にたどり着けた生徒が多かったようです。ここでも小数のある計算、特に割り算に中学2年の段階でも課題が残っていることがわかりました。
こうして、「ペットボトルの中の飲料は、時間を$$x$$としたとき、温度yは$$ y=0.06x+4 $$という式に従って上昇する」というまとめで授業は終わりました。
ここで、新井が手を挙げて、こんな問いかけをしました。
では、1600分後には、ペットボトル飲料は沸騰しますか? |
これは生徒も想定外だったようでざわつき、「そんなことにならない」と言いましたが、「だとしたら、それは特定の$$x$$の範囲においてのみ一次関数である」ということに気づいた生徒もいたようです。次回の展開が楽しみです。
※冒頭の「ひまわりの成長」についての文章はもう少し詳しく書いたものを、2011年に実施された日本数学会第一回大学生基本調査のプレ調査として2010年に行われた調査で「ひまわりの成長を適切に横軸と縦軸をとって、概形を表しなさい」という問題として出題しました。教員養成系大学で大変悲惨な結果になったことが思い出されます。
授業研究会で講演を行いました(戸田市教育委員会・戸田市立笹目小学校)
9月25日(金)、戸田市立笹目小学校において、当研究所上席研究員 目黒朋子がリーディングスキル(RS)向上に向けての授業研究会で講演を行いました。
5年生の社会科の授業「水産業のさかんな地域」ではリーディングスキルテスト(RST)の6つの視点の一つである係り受け解析を軸とした研究授業が行われました。
研究授業終了後の授業研究会では目黒からRST-laboふくしまで発表した実践を中心に、授業づくりのポイントを紹介しました。
詳細は戸田市教育委員会のFacebookをご参照ください。
板橋区iカリキュラム「読み解く力」育成への助言を行いました。
板橋区では、幼稚園・保育園から中学校卒業に至るまで、「読み解く力」を中心に据え、ひとりの子どもも取り残さない「iカリキュラム」の策定に着手しました。
2020年9月、板橋区教育委員会で教育長、担当指導主事らが、まず小学校の教科書を徹底的に読み込んだ上で、児童がつまずきそうな箇所をリストアップする作業が始まりました。中川教育長の「教科書採択をするときには気づかなかったが、小学校の教科書はこんなに難しいのかと驚いた。けれども、これを読み解くことができる児童が育てば、本当に素晴らしいことだと思う」という感想を始めとして、指導主事からも「授業にばかり目が行って、こんなに時間をかけて教科書を読みこんだことがなかった。RSTの6項目の観点から教科書を読むと、『あ、ここは具体例同定だ』『ここで問われているのが推論の力だ』ということを実感できた。なぜもっと早く教科書を読み込まなかったのだろう」という声が聞かれました。
板橋区では、小学校の国語と理科は東京書籍の教科書を採択しています。教科書から学習に必須の「学習語彙」をリストアップした上で、その意味を授業中にではなく、それより前に教員が意識して児童の語彙に定着させてから授業を受けさせれば、語彙量が少ない児童であっても、授業の内容が腑に落ちやすいのではないかなど、具体的な方策を活発に話し合いました。
小学2年生上の国語の教科書には、「サツマイモのそだて方」という説明文が取り上げられています。サツマイモの育て方を説明した2つの文を読み、説明の仕方の違いを比較するというかなり高度な教材です。3年生の理科「植物の育ち方」につながる良い教材なのですが、低学年にとっては語彙親密度が低い語彙が並んでいるのが難点です。
語彙の例:五月のなかごろ、なえ、しおれる、やがて、つゆのころ、くき、つる、うね、しげる、えいよう
こうした語彙の意味がわからないと、この教材を理解することは難しいでしょう。でも、国語の時間に「うね」や「つる」「しおれる」を言葉で説明したり、スライドを見せたりしても実感がわかないかもしれません。であれば、むしろ、総合的学習の時間に、実際にサツマイモをこの説明のとおりに育ててみて、秋に収穫をし、「うねをつくる」「たかうねにする」「つるがのびる」様子を観察することで実感をもたせてはどうか、という案も出ました。
住環境等の制約で、植物や生き物を育てる機会がない児童は、板橋区には少なくありません。秋に収穫して食べることができるサツマイモを国語の教科書のとおりに、(あるいは、国語の教科書とは異なる方法で)育ててみて、どれだけ収穫できたかを長さや量で比べることができれば、2年生の算数の「長さ比べ」や3年生の「重さ」にも展開できる内容になります。
「そう思うと、総合的な学習の時間や、教科横断というのが、当たり前のことに思えてきました」「わくわくしますね」という声が上がる、良い話し合いの場が持てたと思います。
今後も、教科の枠を超えて、「読み解く力」「学ぶスキル」を向上させるための板橋区のカリキュラム構築を応援していきたいと思います。
写真:下は「新しい国語 二上」(東京書籍)86~87ページ、上は「新しい理科 3」(東京書籍)38~39ページ
参考:新井紀子所長が2020年5月にサツマイモの端から「リボベジ」で育てたサツマイモの様子
東京書籍「サツマイモの育て方」の2つ目の説明の「ひりょうを やりすぎると、くきと はだけが のびて しまい」に従って、肥料はやっていません。ちなみに1つ目の説明は、いわゆる「豊かな表現」なのですが、土や苗の選び方が具体的ではなく迷うことが、実際に育ててみるとよくわかります。
板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。
板橋区では、2019年度から区内全小中学校でRSTを導入し、児童・生徒の読解力を診断しながら、「読み解く力」を向上するための授業開発や全校取組み、自学自習支援手法の開発を行っています。新井紀子所長や菅原真悟主席研究員、客員研究員の学芸大学の犬塚美輪准教授らが本取組の支援を行っています。
9月9日、板橋第二小学校において、新型コロナ対策を行った上で、2020年度最初の研究授業が実施されました。今回は、2年生の算数、3年生の理科、4年生の社会、6年生の国語で研究授業が行われました。
4年生の社会科の「自然災害から人々を守る活動」は新指導要領で導入された単元です。自然災害が多い日本において、地域の関係機関や人々が様々な協力をして対処してきたことや、今後想定される災害に対して、様々な備えをしていることを学び、自らも防災・減災への意識を高めていくことが求められます。防災については教科書だけでなく、自治体が発行している防災の手引きなど参照すべき資料も多く、4年生にとっては、難易度の高い単元といえるでしょう。
本時のねらいは、特に地震に焦点を当てて、地震災害から安全なくらしを守るための様々な取組について調べ、「公助・共助・自助」の意味を理解し、調べたことを分類すう活動をとおして、様々な人が取組をしていることを知ることにあります。
授業はまず、教科書の該当箇所を全員で音読することから始まりました。
「家庭・学校・通学路で地震にそなえる
地震では、ものが落ちて起きたり、家具などがたおれてきたりします。家具の転倒防止は家庭でできる地震対策です。電気や水道が使えないときにそなえて、防災用品のじゅんびが大切です。」(教育出版「自然災害にそなえるまちづくり」より)
めあてを共有した後に、教科書の該当箇所を読み、その文章の構造を理解することは、「読み解く力向上」のために板橋第二小学校全体で取組んでることのひとつです。そして、その朗読箇所が次の問いかけにつながっていきます。
「地震から安全なくらしを守るために、誰がどんな取組をしているのかな。教科書や資料から取組を探して、
( )が、( )
という文章で書いてみよう」
指導案では、この箇所は文の構造を把握しながら読む「係り受け解析」として位置づけられました。ただ、教科書や資料の文は上記の形式で書かれているとは限りません。その場合は、教科書の内容を単に写すのではなく、上記の形式に同義であるように変換する「同義文判定」の力も試されます。
4年生は学力差が顕在化する学年です。手際よく5つも6つも探せる児童もいれば、1つも挙げられない児童もいます。冒頭で音読した箇所に2つ答えが含まれているのですが、それになかなか気づけないようです。指導者は机間巡視しながら、そういう児童に対して、まずは音読した箇所から探してみることを勧め、そこから
・家の人が(自分が) 家具の転倒防止に取組む。
・家の人が(自分が) 防災用品のじゅんびをする。
という2文をまず書けるように励まします。
さて、ここで「誰がなにをする」という形式で文章を書かせたのには理由がありました。次に指導者は、
公助:区や都などが区民・都民を災害から守る。
共助:地域で協力して災害から守る。
自助:自分で自分の身を災害から守る。
という定義を示し、児童がみつけた具体例をこの定義に沿って分類する「具体例同定」の活動を行いました。たとえば、上の2つの例はどちらも主語が「家の人」や「自分」ですから「自助」に分類されることがわかります。
「江戸川の自主防災組織が、災害に備えてくんれんをしている」は共助に、「自衛隊が救助する」「板橋区が避難所を開設する」などは公助に分類されました。
コロナ禍の中、グループで議論することができなかったことが残念でしたが、特殊な機材や準備をしなくても、教師の工夫次第で、授業が読み解く力を育む授業へと変容することを実感できた授業でした。
*****
板橋第二小学校では、普段から様々な仮説を立てて「読み解く力」育成に取り組んでいます。たとえば、「各学年の授業において共書きができるスピードでノートを取るには一分間に何文字書ける必要がある」ということから、学年ごとに目標字数を定めて、1分視写の時間を毎週設けています。指導者が板書をするのと同じ時間でノートが取れれば、すべての児童が、探したり考えたり、考えを文章にまとめたりする時間に充てることができるからです。この取組みを通じて、1年生は6月の新学期時に比べて9月には平均して2倍の量の字数を書けるようになりました。
授業後の研究会では「授業に苦痛なくついていくことができる程度にノートを取れるようになるため」に視写をするのだから、視写という手段が目的化しないよう、個々の進度を見ながら、視写力がついた児童から高度な課題に取組ませたいという意見が出ました。また、社会科の教員からは「児童はどうしても自助ばかりに目がいくようだ。公助と共助を理解させることが単元の目標としては重要。次の時間では公助と共助を強調して定着させてはどうか」との意見もありました。
F-labo 8月例会を開催しました(rst-laboふくしま)
rst-labo ふくしま(通称:F-labo)では、福島県内の小学校から大学まで多くの先生方がリーディングスキルについて自発的に学びあいを行っています。
7月の例会に続き、8月の例会が郡山市労働福祉会館で開催されました。
まず、奥羽大学准教授の伊藤頼位先生から、「RSTをより深く知るための言語学的視点」と題した発表がありました。
伊藤先生の専門である言語学という視点(「述語項構造」、「命題論理」、「マッピング」の知見)からの読解プロセスの理解とRTSの6分野7項目の関連について詳細な説明が行われました。
発表の目的は、「RSTの背景にあると考えられる言語に関する知見を知ることによって、RSTの設問や受検結果をより深く理解し、実践でのアプローチの基盤を強化する」ということで、まさに、授業実践者が基盤として理解しておくべき言語学の知識を深めることができた貴重な発表でした。
次に、奥羽大学講師の金原淳先生からは、「共書きの実践とその感想」ということで、RSFで当研究所所長・代表理事の新井紀子が行った授業を参考に、共書きを取り入れた授業実践報告がありました。
金原先生は紆余曲折を経て、パワーポイントでの提示内容に、補足内容や演習解説をペンタブレットで上書きし、それを学生と共書きするという授業スタイルを構築したそうです。その授業スタイルで、口頭説明と共書きを絶え間なく繰り返す授業を行ったところ、学生の授業の理解度が向上し、授業後の質問が増えたとの報告がありました。金原先生の授業スタイルには、今後のICTを使った授業やオンライン授業のヒントがちりばめられていました。
最後に、F-labo事務局の加藤政記先生から、昨年度1年間のF-laboでの授業実践例についての報告がありました。
F-laboの参加者が増え、今年度からの参加者も数多くいることから、今までの授業実践を振り返ることで、先生方の理解を揃えることが目的のまとめの報告でした。さらに加藤先生からは、「これからもF-labo会員は、「どういった授業をすれば頑健な基礎的読解力が身につくのか」を常に考え、授業実践例を数多く蓄積していきましょう」との、会員への呼びかけがありました。
F-laboのロゴマーク。たちあおいの花言葉:「大望」「豊かな実り」。
講演を行いました(福島県相馬市教育委員会)
8月18日(火)、相馬市民会館において、当研究所所長・代表理事の新井紀子が「AI vs教科書が読めない子どもたち-基礎的読解力は人生を左右する-」と題し講演を行いました。
相馬市教育委員会のRST導入に先立ち行われた講演会には、市内の教職員、県の教育関係者、県議会議員、市議会議員など300名を超える方々が参加されました。今年度、相馬市教育委員会では、市内の小中学生の基礎的読解力の向上を図るため、全ての小学校6年生と中学校1年生から3年生合わせて約1,270名と、全教職員225名のRST受検を10月中旬に実施する予定です。
講演では、教科の得意・不得意や好き嫌いにかかわらず、教科書に書かれてある内容を正しく理解する頑健な基礎的読解力を小中学校時代に身につけることが重要であり、読解力により子どもたちの将来が左右される可能性があることを説明し、そのうえで、中学を卒業するまでに、中学校の教科書を読めるようにすることが、公教育の最重要課題であることなどをお話しさせていただきました。
講演終了後には活発な質疑応答も行われ、先生方の関心の高さが窺われました。講演終了後、福地教育長より、「教育長としての方向性の絞り込みは、読解力の向上であり、リーディングスキルテストの活用だと考えている。今日をスタートとし、RSTの結果分析を授業に落とし込み、教員の授業力向上と子どもたちの本物の学力向上につなげていく」との力強いお言葉をいただきました。
F-laboを再開しました(rst-labo ふくしま)
rst-labo ふくしま(通称:F-labo)では毎月例会を開催し、福島県内の小学校から大学まで多くの先生方がリーディングスキルについて自発的に学びあいを行っています。
新型コロナウイル感染症の拡大を受けて、しばらく開催を見合わせていましたが、7月25日(土)に郡山市労働福祉会館で5カ月ぶりの開催となりました。
開催にあたっては、郡山市のガイドラインに基づき、マスク着用、密にならないような座席配置、消毒液の準備などを徹底しました。
まず、平田村立蓬田小学校の佐藤春奈先生から、視写と音読についての実践報告がありました。視写では視写用のシートを使い、3分間で教科書の文書を写し、ペアで誤字脱字をチェックし、何文字写せたかを記録します。シートにして蓄積することが、子どもたちの達成感につながっているそうです。また、音読では「音読タイム」を設け、当該学年以降の教科書の文書を読ませているそうです。視写と音読の両方を取り入れることで、「言葉のまとまりを意識するようになった」などの子どもたちの変容がみらたことが報告されました。
次に、いわき市立湯本第一小学校の徳永一夢先生からは、RSの6つの観点をどのように授業に取り入れているのか、7つの実践報告がありました。例えば、4年算数「角の大きさ」の単元では、「オセロの実況中継」(『AIに負けない子どもを育てる』の204ページ)を参考に、分度器の使い方を言語化し、それに基づいて分度器を使う授業を行ったそうです。授業を通じて、定義の重要性を子どもたちは感じたようです。また、授業を行うにあたっては、リーディングスキルテストのための授業を目指すのではなく、教科の本質にせまることが大切であると報告がありました。
当研究所研究員の目黒朋子からは、2月に開催された板橋区立第六小学校の研究授業報告を行いました。報告では、1年算数「ずをつかってかんがえよう」、3年理科「じしゃくにつけよう」、4年理科「物のああたたまりかた」、5年社会「社会を変える情報」において、RSのどの観点を意識して授業が組み立てられているのかが紹介されました。
当日は、当研究所研究員の菅原真悟による作問ワークショップも開催しました。
菅原からは、子どもたちがどのような文を読むのを苦手としているのかを、問題を作る過程で考えることがワークショップのねらいであると趣旨説明をし、それから小学校から高校までの教科書を用いて、「係り受け」と「照応解決」の問題を実際に作ってみることに参加者全員で取り組みました。
自分たちで実際に問題を作ってみることで、文の構造を理解するとはどのようなことなのか、子どもたちはどのような文を読むのを苦手としているのかを、あらためて考えるきっかけになったようです。
F-laboでは、今後も定期的に例会を開催し、子どもたちの読解力育成方法を検討する取り組みを、先生方の実践を通して発展させていきます。
講演を行いました(HITOWAキッズライフ株式会社)
HITOWAキッズライフ株式会社は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、北海道を中心に認可保育園、保育所を運営しています。
同社では子どもの育成・保育活動に生かすことを目的に、社員(保育者)を対象としたリーディングスキルテストを実施し、受検後のサポートとして当研究所の目黒上席研究員が講演を行いました。
講演では「AI時代に求められるリーディングスキルとは」と題し、受検結果の講評及び結果をどう仕事に活かすか、また、子どもたちが生きていく時代を見据えたリーディングスキルの必要性についてお話ししました。
保育園の園長先生が対象の講演会ということで、子どもと接する身近な大人である先生方が使う言葉が、いかに子どもたちのリーディンクスキルに影響するかをふまえ、「子どもの話す機会を奪わない、読み聞かせなどの機会を数多く持つ、ごっご遊びを通して言葉の概念を獲得させる、自然界の営みを観察する十分な機会を与え五感を働かせる」など、日々の保育現場での有効な手立てについてもお話しさせていただきました。
新型コロナウイルス感染防止のため、会場参加ではなくオンラインによる講演となりましたが、約90名の受講者は熱心に聴講され、「講師のお話が明瞭明快で非常に興味深かった」「リーディングスキルは強いチームづくりに必要だと感じた」など多くの感想が寄せられました。
(RST事務局)
HITOWAキッズライフ株式会社
https://www.hitowa.com/kids-life/
研修会に参加しました(南あわじ市立倭文(しとおり)中学校 スクールチャレンジ研修会)
南あわじ市立倭文中学校では、2019年度に全生徒と全教職員がリーディングスキルテスト(RST)を受検しました。そして生徒の受検結果をふまえて「『AIに負けない読解力』が身につく授業改善」をテーマに1月29日(水)、同校において研修会が開催されました。
研修会では当研究所の目黒朋子上席研究員が登壇し、「AI時代に求められるリーディングスキルとは」と題し、AIの特徴やRST開発の経緯、RSTで測定できる読解力6分野7項目それぞれの説明を行いました。また受検結果の分析方法を紹介するとともに同校の生徒の結果について、どの分野が強い(弱い)のかを丁寧に解説しました。
また、読解力はあくまでも学習のスキルのひとつであり、RSTの点数を上げることが授業の目的ではないこと、教員が目指すのは教科単元のねらいの達成であることを強調し、読解力向上のために授業内容を大きく変える必要はなく、日ごろの授業の中で一文一文を理解しているかどうか確認しながら、ゆっくりでも正確に読ませることから始めてほしいと訴えました。
更に、教員側が「読めばわかるはず」「言えば伝わるはず」「分かりました、と答えたから分かっているはず」と思いこまないことが重要であるとして、道具箱の中身を「きちんと片づけましょう」と指示を出しても「きちんと」の認識は人それぞれであることから「よく使うものが手前になるように片づけましょう」と言い換えることで整理整頓する体験を過不足なく記述させる(具体例同定)指導や、教科書の文章で自分の考えや導き出した答え・作業が正しいかどうかチェックする(同義文判定)機会を多く作るなど、目黒上席研究員が中心となって活動しているrst-labo ふくしま(通称:F-labo)で発表されている読解力を意識したさまざまな授業案を紹介しました。
研修会には倭文中学校の教職員及び保護者のほか、守本憲弘 南あわじ市長、南あわじ市教育委員会、近隣の小中学校の教職員等、多くの方々が参加し長時間にわたる講演にもかかわらず熱心に聴講されていました。
研修会終了後、守本市長より、変化の激しい時代に必要な「読解力」を培うことがすべての児童生徒に重要であり、市が目指す教育の基本理念でも読解力向上に取り組むことを明記している、とのお話がありました。
(RST事務局)
板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。
東京都板橋区では、令和元年から全区立小中学校で、すべての小学6年生から中学3年生、加えて教員もリーディングスキルテストを受検し、9年一貫の「読み解く力」の育成を通じて、学力向上・教員の指導力向上に取り組んでいます。特に、多様なバックグラウンドを持つ生徒が近年増加傾向にあることから、「言えばわかる」「読めばわかる」「やればできる」という前提を一度外し、リーディングスキルテストの6分野7項目の観点を意識的に授業に取り入れながら、生徒が確実に活用可能な形で知識やスキルを身に着けられるようなカリキュラムや授業案の開発を行っています。
今日は、板橋第六小学校で、小学1年生の算数、小学3年生の理科、小学4年生の理科、小学5年生の社会科で、「読み解く力」を育成する研究授業が行われました。
小学4年生の理科では、高橋三紀也教諭による「物のあたたまり方」(全10時間)のうち、7時間目にあたる、ビーカーに入っている水をアルコールランプで温めたときの水の動きについて、実験を通して調べたこと(6時間目)を図や言葉を使ってまとめる活動が行われました。
前回の授業では、「サーモイクラ」(サーモインクで色付けをした人工イクラ)を用いて、水を温めたときに起こる対流の様子を実験で確認しました。その実験のビデオをタブレットで再生しながら、その変化を4つの特徴的な箇所を選んで、児童に文章と図で説明させます。児童は班で議論しながらも、各自自分のノートにまとめていきます。サーモイクラの色の変化(ブルーからピンクへ)とその分布、動き(上下運動から全体的に回る様子)、に注目ができているか、注目したことを正確に言語化できるか等が評価のポイントになります。
図1:児童の書いた実験の図・説明の例
4行以内にサーモイクラの色の変化と動きを的確にまとめようとすると、「なりながら」「~したら」「~したり、~したりした」「全体的に」「時計回りに」などの言葉を使う必要に迫られます。「見たことを短文で正確に表現する」ことは、自由に表現することと並んで、学びを豊かにする上での大切な活動です。図にする際には、矢印を使うことが推奨されました。この箇所を高橋教諭はRSの「イメージ同定」の活動として位置付けていました。
最後に、実験でわかった「水の温まり方」を教科書のまとめを参考にして、一文にまとめる、という活動が行われました。
教科書には次のように書いてあります。
- あたためられた水は、上に動きます。
- 水は、動きながら全体があたたまっていきます。
この二文を、意味を変えずに一文にまとめる活動が行われました。この活動を高橋教諭は「同義文判定」として位置づけました。二文を一文にまとめるには、主語を揃える必要があります。そこで、児童は、二文に共通する「水」を主語として、たとえば、次のようにまとめていきました。
- 水は、あたためられると上に動き、やがて動きながら全体があたたまっていきます。
理科の実験や観察では、時系列で起こることを的確に表現することが重要です。「はじめに」「じょじょに」「次に」「やがて」「さいごは」などの言葉を使いながら、ほとんどの児童が自力でまとめることができました。
板橋第六小学校では、普段から、週に一回、朝の時間に全校生徒が三分間「視写」(見ながら写す)に取り組んでいるそうです。視写そのものが目的ではありません。授業中に字や文を書くことへの抵抗感が減るように、との配慮から始まった取り組みです。その結果、板橋第六小学校の四年生では、マス内に字を書けない生徒や筆圧が足りない生徒はほとんどいません。授業中は、「見た通りに表現をする」ことに全員が集中しており、次々に個性豊かな表現が生まれていたことが印象的でした。
図2:別の児童が書いた実験の図・説明
板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。
東京都板橋区では、令和元年から全区立小中学校で、すべての小学6年生から中学3年生、加えて教員もリーディングスキルテストを受検し、9年一貫の「読み解く力」の育成を通じて、学力向上・教員の指導力向上に取り組んでいます。特に、多様なバックグラウンドを持つ生徒が近年増加傾向にあることから、「言えばわかる」「読めばわかる」「やればできる」という前提を一度外し、リーディングスキルテストの6分野7項目の観点を意識的に授業に取り入れながら、生徒が確実に活用可能な形で知識やスキルを身に着けられるようなカリキュラムや授業案の開発を行っています。
今日は、板橋第六小学校で、小学1年生の算数、小学3年生の理科、小学4年生の理科、小学5年生の社会科で、「読み解く力」を育成する研究授業が行われました。
小学校1年生の算数では、飯田泉教諭による「ずをつかってかんがえよう」の授業がありました。小学1年生では、「1つ、2人」のような基数以外にも「3番目、5回目」のように順序数としての数を学びます。日常生活の中で、よく使う概念にもかかわらず、算数では非常につまずきやすい箇所として知られています。本単元の目標は「順序数や異種の数量を含む加減の場面、求大や求小の場面についても加減計算が適用できることを理解し、それを用いることができる」ことです。今回は全体で6時間の授業のうちの5時間目の授業が研究授業として公開されました。
飯田教諭は、次の2つの文章が同じ意味か、生徒一人一人に問いかけました。「同義文判定」の活動として位置づけたそうです。
多くの学校では、この文章題を深く読み解く前に、おはじきや図を使って、直感的に違いを理解するように促します。しかし、今回の授業では、「4ばんめ」と「まえに4人」という言葉の違いを意識させて、同義か異義かを一度判断させた上で、図をかかせる活動に入りました。図を使って考えた上で、改めて2つの文章が同義か異義かを確認しました。
これについて、飯田教諭は、「おはじきを使う、このような順で図を書こう、という段階を踏むと、授業中はわかった気持ちになる児童が多い。けれども、一人で問題に向き合わせると、どちらの問題にも4+3=7と答えてしまう児童が少なくない。言葉の違いをしっかりととらえた上で、図を書くという手続きを踏むことで、単元の目標である『図をつかって考える』が達成できるように工夫した」と語っていました。
そもそも文章題の文章が読み解けないことから算数につまずく児童が少なくありません。こうした小さな努力の積み重ねで、文章題の文を正確に読み解き、正しく図に変換し(イメージ同定)、そこからスムーズに解くことができると良いですね。1年生からの「読み解く」トレーニングの重要さを実感した授業でした。
板橋第六小学校では、週に一回、全校で朝の時間に3分間の視写の時間を取り入れています。各学年で、3分間で正確に写すことができる文字数の目標があり、ノートに書いて提出したものを担任の先生がチェックしています。小学1年生では、①鉛筆を正しくもつ、②筆圧をかけて書く、③字の形を正確に写す、④マスの中におさまるように書く、など、鉛筆とノートを使って、文章を書く上での基本を身に着けていきます。鏡文字を書いたり、促音や拗音でつまずく1年生は少なくありません。日常的に視写をし、訂正することで、2年生への進級がスムーズになることを期待します。
研究授業が開催されました(板橋区立板橋第六小学校)
1月22日(水)に板橋区立板橋第六小学校において、学びのエリア「板橋iカリキュラム開発重点校」研究授業が開催され、当研究所代表理事・所長の新井紀子が助言・指導を行いました。
学びのエリア「板橋iカリキュラム開発重点校」研究授業は、今年度すでに3回開催され、今回が4回目となります。
今回の研究授業は、下記の4つの教科・単元で行われました。
1年算数「ずをつかってかんがえよう」
3年理科「じしゃくにつけよう」
4年理科「物のあたたまりかた」
5年社会「社会を変える情報」
授業後の研究分科会では、授業者自評・研究協議・指導講評が行われました。
新井は4年理科の講評を行い、それ以外の研究授業については、板橋区「読み解く力」開発推進委員の先生方が指導・助言を行いました。
そのあと、体育館に移動し研究全体会が開催されました。全体会では、板橋第六小学校での取り組みや各分科会からの報告の後、新井から全体講評を行いました。
新井からは、授業についての講評のほかに、読み解く力を育成する授業はリーディングスキルテストの点数を高めるためにやるのではなく、授業・単元にはそれぞれ達成すべき目的があり、そこがないがしろになってしまうのは本末転倒であると助言がありました。
今回の研究授業にはおよそ200名が参加しました。区内の先生方だけでなく、国立教育政策研究所や他県の教育委員会からも参加があり、リーディングスキルに関する関心の広がりが感じられました。(RST事務局)