活動報告

板橋区立板橋第一中学校での授業実践(中2地理)ーその2

6月15日、板橋区立板橋第一中学校の2学年の社会科で、「教科書を読み解きながら期末テストに備える」授業をしました。

その1では、ほぼ全員に解いてほしい問1の指導方法についてご紹介しました。今回は第二次産業、第三次産業の定義を読んで、具体的な企業をどちらかに分類する課題です。教科書では二次産業を次のように定義しています。

原材料を採掘したり、加工したりして製品をつくり出す産業を第二次産業といい、主なものに工業があります。(教育出版「中学社会 地理 地域に学ぶ」168ページ、9~11行目)

分類するのは、こちらの企業です。

問2. 次の企業を第二次、第三次産業に分類しなさい。

ユニクロ、日清食品、ソフトバンク、東京電力、ローソン、パナソニック、みずほ銀行、住友金属鉱山、積水ハウス、JR東日本、ヤマト運輸

正式名称ではありませんが、CM等で子どもたちに馴染みがある略称で出題しました。

定義に従って具体的なものを分類する力を、RSTでは「具体例同定」力と呼んでいます。穴埋めプリントに「第二次産業」「第三次産業」と正しく埋められても、現実社会に応用できないようでは知識とは言えません。「あの企業は二次産業。なぜなら・・・だから」と言えるようになってほしいものです。

学校ではあまり問われないタイプの問題なので、最初の一歩が踏み出せない生徒が少なくありませんでした。が、「1つでも当てれば2点だと思って、どれかひとつでも選んで書いてごらん。白紙だと0点だけど、書けば当たるかもしれないよ」と後押しすると、多くの子が「みずほ銀行」を選び、第三次産業に分類しました。銀行は「原材料から製品をつくり出しているわけではない」からです。ひとつ書くと、次々に書き込める子が増えていきました。

答え合わせの時間には、それぞれの企業が第二次、第三次のどちらに属するのか、その理由は何か、みんなで議論しました。

日清食品は、子どもたちに馴染みのある、あの「カップヌードル」を出している企業です。ただ、子どもたちは「工業」というと真っ先に機械工業をイメージするらしく、「第三次産業だと思う」側に手を挙げた生徒が1/3ほどいました。そこで、169ページの「日本の工業地帯・工業地域と出荷額の割合」の帯グラフに注目させました。工業の中の割合を見ると、「金属、機械」のほかに「化学、食品、その他」があることがわかります。ということは、食品工業という種類が工業の中にある、ということです。日清産業は、「小麦粉などを原材料として、麺に加工しているから、第二次産業」という根拠をもって、分類することができました。

「住友金属鉱山、という会社を知らない」という子はたくさんいました。実は、私も詳しくは知りません。(住友金属鉱山さん、ごめんなさい心配・うーん)すると、「名前に『鉱山」と書いてあるから『鉱業』ではないか」という生徒が出て、他の生徒も納得して第二次産業に分類できました。

「積水ハウス」は、第二次・第三次半々に分かれました。「絶対に第二次」という生徒に理由を聞くと、「168ページのグラフ2『日本の産業別人口構成の移り変わり』に第二次産業は『鉱業、建設業、製造業』と書いてあって、積水ハウスは建設業だから」とパーフェクトな答え。本文ばかりに注目していた生徒たちが一斉にグラフ2に注目し「ああ、そうかぁ」「そこに書いてあったのかぁ」と言う様子は微笑ましかったです。

「東京電力」はどうでしょう。さきほどの箇所に注目すると、「第三次産業…電気・ガス・水道業、情報通信業、運輸業、卸売業、小売業、金融業、保険業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、教育、学習支援業、医療、福祉など」の冒頭に「電気」とあります。ですから、東京電力は第三次産業だということに気づけました。ここまでいくと、あとはすいすい進み、ヤマト運輸は運輸業、ソフトバンクは情報通信業、パナソニックは製造業、JR東日本は運輸業、ローソンは小売業のように分類できました。

みんなが最後まで悩んだのがユニクロでした。ユニクロは小売業なのか、製造業なのか。どちらに重きがあるのか。(私も悩んだので事前に調べました。登録は第二次産業だそうです。)

そういう中で、流通やIT、グローバル化が進む中で、第二次と第三次の境界があいまいになっていること、場合によっては、「2+3=5の5次産業」などと言われることがあることなどを話しました。

「今日から、商店街を歩いていても、CMを見ても、『あの店は第二次産業』『あの会社は第三次産業』と考えられるようになるといいね」と話し、「ところで、伊藤校長先生は第何次産業に従事していますか?」と聞くと、「第二次、生徒を生産しているから」(←原材料が何か、という部分が抜け落ちてますね。)と言ったり「学習支援業だから第三次産業」と言ったりする子がいて、まだ少し混乱もあるようです。「校長先生は教育業に携わっているので、第三次産業従事者です。学習支援業は塾です」と言ったら、「そうか!」と納得した様子でした。

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この部分については、10数人で見学にお越しになった立山町の先生方から「教科書をまさに『使い倒す』授業でした」との感想が多く寄せられました。

追記:参観していた教員からは、「積水ハウスの分類で、もっと生徒の考えを引き出して議論させてもよかったのではないか」とのご意見がありました。そのような学習活動が推奨されていることは私も認識しています。一方で、企業の分類、産業の分類には定義があることなので、(自分の考えは一度置いておいて)定義に従う、ということも「学ぶ基礎」として重要かと思います。

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板橋区立板橋第一中学校での授業実践(中2地理)ーその1

6月15日、板橋区立板橋第一中学校の2学年の社会科で、「教科書を読み解きながら期末テストに備える」授業をしました。

板橋第一中学校は、板橋区が推進する「義務教育9年間で子どもたちに、『読み解く力』を育成し、学力向上を図る」ことを目的として考案された「i-カリキュラム」の学びの重点校のひとつです。4年前から学校一丸となって「読み解く力」育成の授業改善に取り組んでいます。

その一環として、令和3年度から社会科の一部で、定期考査を「教科書持ち込み可」にするという試みが行われています。生徒は「教科書持ち込み可」を歓迎しますが、平均点を比較すると、実は教科書持ち込み可のテストの方が成績は奮いません。なぜでしょう。

定期テストの範囲は見開き10ページ以上あることがほとんどです。テストが始まってから、初めて教科書を読むようでは、時間内に問題を解き終えることはできません。事前に教科書を読み解き、どのページにどんなことが書いてあるか把握した上で、内容が腹落ちしていていないと、「読み解き、記述する」テストには対応できないのです。しかし、ひとりで事前に教科書を読み解ける生徒は少数です。

そこで、今回は、期末テストの準備として、期末テストの範囲から見開き2ページに絞り、どんな風に教科書を読み解き、問題を解けばよいか、その方法を伝授しました。今回、読み解く対象に指定したのは、教育出版の「中学社会 地理 地域に学ぶ」の168~169ページ、「日本の産業活動と立地」です。

写真1:貿易の自由化の参照表現について指導しているところ。指で指している箇所が「貿易の自由化」

 

授業の冒頭でワークシートを配布しました。板橋区1年生持ち込み可問題2022年.pdf

彼らが経験した中間テストのボリュームから考えると、問1~問3は15分で解きたいところ。該当箇所を開き、15分にタイマーを設定し、解き始めました。この記事では、クラスの大半に解いてほしい問1の指導法についてお伝えします。

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問1の1「貿易の自由化とは何か。25 字以上 30 字以内でかきなさい。」

これは、「教科書の構造を理解しているか」「検索できるか」という、学習基礎スキルを問う問題です。「貿易の自由化」というキーワードは教科書に太字で書かれています。但し、本文には定義は書かれておらず、「貿易の自由化」の言葉の右上にピンクで①と書いてあります。同じページの左下に同じくピンクの①があり、それが「参照先」で、次のように書かれています。

ものやサービスの輸出入には国境を越える時に関税(税)がかかることがほとんどです。この関税や輸入の制限などをやめて、自由な貿易を行うようにすることを貿易の自由化といいます。(教育出版「中学社会 地理 地域に学ぶ」168ページ註①より)

机間巡視すると、教科書の「参照表現」を知らないせいで第一問からつまずいている生徒が半数ほどいました。

「貿易の自由化の右肩にピンクの①と書いてあるよね。これ、なんのマークか知っている?」と聞くと、「知らない」とのこと。「ピンクの数字がついている言葉の説明が、同じピンクの数字の先に書いてあるよ。見てごらん」というと、「えー、そうなんだ」と驚いているようでした。大人にとっては、当たり前の「教科書の使い方」でも、児童生徒は教えてもらわないとわからないことがあるのです。

答え方も具体的に指導する必要があります。

「~とは何か」と問われたら「・・・・こと」と書きましょう。

「~とは何か」は定義を聞かれているので、「・・・・すること」「・・・・のこと」のように、最後が「こと」で終わるように書くとよいです。この「型」を覚えておくと、「・・・こと」と書かれた部分を探せるようになりますし、この型にはまらないようなものは答えではない、と排除することができるようになります。

問1の1の答えは参照先をそのまま引用すると、「関税や輸入の制限などをやめて自由な貿易を行うようにすること」(29字)です。

 問1の2「貿易の自由化が日本の農業にとってなぜ打撃になったのか、そのわけを 15 字以上 20 字以内でかきなさい。」

全員、貿易の自由化の周辺に視線が向いています。そこには、以下のように書かれています。

貿易の自由化が進んで、国内より低価格の農産物が輸入されるようになると経営は厳しくなります。農業で働く人の減少や高齢化、後継者の不足も課題になっています。こうした状況もあって、農業で働く人は、東京や大阪などの大都市から離れた、地方に多いという特徴がみられます。(教育出版「中学社会 地理 地域に学ぶ」168ページ本文4行目~9行目)

ここで答えが大きく2つに分かれました。「国内より低価格の農産物が輸入されるようになるから」を選ぶ生徒と、「農業で働く人の減少や高齢化、後継者の不足」を選ぶ生徒です。前者が原因で、後者は結果です。「わけを書く」のように原因の記述を求められているのに、結果の方を書いてしまう生徒がいるのです。このようなときにも「型」の指導は有効です。

わけ(理由)を書くときは「・・・から」と書きましょう。

「国内より低価格の農産物が輸入されたから、経営に打撃を受けて、(その結果)農業で働く人の減少や高齢化、後継者の不足が起こった」ので、前者が選ぶべき箇所だということがわかります。RSTでは推論(INF)能力に該当する箇所です。

ただし、「国内より低価格の農産物が輸入されるようになるから」あるいは「海外から低価格の農産物が輸入されるようになるから」と書くと字数制限に収まりません。意味を変えずに言い換える能力(RSTでは同義文判定(PARA))が必要になります。縮約(約め方)の工夫を具体的に指導しました。

「されるようになるから」を「されるから」と約めると5文字減って、字数制限に収まります。他にも「低価格」を「安い」、「海外からの農産物」を「海外産農産物」にすることで、意味を変えずに字数を減らすことができます。

生徒たちに次のように問いかけてみました。

「問1は『頭がいい人』や『社会科が好きで得意な人』や『文章が巧い人』だけができるかな?」

そうではありません。教科書の使い方を知れば、そして、約め方のやり方を工夫すれば、誰でもできる、ということを生徒たちは実感できたようです。実際、下校する生徒たちに校長先生が授業の感想を聞いたところ、(「楽しかった!」という感想が多かったのは嬉しいことでしたが)「教科書の読み方がわかった」「答えの書き方がわかった」と言う子が多かったそうです。

この記事をお読みの教員の中には、「そういう指導はもちろんしている」と思う方も少なくないでしょう。教科書の使い方や読み方、答えの書き方は、一度や二度の指導ではなかなか身に着きません。何度も実践し、失敗しながら上達していく過程が必要なのです。

では、その2に続きます。

追記:

この記事をお読みになった方の中には、「紙の教科書だから参照表現を理解しなければならなくなる。デジタル教科書にハイパーリンクを埋め込んでおけば、ワンクリックで参照先に飛べる。だからデジタル教科書の方が良い」と思う方もおられるでしょう。しかし、ハイパーリンクは認知負荷が大きく、本文の理解を阻害するとの研究結果がこちらの論文を始めとし、いくつも出ており注意が必要です。

実際、デジタルコンテンツで学ぶ児童・生徒を見ていると、「詳しく知りたいからリンクをクリックする」というより、「目立っているからクリックする」「厭きたから(何らかの気分転換をしたくて)クリックする」ことの方が多く、「この画面の前に何を見ていた?」「何を調べようとしてクリックしたの?」と聞くと「わからない」と答えることが圧倒的に多いのが現状です。

 

追記2:

小中学校の授業で、「自分の言葉で書きましょう」「自分の意見を言いましょう」という指導が徹底されているためでしょうか。教科書から「抜き書き」するのはいけないことだ、と思う生徒が少なからずいます。「教科書を読み解いて自分のものになったら、抜き書きしても自分の言葉になるんだよ」というと安心した顔をするのが印象的でした。

追記3:

この記事をお読みになった複数の方から、「なぜ中学生になっても教科書の凡例がわからないのか。読書量が足りないからではないか」との疑問が寄せられました。私たち大人でも、Excelの滅多に使わない機能や、自分が契約している保険がどこまでをカバーしているか、等を知らずに生活していることは多いです。なぜでしょう。滅多に使わず、意識に上らないからではないでしょうか。

「本文だけでなくグラフや表、地図、コラムや実験の注意事項も含め、教科書を毎日使い倒して」いれば、どの子も教科書を使えるようになります。一方、プリントやワークシート学習を中心にしていれば教科書の使い方が身に着かないのは当然かと思います。

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寒河江市教育委員会「令和4年度 寒河江市教育研究所 第1回課題研究部会」で講演を行いました(2)

6月1日(水)「令和4年度 寒河江市教育研究所 第1回課題研究部会」において、当研究所上席研究員の目黒朋子がオンラインで講演を行いました。

 今回の講演は、5月20日の当研究所主席研究員の菅原真悟が行った講演(RSTの受検結果分析)に続いて行われたもので、RSTの分析結果をどのように授業づくりに結びつけるかについてお話いたしました。

 まず、読解力(RS)を視点に授業づくりを行うためには、教育委員会と学校が「一枚岩」となって、組織的・系統的に取り組む体制づくりが重要です。RSTを受検しただけでは児童生徒の読解力は向上しません。
先進的な自治体の取り組みを参考にしながら、寒河江市の児童生徒の実態に即した「寒河江市授業づくりプラン」を構築するようアドバイスを行いました。

次に、教員が「解像度高く教科書を読む」ということはどういうことなのか、実際の教科書の文章を提示して、RSTの6分野7項目のどのスキルを使って読めばよいのかをお伝えしました。
また、分散が大きすぎると一斉授業での個別対応は難しいという現状を踏まえ、RS先進自治体である東京都板橋区や福島県で行われている、視写、音読、共書きなど、児童生徒の学びの基礎体力を耕していく取り組みについても紹介いたしました。

 講演終了後、西根小学校の原田浩治校長より、「教育委員会と学校が一枚岩になって取り組むことが重要であること、まずはねらいを考えずに、子どもと同じ気持ちで文章に向き合ってみること、全ての教科で取り組んでいくことの重要性を感じた。」とのお言葉をいただきました。
寒河江市教育委員会の布川指導主事からは、「RST受検後にダウンロードできる、『ふりかえりプリント』をどのように有効活用するか、研究部会の先生方と考えていきたい。」とのお話もいただきました。

 

 

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寒河江市教育委員会「令和4年度 寒河江市教育研究所全体研修会」で講演を行いました

5月20日(金)に寒河江市教育委員会で開催された「令和4年度 寒河江市教育研究所全体研修会」において、当研究所主席研究員の菅原真悟が講演を行いました。
当日の講演はzoomを用いたオンラインで実施され、寒河江市の教員およそ約250名の参加がありました。

講演では、まずRSTの開発の経緯と、AI・DX時代になぜ読解力が求められるのかを説明し、その上で、RSTで出題している6分野7項目について、それぞれの出題のねらいについて解説しました。

続いて、今回のRSTの受検結果(csvファイル)の分析方法について説明しました。まずマクロ的視点での受検団体全体の分析と、ミクロ的視点での個々の受検者の分析について、それぞれ分析結果を報告しました。

最後に、今回の受検結果をふまえた授業改善について、子どもたちの読解力育成のために、どのような点に注意して取り組めばよいのか、どのように教科書を読み込めばよいのか、など例を用いて解説を行いました。

講演後に、「読書量や読書好きとの関係はあるのか?」といった質問があり、以前行った調査で、「読書が好き」「本をよく読む」などのアンケート項目とRSTの結果に相関を調べたが相関は見られなかったと回答し、今回受検した学校でも、学校が持っているアンケート調査結果などのデータとRSTの結果との相関を見てほしいとお伝えしました。

参加者からは、「RSTについて理解が深まった」「教科書を解像度高く読むことの重要性が分かった」といった感想をいただきました。

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和泉市教育委員会で講演を行いました

5月20日(金)、和泉市教育委員会の教職員研修会において、当研究所上席研究員の目黒朋子がオンラインで講演を行いました。
和泉市では今年度より中学生と先生方がRSTを受検し、その結果を分析・活用し、授業改善・学力向上を目指す取り組みを始めました。

 ここ2年間の大学共通テストの問題を見てみると、全ての教科において「読解力」が求められていることは明確です。
さらに、学習指導要領の改訂や今年度の学力学習状況調査からも「知識中心型から課題解決型へ」学びを変えていこうというメッセージを読み取ることができます。
そして、「学びを変え、読解力を向上させる」第一歩は、子どもたちは教科書を読めていないことを前提とした授業改善ではないでしょうか。

これらのことを踏まえ、今回の講演では、目黒が主宰している「rst-laboふくしま(通称:F-Labo)」での様々な実践発表を例に、「リーディングスキルを活用した授業づくり」とは具体的にどういうことなのかをお伝えしました。
音読や黙読ができていても、意味が分かって理解できているとは限りません。「それ」や「この」なのどの指示詞が何を指しているかわかっているでしょうか? 省略されている主語を補って読めているでしょうか? 教員がまず解像度高く教科書を読み、教科書に出てくる言葉にこだわり(「ひっかかり」)、子どもたちの学びを阻害する言葉に気づくことが大切です。
そして、教員が教科書の文章やグラフや図をリーディングスキルの6分野7項目の視点で読むことは、「子どものつまずきや困難さを予測できる」⇒「教員の指示や発問が変わる」⇒「授業が変わる」という授業改善に結びつくことをお伝えしました。

 RSTはあくまでも読解力の診断を目的として開発されたテストです。RSTの点数を上げることを目指すのではなく、教科・単元のねらいの達成のために、毎時間、教員がリーディングスキルを視点に授業を考え、実践していくことが重要であるとお伝えしました。

 担当の五島指導主事からは、「中学生のRST受検結果は、小学校での指導にもつながる。講演内容を参考に、本市の進めている総合的な読解力(インプットーインテイクーアウトプット)の育成を目指した授業改善の取組みをさらに推進していきたい。」との感想をいただきました。

 

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相馬市教育委員会「第2回公立学校研究指導員会」で指導助言を行いました

5月17日(火)に相馬市教育委員会で開催された「第2回公立学校研究指導員会」において、当研究所上席研究員の目黒朋子が指導助言を行いました。

 

相馬市教育委員会では、令和元年度よりすべての小学校6年生から中学校3年生までリーディングスキルテストを受検し(今年度より小学校5年生から)、本テストの実施を通じて子どもたちに必要とされる「読解力」の育成に力を入れ、子どもたち一人ひとりの学力定着・向上を目指しています。
読解力育成の方針は『心豊かに 力強く 生き抜く 読解力向上 「相馬プラン」』にまとめられており、先生方の研修もその「相馬プラン」を基にきめ細かく実施されています。

 

今年度相馬市では、東京都板橋区の取り組みを参考に、小中学校の教科書を読み込み、単元で重要な言葉や児童生徒にとって親和性の低い言葉を拾い出し、「授業お役立ちシート」にまとめ、データベース化する作業が行われています。
さらには、「授業づくりワークシート」(福島県教育庁義務教育課「リーディングスキル向上実践事例集」より)を使って、RSTの6分野7項目の視点から、教科書を解像度高く読み取り、授業に落とし込んでいく取り組みも行われています。

 

今回の指導員会では、小学校5年生の社会科教科書(東京書籍)「これからの食料生産とわたしたち」のP.116~P.117を読み、「授業づくりワークシート」に落とし込んでいくワークショップを実施しました。

目黒からは、折れ線グラフや円グラフを読み取るにはイメージ同定や推論、具体例同定のチカラが必要であること、本文の中に出てくる「その一方」の「その」や、食品ロスについて説明する文の「このうち」の「この」を読み取るには照応解決のチカラが必要であることなど、RSTの6項目の視点から教科書を読むと読みの解像度が高くなり、児童生徒のつまずきに気付けるようになることをお伝えしました。

 

参加した先生方からは、以下のような感想が寄せられました。

・講師のお話は、まさに「目からうろこ」でした。グラフの変化の読み取りも「~と比べて( )倍増えている」など、書き方の手本を示すと、子どものアウトプットする力もぐんと高まること、読み取りも深まることを学んだ。

・あっという間の時間で、もっとお話をお聞きしたいと思った。「教科書を使いたおす」ということを実感するとともに、具体的に6つの視点で読み解くとおもしろいことが分かった。校内の先生方にもすぐお伝えしたい。

・改めて教科書を読み切ることの難しさを痛感し、どれだけ今まで教科書を解像度低く読んでいたかを気付かされた。RSの視点で読もうとすることで、教科書の見え方が増えていく、視野が広がることを確信した。

・「児童目線で読んでいく」ことや、「児童がすると思われる質問」を考えていくことが、より深い学びや、教科書の写真やグラフを深く読み取っていくことにつながることを学んだ。また、一つの文章や語句をRSの視点で読んでいくと、あいまいなものが明確になっていくことも研修できた。

 

 

 

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埼玉県杉戸町教育委員会で講演を行いました

5月10日(火)に埼玉県杉戸町教育委員会で開催された「令和4年度杉戸町教育研究会」において、当研究所上席研究員の目黒朋子が「リーディングスキルを活用した授業づくり」と題した講演を行いました。

 講演では、まず、RST受検後にRST事務局から送付される受検者の分析結果(csvファイル)を活用した分析方法について説明しました。「リーディングスキルを活用した授業づくり」をするためには、RSTの結果を科学的かつ客観的に分析・把握することが必要です。
一つは「マクロ」の視点で、学習集団内の読解の癖やばらつきを散布図や箱ひげ図により分析・把握します。
もう一つは「ミクロ」の視点で、読解に特徴ある個人や子ども一人ひとりの読解力の実態を分析・把握します。
そうすることにより、学習集団や個人の実態に応じた手立てや支援等を考え、授業実践することが可能になります。

 次に、教員が「解像度高く教科書を読む」ということはどういうことなのか、実際の教科書の文章を提示して、RSTの6分野7項目のどのスキルを使って読めばよいのかをお伝えしました。
また、教科書は教科による独特な表現もあり、児童生徒によってそれが読解を困難にしている可能性があります。
例として、社会科の教科書でよく見る表現である「連用中止法」を示して、社会科をよく理解するにためは、連用中止法のうちで、どれが原因で、どれが並列かを、読み解く力が大切であることもお伝えしました。

 最後に、板橋区教育委員会や福島県教育委員会で実践されている、授業実践事例について紹介し、RSTから授業を「逆算」して構築していくことの重要性についてお話しました。


参加者からは、「RSTの意義や、教科書を読むことの難しさと大切さを改めて感じた。」

「照応解決の「これ」「それ」等の指示語やゼロ照応などを確認しながら授業を進めたい。」等の感想をいただきました。

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大阪市教育センター「言語能力育成研修」で講演をします。

大阪市は全市を挙げて読解力向上に取り組んでおり、その中でRSTを導入する学校が増えています。RSTを導入する学校が増えれば増えるほど、「(うちの学校の生徒の読解力が)低くて分散が大きいことはわかったけれど、指導要領の内容も教えきらないといけないし、コロナ対策もあるし、それでなくても多忙なのに、これ以上どうすればいいのだろう?」という気持ちになるのは自然なことだろうと思います。

大阪市教育センターでは、今年度、全小中学校1枠で教員がRSTを体験した上で「言語能力育成研修」を受講する、という「言語能力育成研修」を企画しました。その研修部分の講演を新井紀子が担当し、先日収録が終わりました。

講演では、実際に中学校の理科の教科書を提示しながら、それを正確に読解するには、RSTでいう6分野(係り受け解析、照応解決、同義文判定、推論、イメージ同定、具体例同定)が不可欠であることをまずお伝えしました。

RSTの観点は決して特殊なものではありません。テキストと、図表、グラフなどのRSTで言うところの『イメージ』で構成されている教科書の内容を児童・生徒が自ら進んで読み、理解する上で避けて通ることができないものです。リーディングスキル(RS)が低い児童・生徒は、教科書を読み解くことを諦め、プリント学習や暗記学習に流れてしまいます。そういう学習では、自ら学ぶ中で好奇心がかき立てられ、さらに学ぶという好ましいサイクルを望むことは難しいでしょう。

遠回りに思えても、発達段階に合わせてRSや語彙量を伸ばすことで、「読んで理解して興味を深める」ことにつながるのです。逆に言えば、RSがない状態では、一過性の興味をひく『おもしろい授業』や最適化したデジタルドリルだけでは、教員側が期待するような学びの持続は期待し難いといえるでしょう。

これまでのRSTのデータから、入試がない公立中学1年生に比べると、同じ地域の中高一貫の公立高校の中学1年生の方がRSが圧倒的に高いことがわかっています。また、ある県の3年間の調査から、県立高校の偏差値とその高校に入学した高校1年生のRSTの能力値の平均値との相関係数が0.85あることがわかりました。県立高校の入試では、学力テスト・内申書等を総合的に判断しますから、総じてRSが高い生徒ほど、普段から学びに対して積極的に取り組む生徒だといえるでしょう。

講演では、RS先進自治体である東京都板橋区や福島県のF-Laboなどの事例を紹介しつつ、「普段の授業の中で」RSを意識した授業を進めるコツをお話ししました。

今回の講演で、いくつか質問をいただきました。以下、FAQとしてみなさんと共有します。

Q:小学5年生の担任をしています。自分のクラスの児童がどんな問題を解くことになるか知りたいです。RSTを受検するとき、大人向けではなく、小学生向を受検したほうがよいでしょうか。

A:RSTではその学年までに得ているはずの知識などで出題範囲を絞るとともに、学年配当漢字以外にルビをふるなどの配慮をしています。また小学生向けには「やさしい言い回しの指示文」が表示されます。一方、RSTの問題の難易度を見ると、出典によって難易度が大きく変わることはありません。つまり、小学校の教科書出典の問題でも、高校の教科書出典の問題でも、そのことだけで難易度が変わるということはありません。RSTは受検者の能力に最適化した問題を出題しますから、自分のクラスの「RSに課題がある子」がどんな問題を解くかを体験することはできません。むしろ、先生方は、「大人向けRST」を受検し、「自分が受け持っている子供たちは、数年後にはこういう文章も読解できるようにならなければならないのだな」と思いながら、今日の授業の設計をしていただくのが良いのではないかと思います。

Q:「イメージ同定」の「イメージ」とはどんなものを指しますか?イラストや写真ですか?

A:「イメージ=非テキスト情報」と考えてください。教科書には、図・表・グラフのほか、数式・譜面など様々な非テキスト情報が登場します。文章題を読解し、立式するという行為は、テキスト(文章題)からイメージ(式)を導く推論、あるいは同義文判定活動と考えることができます。

Q:やはりRSTを伸ばすには読書を奨励することがいちばん大切ですか?

A:読書を奨励すること自体は良いことだと思います。一方で、読書が大好きなのに、算数・数学や理科が不得意という児童生徒は少なくありません。それは、読書だけではRSTが提唱する「汎用的読解力」は身に着かないことを示しています。思い切って、読書の対象に教科書を加えてみてはどうでしょう。その日学ぶ教科の該当箇所を見開き2ページ読んでおくだけで、いつもより授業がわかる、という体験をさせてみると、子どもたちの教科書を見る目が変わるかもしれません。

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リーディングスキルフォーラム ふくしま2021 が開催されました

2022年2月27日(日)「リーディングスキルフォーラムふくしま2021」が開催されました。今回は、コロナ禍ということでオンライン配信にて実施されました。
当日は福島県内をはじめ全国から約130名方が参加され、盛況のうちに開催することができました。

 まず、当研究所所長の新井紀子の挨拶があり、その後、rst-laboふくしま(通称:F-Labo)の会員である、福島県教育庁義務教育課の加藤政記指導主事から、F-Laboの活動内容についての報告がありました。
F-Laboは、「子どもたちの読解力に対する危機感」を持っている福島県内の小・中・高・大の先生方のRST勉強会であること、読解力向上を意識した授業の在り方を検討することを通して、教員の指導力向上を図り、子どもたちの読解力向上につなげていることなどの説明がありました。
ここ1年はコロナのためにオンラインで開催されることも多くなり、それに伴い県外の自治体からの参加も増えているとのことでした。

 講演の部では、まず、『共書きそれは聴写視写 ~書かなければ先に進まない~』と題して、NPO法人授業高度化支援センター代表の鏑木良夫先生より、共書きの効果、共書きの手順、共書きの意義について、具体的な授業例も交えてご講演いただきました。
参加者からは、「実際に聴写を経験したことで、児童生徒が板書を写す時間は生徒にとって頭を使わないただの作業の時間だったということに気づかされた。言葉を意識化させるために今後授業に取り入れていきたい。」などの感想が寄せられました。

 次に、『RSTの観点で教科書を読み授業改善に活かす ~係り受け解析・照応解決に着目して~』と題して、当研究所主席研究員の菅原真悟より、リーディングスキルテストの6分野7項目についての説明、記述式テストの結果から見える児童生徒の読解力の問題点、さらには「推論」と「推測」の違いや「イメージ同定」と「イマジネーション」の違いについての話がありました。
さらに、教師がRSTの観点で教科書を読みなおし、発問を工夫し授業づくりすることの大切さについて解説がありました。
参加者からは、「具体的な例が豊富でわかりやすかった。RSTの出題意図がよく分かり、RSTの理解が深まった。イメージ同定とイマジネーションの違いなど勉強になった。」などの感想が寄せられました。

 最後に、東京学芸大学准教授の犬塚美輪先生より『教科の読解力育成を評価の観点から考える』と題した講演がありました。
「なにをなぜ評価したいのか明確化しよう」ということで、アメリカの教育心理学者Bloomの評価理論(診断的評価、形成的評価、総括的評価)にあてはめながら、多くの示唆に富んだご講演をいただきました。
最後、「Take Home Messages」として以下の4点が重要であるとまとめられました。

 ○測定・評価のためには明確な到達目標が必要

 ○RSTの意義は、主に診断的評価にある

 ○評価することは明示して教える。教えたことは評価する

 ○意識的に形成的評価を行う

 参加者からは、「RSTのスコアを向上させることが目的だと思っていたが、今回診断的評価で有効であることがわかった。日々の授業でカリキュラムとつなげて評価を考えていきたい。」などの感想が寄せられました。

 

 今後、F-Laboのような取り組みが全国に広まり、RSTを軸とした授業研究・授業実践が広まっていくことを期待したいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

F-laboのロゴマーク。たちあおいの花言葉:「大望」「豊かな実り」。

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茨木市教育委員会で講演を行いました

茨木市教育委員会は、「一人も見捨てへん教育」を実現するため令和2年度から6年度までの5か年計画で「茨木っ子ネクスト5.0」というプランを策定しました。そのプランの4本柱の一つに「確かな言語力を育む」が掲げられ、小学校のモデル校3校において昨年度からRSTを受検し、確かな言語力を育むための授業づくりが行われています。

今年度は、当研究所上席研究員の目黒朋子が依頼を受け、「令和3年度茨木市教育委員会学力担当者会」において2回オンラインで講演を行いました。

1回目は2021年6月30日に開催され、「RSTの受検結果分析と生かし方」と題し講演を行い、RSTの受検結果を正しく分析しどこに処方箋をあてていくのかを明確にすることが必要であること、教員自身が教科書を解像度高く読んで授業づくりをすることが重要であることをお伝えしました。

2回目は2022年1月28日に開催され、初めにモデル校の先生からは今年度の読解力向上のための取り組みについて、茨木市教育員会の岡田指導主事からは「昨年度より係り受け解析や照応において、全体的に能力値が向上し低位層の児童が減少している」こと、「全国学力・学習状況調査においても、国語の『読むこと』で結果が良好であった」ことなどの報告がありました。その後、上席研究員の目黒が「リーディングスキルを意識した授業づくりとは」と題した講演を行い、実際の小学校5年生社会科のリーディングスキルを意識した授業の紹介と、リーディングスキルの観点で教科書を読み授業にどのように落とし込んでいくのかについてお伝えしました。

 

茨木市教育委員会では、来年度はモデル校を中学校にも広げ、小中連携して読解力向上に向け更に取り組んでいくとのことです。

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板橋区で令和3年度「読み解く力」発表会が開催されました

東京都板橋区では読み解く力の育成を目指して、独自に「板橋 i(あい)カリキュラム」の開発を行っています。12月15日(水)には、令和3年度「読み解く力」発表会が開催され、当研究所所長の新井紀子が講演を行いました。

詳細は以下の板橋区教育広報に掲載されています。
板橋区教育広報107号

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戸田市立笹目小学校で講演を行いました

戸田市教育委員会は、将来の予測が困難な時代においても、主体的に判断・行動し、よりよく問題を解決する資質・能力を確実に育むことをねらいとして、平成28年度より、リーディングスキル(以下RS)育成を最重要課題の一つとして授業改善に取り組んでいます。

2021年12月8日(水)に、戸田市立笹目小学校において研究委嘱発表会が開催され、当研究所所長の新井紀子が「AIに負けない子どもを育てる~リーディングスキル育成を通じて~」と題して講演を行いました。

まず、当日の研究授業で扱った「日本の工業の特色」の帯グラフを読み取ることは、小学5年生にとって難しい内容であるが、ただ知識を伝達するのではなく、グラフの読み方を学習スキルとして学ぶ良い授業であったと講評しました。

毎日の授業で意識して児童生徒の学習スキルを高めていくことが大切であり、例えば「分かっているよね。」と問うのではなく、どのように学べばよいかを教える授業や学習スキルが身に着いているかどうかをチェックする授業が全国に広まり、授業の質を向上させていくことが重要であると指摘しました。

講演では、2011年の東ロボプロジェクトからRSTプロジェクトをスタートさせた経緯やRSTの狙いについて紹介し、さらに、他の教育委員会が公表しているRSTと全国・学力学習状況調査(学テ)との相関や研究チームの分析をもとに、読解力を義務教育段階で身に着けさせることの重要性についても指摘しました。

当日は、オンライン配信が行なわれ、北は北海道から南は九州まで全国の教育関係者の視聴があったそうです。
また、戸田市教育委員会のFacebookでも当日の様子が公開されています。

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深谷市立南中学校で講演を行いました

深谷市立南中学校は、深谷市教育委員会から研究委嘱を受け、「RST(リーディングスキルテスト)を活用し、言語環境の整備と言語活動の充実を基にした学力向上の推進~学習の基盤となる資質・能力の育成を目指して~」を研究主題として、2年間の研究に取り組んできました。

2021年11月10日には「令和2・3年度深谷市教育委員会委嘱研究発表会」が開催され、研究授業の公開および2年間の研究成果が発表されました。当日は、当研究所主席研究員の菅原真悟が「RSTを活用した授業革新」と題した講演を行い、リーディングスキルの観点で教科書を読む方法や、実際の授業例の紹介をしました。

当日の様子は、深谷市教育委員会、深谷市立南中学校のHPにも掲載されています。

深谷市教育委員会 市教育委員会研究委嘱 研究発表会

深谷市立南中学校 深谷市教育委員会委嘱研究発表会

 

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燕市の研修会で講演を行いました

10月7日(木)に開催された「RST分析研修会(研究主任会)」において、当研究所主席研究員の菅原真悟が「RSTのねらいと結果の活かし方:AI・DX時代に求められる読解力を育む」と題した講演を行いました。

新潟県燕市は、子どもたちが人工知能(AI)に負けない能力を身に付けるために、「読解力」育成プロジェクトを今夏より開始しています。文章を正しく読み解けるかを測るためにリーディングスキルテストを全市立小中学校で導入し、分析結果を基に授業改善を進めています。

8月2日には、当研究所所長の新井紀子が「AIに負けない子どもを育てる」と題して「読解力」育成の重要性、必要性について講演を行いました。また、9月7日には、筑波大学附属小学校副校長の夏坂哲志先生から「算数の授業と読解力」と題して小学校算数科における「読解力」育成についての研修(第4回教科指導プロフェッショナル研修)を実施しています。

これらの講演・研修を受け、10月7日のRST分析研修会では、まずRSTの6つの観点についてあらためて解説し、今年の受検結果の分析、各学校の傾向についての分析結果を報告しました。どの学校でも読めている児童生徒と読めていない児童生徒の分散が大きく、特に、読めていない児童生徒の読解力を育成することが公教育の課題であると指摘しました。

また、読解力を育成するために、日々の授業の中に読解力を育成する観点を入れて授業を行うことが大切だとお伝えしました。

コロナ禍のため当日の研修会はオンラインでの開催となりましたが、市内の小中学校の研究主任および管理職の先生方30名以上の参加があり、また、当日の講演内容は、燕市内小中学校教職員限定の共有ドライブでも限定公開されました。

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リーディングスキルフォーラム2021を開催しました

多くの皆様にご参加いただきまして誠にありがとうございました。
事前にお申込いただいた方は、アーカイブ配信を12月28日までご覧いただけます。

システムの不具合で、30日にアーカイブ動画を視聴できないトラブルが発生しました。
ご覧いただけなかったこと深くお詫びいたします。申し訳ございませんでした。


リーディングスキルフォーラム2021

「読める」とはなんでしょう。漢字が読め、正しく音読できることでしょうか。文章に出てくる言葉の意味を知っていることでしょうか。読書好きを自認する人は、どんな文章(マニュアルや理数系の教科書等)でも巧みに読めるものでしょうか。「読めない人」が「読めるようになる」にはどうしたらよいのでしょう。

当たり前なようでいて、実はよくわからない「読める」。

それを科学し、様々な角度から実践していく場がリーディングスキルフォーラムです。2021年はオンラインで開催します。皆様、奮ってご参加ください。

日時:2021年11月28日(日) 13時30分~17時30分
方式:オンライン(ライブ配信および1カ月のオンデマンド配信)
※ライブ受信・オンデマンド受信のどちらも事前のお申込みが必要です。お申込みは終了しています。

主催:一般社団法人 教育のための科学研究所(代表理事・所長 新井紀子)
協力:rst-laboふくしま
後援:読売新聞社、朝日新聞社、毎日新聞社、東京新聞、西日本新聞社、日本経済新聞社、琉球新報社、株式会社三省堂、株式会社第一学習社、株式会社ポプラ社(順不同)

13:30~13:35  開会(菅原真悟)
13:35~13:40  開会挨拶(新井紀子)
13:40~14:25  研究発表
          小学生の基本的学習スキル
          ーコホート調査から見る子どものつまずきやすさと教員評価との関連ー
          犬塚美輪(東京学芸大学)、登藤直弥(筑波大学)
14:25~15:05  実践報告1
          「読み解く力」を育成するカリキュラムとその実践(板橋区教育委員会)
          中川修一(板橋区教育長)
          堀内雅一(板橋区教育委員会指導主事)
          小澤裕行(板橋区立板橋第二小学校校長)
15:05~15:20  休憩
15:20~16:20  模擬授業とその解説
          「日本の工業生産の特色」(東京書籍「新編 新しい社会5年下」p6-7より)
          新井紀子(一般社団法人 教育のための科学研究所,国立情報学研究所)
16:20~17:10  実践報告II
          RSの視点から子どもの実態をとらえた授業づくりについて(rst-laboふくしま(福島県))
          志賀匡行(福島県教育委員会指導主事)
          菅野千恵(本宮市立岩根小学校教諭)
17:10~17:20  閉会挨拶(新井紀子)

 

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「板橋の i(あい)カリキュラム」読み解く力 中間報告会が開催されました

東京都板橋区では読み解く力の育成を目指して、独自に「板橋 i(あい)カリキュラム」の開発を行っています。12月3日(木)には、板橋区立文化会館において「板橋の i(あい)カリキュラム」読み解く力 中間報告会が開催され、当研究所所長の新井紀子がパネルディスカッションのファシリテーターを務めました。

 
パネルディスカッションに先立って、板橋区教育委員会の中川修一教育長から、society5.0に向けて、板橋区では言葉の意味を理解して考えるといった人間ならではの優位性を10年間のカリキュラムの中で育成していきたいとお話がありました。


そして、今後の取組として、①板橋区がめざす「読み解く力」について理解する、②教科書で学ばせることをめざす、③6つのリーディングスキルの観点を最低1つは日々の授業に取り入れる、④児童生徒に自分の考えを書かせアウトプットする場面を入れる、⑤日常的な取組として継続していく、ことを行っていくと説明がありました。

 

 次に、板橋区教育委員会の水谷知由統括指導主事より、板橋区の取り組みについて解説がありました。

水谷統括指導主事は、読むことができていない子どもに「教科書を読めば分かる」と指導しても内容を理解できないので、「読んでも分からないかもしれない」と考えて指導するなど、指導観の更新が必要であることを強調されていました。

また、コロナ禍で学校が一斉休校のときに、児童生徒に学習プログラムの提供を行ったところ、一人では十分に学ぶことができず、保護者が付き添わなければならなかったケースもあり、自己学習力・自己決定力の重要性が改めて明らかになったそうです。
そして、授業革新の3つの原則として
①教科の目標の達成をめざす
②子どもたちに教科書を読み取らせる
③この言葉の意味を理解しているか?と疑問をもって授業をする
の3つを常に意識して、主たる教材は教科書であり、教員が教科書を研究して授業を行うことが重要であると述べられていました。

 

続いて、パネルディスカッションでは、板橋区立小学校の校長をはじめ、区内学校の研究主任2名、教員2名、板橋区教育委員会の指導主事1名が登壇し、子どもたちの「読み解く力」を育成するためには、どのような点に注意すべきかが議論されました。

登壇された先生方からは、「指導書から授業をつくるのではなく、一から教科書を読んで授業を作る」「子どもたちに、なぜ?どうして?と問いかける時間を大切にしている」「最後に教科書を開くだけ、という授業から脱却する」「教科書をよく読んで、子どもたちが躓きそうな箇所を調べておく」「指導観の変換は評価観を変えること」といった発言があり、教科書で教えるために普段どのような点を意識されているのかがよく分かりました。

ディスカッションの最後に、教育委員会指導主事からは、先生方が使いやすいと感じるカリキュラムの作成をめざしていく、また、これからの授業研究等を通して「板橋メソッド」を提案したいと発言がありました。

パネルディスカッションのまとめとして、新井からは、板橋区立の学校には1800人の先生がいて、一人ひとりが「教科書を使い倒す授業」を改めて考えることが大切。教科書をもう一度読み直してみてほしい。ここを試験に出す、ここがポイントと思わずに、まずは教科書を読むことを第一歩としてやってみてほしいとアドバイスを行いました。

 

 

今回の中間報告会では、板橋区が新しく作成した板橋のiカリキュラムのパンフレットが配布されました。当パンフレットでは、読み解く力の育成のために、どのように授業改善を行えばよいのかが分かりやすくまとめられています。これをベースに板橋区で読み解く力の育成がさらに進むことが期待されます。(RST事務局)

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板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。

12月3日、板橋区の学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」で令和2年度、3回目となる研究授業が実施されました。今回は、板橋第二小学校での小学5年生社会科の研究授業の様子をご紹介します。

今、板橋第二小学校の5年生の社会科では、日本の工業生産の中盤にさしかかっているところです。科学技術立国といわれる日本において、どんな工業が誰によってどのように支えられているのかを5年生の段階で理解をしておくことは、日本がこれからどのような国になっていくのか、また、自分がその国でどのような産業の担い手になっていくのかを想像する上でも重要な単元です。

今回の研究授業では、「小学社会5」(教育出版)の156ページ~157ページを学びます。この授業案を考案した山田禎文先生は、この2ページを何度も何度も読み込んだそうです。

高学年になると教科書は抽象度を増すだけでなく、異なるレイヤーの資料が見開き2ページに詰め込まれていることがわかります。黒で囲まれているのが本文、それ以外に青で囲んだ資料、薄い青で囲んだコラム、ピンクで囲んだ「強調したいポイント」(ただし、まとめではない)、加えて、緑で囲んだ「問い」があります。資料にも、統計のグラフや表、地図、そして本文の一部を強調するための写真やイラスト、歴史の場合には当時の風刺画なども含まれています。

教科書の本文を読み解くことが難しい児童にとって、このような本文と資料の関係性を把握することはさらにハードルが高いことです。そして、それはまさに近年重視されている「多様な資料を参照しつつ、自らの考えをまとめていく」PISA型読解力は、まずは教科書の見開き2ページを十分に活用して読めるようになること、から身に付けていくべきでしょう。

 さぁ、この2ページの「読解」を山田先生はどのように設計したのでしょう。授業に沿って、紹介したいと思います。

今日のめあては「大工場と中小工場のちがいを知り、中小工場の特色や役割を読み取ろう。」です。

めあてを最初に書くことは、どこの教室でもしていることでしょう。ただし、山田先生の方法は、他と少し違います。「よく聞いて。今日のめあてはいつもより少し長くて難しい。だからしっかり聞いて書き始めよう」

つまり、声でめあてをはっきりと伝え、その意味を児童に考えさせて(頭の中で文字に変換させて)自力で書き始めさせるのです。児童が書き始めたのを確認した上で、山田先生はめあてを黒板に書き始めました。

山田先生のクラスでは日頃からそうしているようで、めあてを「聞く」ということに児童が「全集中」していることがわかります。これまで多くの教室で、めあてを先生が書き終わるのを待ってから、ただの文字列として児童・生徒が写している情景を見てきた私にとって、このクラスの「音としてめあてを聞いて、それを仮名漢字交じりの文章にする」集中度の高さが強く印象に残りました。こんなところからも「読み解く力」は育成できます。どのクラスでもその気になれば取り組めることではないでしょうか。

めあてを書き終えた後、山田先生は驚くべきことを児童に問いかけました。

「今日の授業のめあてが『大工場と中小工場のちがいを知り、中小工場の特色や役割を読み取ろう。』だとすると、今日の授業ではどんなことを学習しないといけないのかな。」

めあてから授業で何を学習すべきかを児童が考える、というのは究極のアクティブラーニングではないでしょうか。そのためには、もちろん事前に授業の全体設計をし、めあてから児童でも授業計画ができるように練っておく必要があります。

このめあてから、自然に2つの達成目標が導出されました。

  1. 大工場と中小工場のちがいを知る。
  2. 中小工場の特色や役割を読み取る。

「めあてを単に分解しただけではないか」と思う人もいるでしょう。いいえ、そんなことはありません。小学5年生の半数は、複文を単文に箇条書きで分解するだけでもつまずくのです。児童が今日すべきことを意識した上で、その2つを達成しようと思う、この小さなことが、この授業で児童が最後まで集中力と途切れさせない上で、鍵になっていたように思います。

めあての第一「 大工場と中小工場のちがいを知る。」に取り掛かります。
次に、山田先生は子どもたちにゆさぶりをかけていきます。
「大工場か中小工場か、というのはどこで決まるのだろう?」

  • 面積で決まる。
  • 働く人の人数で決まる。
  • (生産額で決まる、生産量で決まる、を入れてもよいかもしれません。)

挙手をさせると、面積で決まるという児童が何人かいました。人数で決まると言った児童も明確な根拠があるわけではないようでした。

そこで、山田先生は、「実はその定義は教科書の156ページに書いてある。どこに書いてあるか探してみよう」と指示しました。興味深いことに、成績下位の児童ほど、まず本文をべったりと読んで答えを探そうとします。目の前に「キーワード」として中小工場と大工場の定義が書いてあるのに、気付きません。成績下位の児童は教科書の「構造」が十分にはよくわかっていないようです。

指導者が「書いてあるのだから、誰でもわかるはず」との先入観をもたずに、実際に探させることで、「定義だから、『中小工場とは・・・、大工場とは・・・』と書いてあるはず」と見当をつけて探そう、という基本的学習スキルとしての検索が身に付くようになるのです。具体例同定に着目した指導です。

「わかった人はいますか?」の呼びかけで、手を挙げた生徒が数名いました。ですが、山田先生はすぐに答えを言わせずに「どこに書いてありましたか?」と尋ねました。「キーワードに書いてありました」との返事を受け、「そうだね。キーワードに書いてあったね」とクラス全員で共有すると、成績下位の子も「ああ」「あ、そうか」などと声をもらし、定義を書き始めました。
教科書上の資料から、「働く人が1~299人までの工場を中小工場という。」「働く人が300人以上の工場を大工場という。」をクラスほぼ全員が「どこに書いてあるか」を認識した上で書くことができました。

山田先生は「文章になっているかな?『という』『です』までしっかり書こう」と促しました。これも、読み解く力の出力の質を高める上で重要な指導です。実は、文章で書けるか、キーワードでしか書けないかで、高学年はどの科目でも大きな差がでます。キーワードを書けているからわかっているだろう、と流さずに、「文になっているか、なっていないか」は繰り返し指導したい点です。

(文になっていない部分を指摘され、「です」を付け加えて文章化している途中のノートの様子。ただし、「働く人が300人以上の工場を大工場です」では文にならないので悩んでいるところ。このようなつまずきを予想し、表現方法をクラスで共有することで、表現のバリエーションが各自の中で蓄積されていきます。学びのコミュニティの中で学んでいく一斉授業の良さのひとつです。)

その上で、「実は働く人が1~29人の工場を小工場というそうです。中工場はどんな工場かな?」と聞き「働く人が30人~299人までの工場を中工場といいます」と答えさせていました。

算数と社会の科目横断が実現されている、良いシーンでした。

次に、まためあての1を確認し、「違いを知るために、156ページの下の帯グラフを見て、中小工場と大工場の違いを文章で書いていこう」というイメージ同定に相当する活動を行いました。RSTでは文から正しい図を選びますが、それはテストの形式上のことに過ぎません。図から正しい説明文を書くというのもイメージ同定のむしろ高度な活動です。

グラフの特徴を3つ挙げるという課題を与えると、比較的成績の良い児童はグラフを順番に見て、効率よく特徴をあげていきます。一方、中位層以下は、グラフ全体をぐるぐるみていて視点が定まらず、迷っているうちに時間を浪費しがちです。中位層以下には机間巡視の際、「まず最初のグラフからわかることを文にしてみよう」などとアドバイスするとよいでしょう。第一のグラフから

  • 工場数は圧倒的に中小工場が多い。
  • ほとんどの工場が中小工場である。

が出てくると良いのですが、

  ・工場数は中小工場の方が多い。

のように「どれだけ」の修飾節を書けない児童がいます。この修飾節を書けないと、理科でも国語でも困ります。修飾節や形容詞を適切に書くことに対して児童がインセンティブを感じられるようになれるとよいですね。机間巡視のときに、的確な修飾節や形容詞、接続詞等を書いた児童のノートの該当箇所に赤丸をつけて「かっこいいね!」などとほめ、「〇〇さんは「主に」「圧倒的に」という言葉を使ったよ、かっこいいね」などのようにして語彙を共有する授業を心がけるとよいでしょう。表現に困ったときにぴったりとあてはまる語彙を学んだとき、語彙はもっともよく身に付くからです。

こうして、皆が特徴を挙げたことで、

  • 工場数は圧倒的に中小工場が多い。
  • 働く人の数は中小工場の方が多いが、その割合は全体の2/3程度である。
  • 生産額は大工場の方がやや多いが、中小工場と同じくらいである。
  • 機械工業では、大工場の生産額の方が多い。
  • 重工業では大工場の生産額の方が多い。
  • 軽工業では中小工場の生産額の方が多い。

などが並びました。ここで、156ページの下の左側の帯グラフは中小企業と大企業の「割合」に関するグラフであるのに対し、右側の帯グラフは「生産額」という絶対量に関する帯グラフである、ということを認識していた生徒が少なかったのがやや気になりました。本来ならば「重工業では、大工場の生産額の方が多い」と書くべきところ、「重工業では大工場の方が多い」と書いた児童が相当数いました。この2つは異義です。同義文判定が重要になるのは、このような場面においてです。ここは一歩踏み込んで、同義か異義かを確認するとさらに良かったでしょう。

ところで、2つめのグラフのラベルは「各工業の生産額にしめる中小工場と大工場の割合」です。「しめる」という言葉になじみのない児童は少なくありません。学習必須用語ですから、さらっと流さずに確認しておきたい語彙です。

ここまでで、今日のめあての半分である1が終わりました。「まだ2つめのめあてが終わっていないね」と山田先生は児童に確認させます。児童が時計に目をやり、「残り時間で2を頑張らないと」と思う様子がほほえましかったです。今日すべきことのどこまでが終わったか、とプログレスを意識する、ということは自学自習をスムーズに進めていく上でも必要になる能力です。授業時間の管理を先生が一方的にするのではなく、児童も意識することで、時間管理の方法を具体的な成功例や失敗例を体験することで学んでいくことができます。

さて、2つめは「 中小工場の特色や役割を読み取る」です。
見開き2ページの右側にそのことが書いてあります。「157ページの本文をよく読んで『中小工場の特色や役割』について書いてある部分に線を引こう。その上で、できるだけノートに箇条書きにしよう」と児童を励まします。ここは、中小工場の特色や役割が、3つの長い複文の中に埋め込まれています。その中から、児童は次のような特色を挙げました。

  • 中小工場は、情報を交かんし、協力して製品の開発に取り組んでいる。
  • 中小工場は、高い技術をもっている。
  • 中小工場は、大工場の生産を支えている。

興味深かったのは「それぞれの中小工場でもっている高い技術を生かしてつくり出される製品は、大工場の生産を支えるとともに、わたしたちのくいらしの様々な場面で使われています。」の文から「中小工場は何をもっていますか?」に答えられる児童が大変少なかったことです。係り受け解析の能力が問われる場面です。

5年生にとって「もっている」というのは、「品物を所有していること」であって、「高い技術をもっている」ということが腑に落ちないのかもしれません。「もつ」という基本語彙であってもその使い方が高学年になると変化することで、児童がつまずくということをよく把握した上で課された箇条書き課題でした。

その上で、山田先生は157ページの写真と地図に着目させました。円筒の金属から複雑な形状の部品を作っている写真です。

「これは、中小工場で生産された製品ですが、それは、今出た3つの特色のうちのどれを表した写真ですか?」

という問いかけに対して、

  • 高い技術を示した写真

という答えが多くの児童から聞かれました。手を挙げるか迷っていた下位の生徒も「ああ」という声が聞かれ、「高い技術をもつ」ということの具体イメージが持てたのではないかと思います。

次に、(やや駆け足になりましたが)157ページ右上の地図、「工場が多く集まる地域」に着目させました。まず、既習知識の確認です。

「どんなところに工場は集まっているかな」

「関東と関西」という答えもありましたが、先生が、おなかの周りをジェスチャーで示したことで「太平洋ベルト」という答えが引き出されました。その上で、さらに「どうしてここに工場が集まっているんだろう。今挙げた特徴から考えてみよう」と高度な問いかけをしました。

このような高度な問いは、特徴をあげずに問いかけると、答えが発散してしまい、どの意見が正しく、どの意見は間違っているのか、わからないまま授業が終わってしまいがちな部分です。この授業では、前もって特徴を挙げていたからこそ、

  • 協力して製品をつくるのに都合がよいから。
  • 大工場のそばに中小工場が集まるから。

など、論理的に推論をすることができました。

最後に、まとめを書いた後、各自がふりかえりを書きました。その中に、
「今日は中小工場の数や特色のことがよくわかった。次は大工場の特色について勉強したい」という意見がありました。
ところが、教科書は中小工場に多くのページ数を割いているのに、大工場については記述がないのです。

参観された文部科学省の塩見みづ枝審議官(初等中等教育局担当)は、「それは大変申し訳なかった」と苦笑しながら、「児童がこれだけ意欲をもって学んでいるので、興味関心に応える学習指導要領にしなくては」「教科書を『使い倒す』ことで、これだけ豊かな授業が生まれることに感銘を受けた」との感想を述べられました。

RSの概念に基づきつつ、しかも本来の科目の目標をしっかりと達成できた、まさに「読み解く力を育成する授業」でした。

全国どこの学校でも実践できる極めて質のよい授業を考案してくださった山田先生と板橋第二小学校に心から感謝します。

 

鉛筆ワンポイントアドバイス

小学校の授業は、通常見開き2ページで一回の授業を組み立てます。社会科では、2つまたは3つの項目で2ページが構成されています。そこで、社会科のめあてをつくるとき、各項目をまとめた複文で全体のめあてを作ると、授業をスムーズに進めやすくなり、時間切れによる取りこぼしがなくなります。

山田先生のめあても、156ページで1つ、157ページで1つという2つのめあてで、授業全体のめあてが構成されていることがわかりますね。

 ?考えてみよう

一人一台パソコンが小中学校に導入されつつあります。学校には、教科書を紙のままにするかデジタルにするか、迷っているところもあるでしょう。デジタル教科書は、キーワードで検索ができたり、知らない言葉に辞書が連動しているなどのメリットがあります。一方で、デジタル教科書が想定しているキーワード検索をして適切な箇所を参照したり、辞書機能を自ら使いこなすことは、高学年であっても困難であることが上記授業録からもわかります。

国立情報学研究所等の研究グループや教育のための科学研究所が行ったこれまでの研究成果から、以下のようなことがわかっています。

  1. 県立偏差値上位の高校であっても、デジタル化した教科書を自由に検索をして記述式問題(日本史)に答えるタスクの正答率が極めて低かった。一方、ほとんどの生徒が、「答えが書いてあるページ」は検索によって表示していた。つまり、検索の技巧が低いというより、検索して目的のページを表示しても、そこを読み解く力がないため、タスクに失敗したと考えられる。
  2. A町の小中学校において、RSTをふりがななしと総ルビをつけた状態半々で実施し、正答率を比較した。その結果、全学年で、ルビあり・なしで正答率は統計的に有意な差がなかった。加えて、小学6年生から中学2年生までは、ルビを活用していないと思われる(問題文を読む時間が有意に伸びていない)一方、中学3年生は問題文を読む時間が有意に伸びたので、ルビを活用したと考えられる。ただし、その中学3年生も正答率は上がっていない(むしろ下がった)。

デジタル教科書には、紙と異なり、様々な「押すことによって状態が変わるボタン」(リンクやルビ等)があります。小学生では授業中に集中が切れると、こうしたボタンを次々に押してしまい、元に戻ってこられなくなるという現象がよく見られます。

紙とデジタルを選ぶ上で参考になれば幸いです。

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リーディングスキルフォーラム ふくしま2020 が開催されました

2020年11月22日(日)にビッグパレットふくしま3階中会議室において、「リーディングスキルフォーラムふくしま2020」が開催されました。コロナ禍のため、会場座席数の3分の1が定員(105名)となったこともあり、告知わずか数日で予約が埋まり、急遽オンライン配信も実施することになりました。当日は、対面・オンライン合わせて230名以上の方が参加され、盛況のうちに開催することができました。

今年はコロナ禍により、当研究所が例年11月に開催していたリーディングスキルフォーラムの開催を断念せざるを得ませんでしたが、リーディングスキル向上を通じて学力や人間力の向上を目指す、 rst-laboふくしま(通称:F-labo)の皆さんが中心となって、リーディングスキルフォーラムふくしま2020を開催してくださいました。

第一部では、まず、研究開発の現場からの報告として、当研究所主席研究員の菅原真悟より「読解力を鍛えるには~RSTで自分の読み方を見直す~」と題して、リーディングスキルテストがどのようなテストなのか、またリーディングスキルテストと学力の関係についての報告を行いました。そのうえで、リーディングスキルの観点で読解力を鍛えることの大切さについて解説がありました。

次に、RSTの導入事例として、「相馬市が目指す教育行政~方向性の絞り込み~」と題して相馬市教育委員会教育長の 福地憲司 氏より、相馬市内の全学校にリーディングスキルテストを導入した経緯についての報告がありました。

相馬市では、これまで読解力を測る客観的なデータがなかったので、RSTを導入することで評価の指標として使いたいと考えたそうです。また、児童生徒だけではなく教員もRSTを受検することによって、RSTについての理解を深め、読解力向上に向けた取り組みを進めていくとのことです。

子どもたちに「瞬間学力」ではなく、これからの人生を「生き抜く力」を育成するための取り組みの中心に、RSTを位置付けていただいています。

 

第二部では、実践報告として、最初に福島県立安積黎明高等学校教諭 今野充宏 氏の山川出版社の『詳細日本史B』を用いた模擬授業の実演が行われました。

授業では、教科書をもとに、どのように授業を行っているのか模擬授業が実施されました。教科書を読みながら生徒に質問を投げかけ続けることで、主語、述語、目的語を生徒に意識させつつ日本史の内容を学ぶ授業となっています。「係り受け解析」「照応解決」「推論」を意識した授業内容となっていて、太字のキーワードを覚えるのではなく、教科書全体を通して日本史を構造的に学ぶように設計されています。授業の際、40人学級の場合、最低でも1回の授業で2回は質問を当てることを心がけているそうです。

次に、授業実践事例紹介として、いわき市立湯本第一小学校教諭の 徳永一夢 氏より、小学校での授業実践報告がありました。徳永氏は小学校4年生の担任ということもあり、受け持つ子どもたちがRSTを受検できませんが(RSTは6年生以上を対象に設計しているため)、リーディングスキルの観点で読解力育成を念頭に授業を行っており、国語、社会、算数、日常の実践(視写)での取り組みが紹介されました。

国語科の「漢字の広場」の単元では、RSTを知ったことでこの単元あらためて見直すことができ、「書くこと」によって語順や文の構造への意識を高める授業実践につながったこと、算数科の業者テストをRSTの6分野7項目で分類すると、あてはまることがほとんどで、そこから授業を組み立てられることなどの報告がありました。

読解力の育成には、教員自信がまず教科書を読み、教科書に出てくる言葉にこだわり(「ひっかかり」)、子どもたち学びを阻害する言葉に気づくことが大切であると述べられていました。

最後に、東京学芸大学准教授の 犬塚美輪 氏より「読むことに関する3つの誤解-読むことをどう教えるか-」と題した講演がありました。

講演で犬塚氏は、読解力育成に関するよくある3つの誤解として、

1.辞書・教科書を読めば語彙・知識が獲得できる

2.読解力を高めるためには特別な授業が必要だ

3.グループ学習で言語力が高められる

と言われることがあるが、けっしてそう単純ではないことが具体的な例を提示しながら解説していただきました。そのうえで、読解力の育成には、

・理解には内包と外延の両方が重要

・日々の授業の中で「どう読むかを」明示的に指導する

・児童生徒の良い説明を引き出す

といった3つの観点が重要であるとまとめられました。

 

なお、当日のフォーラムでは、当研究所所長の新井紀子もzoomでサプライズ参加いたしました。新井からは、子どもたちの読解力育成のために、まず教員がRSTを受検して読解力について理解しようする自治体が増えていることを紹介しました。そして、子どもたちが自学自習できる力を身につけ一人で歩いていけるために、読解力を育成する教育が今まさに求められていることをお伝えしました。


写真 講演の様子(東京学芸大学 犬塚美輪 氏)

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F-labo 10月例会を開催しました(rst-labo ふくしま)

rst-labo ふくしま(通称:F-labo)では、福島県内の小学校から大学まで多くの先生方がリーディングスキルについて自発的に学びあいを行っています。
10月の例会が郡山市富久山総合学習センターで開催されました。郡山市のガイドラインに基づき、ソーシャルディスタンスを取りつつ毎月開催しています。
今回のF-laboは、授業実践報告2件とワークショップの構成で開催しました。

まず、岩根小学校の菅野千恵先生から、小学校4年生算数科「ちがいに注目して」の授業についての実践報告がありました。 

鉛筆たいちさんとりこさんは、60枚の色紙を2人で分けて、つるを折ります。りこさんのまい数の方が12枚多くなるようにします。それぞれの色紙の数は何まいになりますか。

この問題文を正しく読解させるため、まず、「りこさんのまい数の方が12枚多くなるようにします。」の文を、たいちさんを主語にして同じ意味になるように言い換えさせ、「たいちさんはりこさんより12枚少ない」を引き出します(同義文判定)。

子どもたちは、「60枚の色紙を2人で分ける」という文を読むと、「分ける=割り算」と安易に考え、60÷2=30と計算し、その考えに固執します。そこを、2人の数量関係をテープ図を基に線分図に表すことで、視覚的に問題文をとらえさせます(イメージ同定)。そして、「12枚を引けば(12枚足せば)同量になる」、「合わせて60枚」であることを理解させます。このように同義文判定、イメージ同定の力を使って立式させ、「60-12=48→48は何を表しているか」「48÷2=24→どうして÷2をするのか」「24+12=36→どうして12を足したのか」など、式の意味を問いながら2人の枚数を求めていきます。

菅野先生は、「子どもたちは問題文全体をとらえることができないため、RSTの6分野7項目の複数の力が必要になる」と、子どもたちのRSTの結果を分析し、実態に合わせた授業実践を心掛けているとのことでした。

  次に、喜多方第一小学校の渡邉良輔先生からは、これまで行ってきた「学びあい」についての研究に加えて、RSの視点を入れた研究に発展させているという報告がありました。
RSTを実施したことで、子どもたちが抱えている読解力に関する課題について、データ化し顕在化できたそうです。
これまで、読み方の指導についてはいろいろなやり方が提唱されていますが、評価することが難しいため、RSTを評価ツールの一つとして引き続き取り入れていく予定だそうです。

最後のワークショップでは、教育のための科学研究所の目黒朋子上級研究員が、授業準備のためにどのように教科書を読めばよいのか、ワークシートを用いたワークショップを行いました。

ワークショップでは、東京書籍『新編新しい社会5上』の98、99ページを用いて、授業でおさえたい言葉、子どもたちにとって親和性が低い言葉を抜き出し、音読の際の注意点やRSの観点からどのような授業を行えるのかを考えました。
このワークショップを体験した先生方からは「こんな風に教科書を読んだことはなかった。」「校内研修で実施したい。」との感想が述べられ、目黒からは、教員が教科書を丁寧に読み、言葉に敏感になることが大切であるとの助言がありました。(RST事務局)

 

 

 

 

 

 

F-laboのロゴマーク。たちあおいの花言葉:「大望」「豊かな実り」。

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板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。

10月27日、令和2年度板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業(第3回目)が、板橋第七小学校で行われました。教育のための科学研究所からは、新井紀子代表のほか、菅原真悟主席研究員が参加し、各科目の研究授業の参観、助言を行いました。

第6学年の社会科では、現在、第2章「日本の歴史」の第8節「明治の新しい国づくり」(教育出版)の中盤に差し掛かったろころです。前回は自由民権運動、そして今回はいよいよ国会開設の前の大日本帝国憲法制定について学んでいきます。

日本近代史は、内容が複雑で、ストーリーとして読み解くことが難しいこともあり、高校生でも理解することが難しい箇所です。ただ、授業者は「大日本帝国憲法と日本国憲法を比較し、明治政府がどんな国づくりを目指していたのかを読み解く授業をしたい」と強く望んでいました。教科書が提案している↓の「発展的内容」以上に挑戦的な課題です。

鉛筆やってみよう

大日本帝国憲法を、五日市憲法や、今の日本国憲法と比べて、どのような特徴があるか考えてみよう。

(「小学社会6年」、p.187、教育出版、令和2年1月20日発行)

新しい指導要領では、6年生は日本史よりも先に公民を学びます。つまり、1学期のうちに日本国憲法の内容や特徴は学んでいるのです。その意味では、大変有意義な授業目標です。一方、1学期の内容が十分に児童に定着していないと混乱する可能性もあります。また、大日本帝国憲法の特徴が見開き2ページ、1段落+資料にコンパクトにまとまっているのに比べて、日本国憲法についての記述は10ページから29ページと20ページにわたっており、検索能力に課題のある児童では比較まで至らないことが懸念されました。

そこで、授業者の希望を尊重しながら、「大日本帝国憲法に関する次の記述から、その特徴を箇条書きで抜き出す」ことまでを自力解決させ、その結果を全員でしっかりと確認することを提案しました。予定時間内に全員がそこまで達成できたら、発展的内容として、日本国憲法の特徴をグループで読み解かせます。大日本帝国憲法と日本国憲法を黒板上で比較しやすくするために、特徴の箇条書きの順番を揃えること、文型を揃えることを提案しました。

クラス全員に自力で読み解かせたいのは以下の段落です。

この憲法では、主権は天皇にあり、天皇が大臣を任命し、軍隊を統率し、外国と条約を結ぶことができると定められました。言論の自由などの国民の権利も、法律で定められた範囲内で認められました。国会は、法律をつくったり予算を決めたりする権限をもつことと定められました。

(「小学社会6年」、p.186~187、教育出版、令和2年1月20日発行)

ここから、7つの特徴を箇条書きで8分程度で抜き出すことができれば、かなりよく耕されたクラスだと言えるでしょう。7つあることを事前に伝えることにより、RSが低い児童でも目標をもって取り組むことができます。また、漏れがないかチェックすることもできます。

大日本帝国憲法の特徴

  1. 主権は天皇にある。
  2. 天皇が大臣を任命する。
  3. 天皇が軍隊を統率する。
  4. 天皇が外国と条約を結ぶことができる。
  5. 言論の自由など国民の権利は、法律で定められた範囲で認められた。
  6. 国会が法律をつくる権限をもつ。
  7. 国会が予算を決める権限をもつ。

これを箇条書きするのは「当たり前で、何の読解力も必要としない」と多くの大人は考えがちです。しかし、RSTの係り受け解析・照応解決で能力値が0.5 を超えないと、これをすらすらと書くことは難しいのです。実際、この日の授業では、クラスの半分以上の児童が、「軍隊を統率する」の主語がわからず、2で止まってしまいました。この箇条書きタスクで1や2で止まってしまう児童ですと、20ページにわたる日本国憲法の記述の中から、これと比較できる箇所を見つけ出し(検索タスク)、同じ文型で記述する(同義文判定)タスクに取り組める可能性は極めて低いので、授業の軌道修正が必要です。

RSTを受検した学年で、その結果の分散が大きかったり、評価3以下の生徒が半数いるようなクラスでは、まずは、このような基本的タスクを確実に達成できるかをよく見守り、基本ができたことを共に喜ぶことで児童の自己肯定感を高めましょう。児童のRSに合わない高度すぎる課題にやみくもに取り組ませると、かえって児童が興味関心を持てなかったり、自己肯定感を下げてしまう結果になることが心配です。

この段落に登場する「統率」という言葉にはルビがふってあります。新出の漢字かつ熟語です。授業者には、この漢字を児童が正しく写せたか、意味がわかるかを確認する時間の余裕をもって丁寧な指導案を作成してほしいと思います。

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もしも、上述の基本タスクを8分以内にほぼ全員が遂行できる「よく耕されたクラス」であれば、5分以内で書き終えた生徒には、同じページに掲載されている他の段落や資料から、それ以外の情報も箇条書きに加えるように指示しましょう。

例:

  • 国会は貴族院と衆議院から構成される。(187ページ右図から、非言語情報の言語化)
  • 衆議院議員のみが選挙で選ばれる。(187ページ右図から、非言語情報の言語化)
  • 選挙権をもつことができたのは、一定の金額以上の税金を納めた25才以上の男性に限られた。(187ページの段落から抽出)
  • 国民から徴兵することで軍隊がつくられた。(187ページ右図から、非言語情報の言語化)

第二段落を直接箇条書きするのは係り受け解析や照応解決で達成できますが、非言語情報の言語化は「イメージ同定」の逆になり、読み解くだけでなく書く力も求められます。クラスの上位層にはちょうど良いタスクになるでしょう。

ここまでの内容を黒板の左側に挙げていき、いよいよ日本国憲法の復習をしながら、右側に、帝国憲法と対比するような形で特徴を挙げていきます。これは高度な検索能力と、同義文判定能力が求められます。大日本帝国憲法と特徴の記述の順序が異なるのも、RSが低い児童が苦労する点です。グループで活動をさせ、担当ページを割り振って検索させる(検索範囲の限定)、該当箇所が正しいか吟味させる等のグループ解決をすると良いでしょう。

  • 主権は国民にある。(p16)
  • 内閣総理大臣が大臣を任命する。(p.24)
  • 軍隊はもたない。(p.20)
  • 内閣が外国と条約を結ぶ権限があるが、国会の承認を得る必要がある。(p.24)
  • 国民には、居住・移転、職業を選ぶ権利、法のもとの平等、政治に参加する権利、信教・学問・思想の自由、健康で文化的な生活を送る権利、働く権利、裁判を受ける権利、団結する権利、言論・出版の自由、教育を受ける権利が保障されている。(p18資料より)
  • 国会が法律をつくる権限をもつ。(p.22)
  • 国会が予算を決める権限をもつ。(p.22)

最後の2つが共通で、それ以外は異なることがわかります。その上で、大日本帝国憲法と日本国憲法の違いを言語化できるクラスであれば、小学生の「読み解く力」としては百点満点といえるでしょう。

この授業では、冒頭に先週の自由民権運動の振り返り等を盛り込んだりしたことも災いして、2番目を何人かが到達できただけで時間切れになってしまいました。2番目の項目について「内閣が大臣を任命する」と書いた児童も複数いましたが、それが「内閣総理大臣が大臣を任命する」と同義か異義かの指導もできないままでした。

 

児童のRSに比べて過大な要求をすると、すべてが中途半端になってしまい、児童は「何が正しくて、何が間違っているのか」を判断できないまま授業時間を過ごすことになります。

「すべてのクラスにとって正解な授業」は存在しません。児童・生徒のRSTの結果に応じたテーラーメードな授業設計が求められるといえるでしょう。

 

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板橋第七小学校では、朝の時間や授業前の数分を使って、読み解く力、聞く力を高める取り組みをしています。このクラスでは、「先生が口頭で言った内容を図にする」ことをゲーム感覚でイメージ同定として取り組んでいました。この日の「お題」は、「四角に対角線をひく。四角の中にいっぱいになるように丸を書く。対角線の上下と丸の内側を黒く塗る」でした。このとき、「いっぱいになるように」と「いっぱい」を聞き取り間違えて、四角形の中にたくさん円を書いた児童がいました。

ただ、6年生ですので「四角」や「まる」ではなく、「正方形とその対角線を、正方形の底辺が下になるように書く。正方形の内側になるべく大きな円を1つ書く」のように、より明確な指示をするとよいのではないか、との意見が授業後の研究会では参観した他の教員から指摘がありました。答えが一通りに決まる明確な指示を準備することは、教員自身のRSを高める上でも、非常に効果的な鍛錬になると感じました。

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