活動報告

板橋区iカリキュラム「読み解く力」育成への助言を行いました。

板橋区では、幼稚園・保育園から中学校卒業に至るまで、「読み解く力」を中心に据え、ひとりの子どもも取り残さない「iカリキュラム」の策定に着手しました。

2020年9月、板橋区教育委員会で教育長、担当指導主事らが、まず小学校の教科書を徹底的に読み込んだ上で、児童がつまずきそうな箇所をリストアップする作業が始まりました。中川教育長の「教科書採択をするときには気づかなかったが、小学校の教科書はこんなに難しいのかと驚いた。けれども、これを読み解くことができる児童が育てば、本当に素晴らしいことだと思う」という感想を始めとして、指導主事からも「授業にばかり目が行って、こんなに時間をかけて教科書を読みこんだことがなかった。RSTの6項目の観点から教科書を読むと、『あ、ここは具体例同定だ』『ここで問われているのが推論の力だ』ということを実感できた。なぜもっと早く教科書を読み込まなかったのだろう」という声が聞かれました。

板橋区では、小学校の国語と理科は東京書籍の教科書を採択しています。教科書から学習に必須の「学習語彙」をリストアップした上で、その意味を授業中にではなく、それより前に教員が意識して児童の語彙に定着させてから授業を受けさせれば、語彙量が少ない児童であっても、授業の内容が腑に落ちやすいのではないかなど、具体的な方策を活発に話し合いました。

小学2年生上の国語の教科書には、「サツマイモのそだて方」という説明文が取り上げられています。サツマイモの育て方を説明した2つの文を読み、説明の仕方の違いを比較するというかなり高度な教材です。3年生の理科「植物の育ち方」につながる良い教材なのですが、低学年にとっては語彙親密度が低い語彙が並んでいるのが難点です。

語彙の例:五月のなかごろ、なえ、しおれる、やがて、つゆのころ、くき、つる、うね、しげる、えいよう

こうした語彙の意味がわからないと、この教材を理解することは難しいでしょう。でも、国語の時間に「うね」や「つる」「しおれる」を言葉で説明したり、スライドを見せたりしても実感がわかないかもしれません。であれば、むしろ、総合的学習の時間に、実際にサツマイモをこの説明のとおりに育ててみて、秋に収穫をし、「うねをつくる」「たかうねにする」「つるがのびる」様子を観察することで実感をもたせてはどうか、という案も出ました。

住環境等の制約で、植物や生き物を育てる機会がない児童は、板橋区には少なくありません。秋に収穫して食べることができるサツマイモを国語の教科書のとおりに、(あるいは、国語の教科書とは異なる方法で)育ててみて、どれだけ収穫できたかを長さや量で比べることができれば、2年生の算数の「長さ比べ」や3年生の「重さ」にも展開できる内容になります。

「そう思うと、総合的な学習の時間や、教科横断というのが、当たり前のことに思えてきました」「わくわくしますね」という声が上がる、良い話し合いの場が持てたと思います。

今後も、教科の枠を超えて、「読み解く力」「学ぶスキル」を向上させるための板橋区のカリキュラム構築を応援していきたいと思います。

写真:下は「新しい国語 二上」(東京書籍)86~87ページ、上は「新しい理科 3」(東京書籍)38~39ページ

 

参考:新井紀子所長が2020年5月にサツマイモの端から「リボベジ」で育てたサツマイモの様子

東京書籍「サツマイモの育て方」の2つ目の説明の「ひりょうを やりすぎると、くきと はだけが のびて しまい」に従って、肥料はやっていません。ちなみに1つ目の説明は、いわゆる「豊かな表現」なのですが、土や苗の選び方が具体的ではなく迷うことが、実際に育ててみるとよくわかります。

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板橋区学びのエリア「板橋のiカリキュラム開発重点校」研究授業が実施されました。

板橋区では、2019年度から区内全小中学校でRSTを導入し、児童・生徒の読解力を診断しながら、「読み解く力」を向上するための授業開発や全校取組み、自学自習支援手法の開発を行っています。新井紀子所長や菅原真悟主席研究員、客員研究員の学芸大学の犬塚美輪准教授らが本取組の支援を行っています。

9月9日、板橋第二小学校において、新型コロナ対策を行った上で、2020年度最初の研究授業が実施されました。今回は、2年生の算数、3年生の理科、4年生の社会、6年生の国語で研究授業が行われました。

4年生の社会科の「自然災害から人々を守る活動」は新指導要領で導入された単元です。自然災害が多い日本において、地域の関係機関や人々が様々な協力をして対処してきたことや、今後想定される災害に対して、様々な備えをしていることを学び、自らも防災・減災への意識を高めていくことが求められます。防災については教科書だけでなく、自治体が発行している防災の手引きなど参照すべき資料も多く、4年生にとっては、難易度の高い単元といえるでしょう。

本時のねらいは、特に地震に焦点を当てて、地震災害から安全なくらしを守るための様々な取組について調べ、「公助・共助・自助」の意味を理解し、調べたことを分類すう活動をとおして、様々な人が取組をしていることを知ることにあります。

授業はまず、教科書の該当箇所を全員で音読することから始まりました。

「家庭・学校・通学路で地震にそなえる

 地震では、ものが落ちて起きたり、家具などがたおれてきたりします。家具の転倒防止は家庭でできる地震対策です。電気や水道が使えないときにそなえて、防災用品のじゅんびが大切です。」(教育出版「自然災害にそなえるまちづくり」より)

めあてを共有した後に、教科書の該当箇所を読み、その文章の構造を理解することは、「読み解く力向上」のために板橋第二小学校全体で取組んでることのひとつです。そして、その朗読箇所が次の問いかけにつながっていきます。

「地震から安全なくらしを守るために、誰がどんな取組をしているのかな。教科書や資料から取組を探して、

(     )が、(                      )

という文章で書いてみよう」

指導案では、この箇所は文の構造を把握しながら読む「係り受け解析」として位置づけられました。ただ、教科書や資料の文は上記の形式で書かれているとは限りません。その場合は、教科書の内容を単に写すのではなく、上記の形式に同義であるように変換する「同義文判定」の力も試されます。

4年生は学力差が顕在化する学年です。手際よく5つも6つも探せる児童もいれば、1つも挙げられない児童もいます。冒頭で音読した箇所に2つ答えが含まれているのですが、それになかなか気づけないようです。指導者は机間巡視しながら、そういう児童に対して、まずは音読した箇所から探してみることを勧め、そこから

・家の人が(自分が) 家具の転倒防止に取組む。

・家の人が(自分が) 防災用品のじゅんびをする。

という2文をまず書けるように励まします。

さて、ここで「誰がなにをする」という形式で文章を書かせたのには理由がありました。次に指導者は、

公助:区や都などが区民・都民を災害から守る。

共助:地域で協力して災害から守る。

自助:自分で自分の身を災害から守る。

という定義を示し、児童がみつけた具体例をこの定義に沿って分類する「具体例同定」の活動を行いました。たとえば、上の2つの例はどちらも主語が「家の人」や「自分」ですから「自助」に分類されることがわかります。

「江戸川の自主防災組織が、災害に備えてくんれんをしている」は共助に、「自衛隊が救助する」「板橋区が避難所を開設する」などは公助に分類されました。

コロナ禍の中、グループで議論することができなかったことが残念でしたが、特殊な機材や準備をしなくても、教師の工夫次第で、授業が読み解く力を育む授業へと変容することを実感できた授業でした。

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板橋第二小学校では、普段から様々な仮説を立てて「読み解く力」育成に取り組んでいます。たとえば、「各学年の授業において共書きができるスピードでノートを取るには一分間に何文字書ける必要がある」ということから、学年ごとに目標字数を定めて、1分視写の時間を毎週設けています。指導者が板書をするのと同じ時間でノートが取れれば、すべての児童が、探したり考えたり、考えを文章にまとめたりする時間に充てることができるからです。この取組みを通じて、1年生は6月の新学期時に比べて9月には平均して2倍の量の字数を書けるようになりました。

授業後の研究会では「授業に苦痛なくついていくことができる程度にノートを取れるようになるため」に視写をするのだから、視写という手段が目的化しないよう、個々の進度を見ながら、視写力がついた児童から高度な課題に取組ませたいという意見が出ました。また、社会科の教員からは「児童はどうしても自助ばかりに目がいくようだ。公助と共助を理解させることが単元の目標としては重要。次の時間では公助と共助を強調して定着させてはどうか」との意見もありました。

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F-labo 8月例会を開催しました(rst-laboふくしま)

rst-labo ふくしま(通称:F-labo)では、福島県内の小学校から大学まで多くの先生方がリーディングスキルについて自発的に学びあいを行っています。

7月の例会に続き、8月の例会が郡山市労働福祉会館で開催されました。

 

まず、奥羽大学准教授の伊藤頼位先生から、「RSTをより深く知るための言語学的視点」と題した発表がありました。
伊藤先生の専門である言語学という視点(「述語項構造」、「命題論理」、「マッピング」の知見)からの読解プロセスの理解とRTSの6分野7項目の関連について詳細な説明が行われました。
発表の目的は、「RSTの背景にあると考えられる言語に関する知見を知ることによって、RSTの設問や受検結果をより深く理解し、実践でのアプローチの基盤を強化する」ということで、まさに、授業実践者が基盤として理解しておくべき言語学の知識を深めることができた貴重な発表でした。

 

次に、奥羽大学講師の金原淳先生からは、「共書きの実践とその感想」ということで、RSFで当研究所所長・代表理事の新井紀子が行った授業を参考に、共書きを取り入れた授業実践報告がありました。
金原先生は紆余曲折を経て、パワーポイントでの提示内容に、補足内容や演習解説をペンタブレットで上書きし、それを学生と共書きするという授業スタイルを構築したそうです。その授業スタイルで、口頭説明と共書きを絶え間なく繰り返す授業を行ったところ、学生の授業の理解度が向上し、授業後の質問が増えたとの報告がありました。金原先生の授業スタイルには、今後のICTを使った授業やオンライン授業のヒントがちりばめられていました。

 

最後に、F-labo事務局の加藤政記先生から、昨年度1年間のF-laboでの授業実践例についての報告がありました。
F-laboの参加者が増え、今年度からの参加者も数多くいることから、今までの授業実践を振り返ることで、先生方の理解を揃えることが目的のまとめの報告でした。さらに加藤先生からは、「これからもF-labo会員は、「どういった授業をすれば頑健な基礎的読解力が身につくのか」を常に考え、授業実践例を数多く蓄積していきましょう」との、会員への呼びかけがありました。

 

 

 

 

 

 

 

F-laboのロゴマーク。たちあおいの花言葉:「大望」「豊かな実り」。

 

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講演を行いました(福島県相馬市教育委員会)

8月18日(火)、相馬市民会館において、当研究所所長・代表理事の新井紀子が「AI vs教科書が読めない子どもたち-基礎的読解力は人生を左右する-」と題し講演を行いました。

 

相馬市教育委員会のRST導入に先立ち行われた講演会には、市内の教職員、県の教育関係者、県議会議員、市議会議員など300名を超える方々が参加されました。今年度、相馬市教育委員会では、市内の小中学生の基礎的読解力の向上を図るため、全ての小学校6年生と中学校1年生から3年生合わせて約1,270名と、全教職員225名のRST受検を10月中旬に実施する予定です。

 

講演では、教科の得意・不得意や好き嫌いにかかわらず、教科書に書かれてある内容を正しく理解する頑健な基礎的読解力を小中学校時代に身につけることが重要であり、読解力により子どもたちの将来が左右される可能性があることを説明し、そのうえで、中学を卒業するまでに、中学校の教科書を読めるようにすることが、公教育の最重要課題であることなどをお話しさせていただきました。

講演終了後には活発な質疑応答も行われ、先生方の関心の高さが窺われました。講演終了後、福地教育長より、「教育長としての方向性の絞り込みは、読解力の向上であり、リーディングスキルテストの活用だと考えている。今日をスタートとし、RSTの結果分析を授業に落とし込み、教員の授業力向上と子どもたちの本物の学力向上につなげていく」との力強いお言葉をいただきました。

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F-laboを再開しました(rst-labo ふくしま)

rst-labo ふくしま(通称:F-labo)では毎月例会を開催し、福島県内の小学校から大学まで多くの先生方がリーディングスキルについて自発的に学びあいを行っています。

新型コロナウイル感染症の拡大を受けて、しばらく開催を見合わせていましたが、7月25日(土)に郡山市労働福祉会館で5カ月ぶりの開催となりました。

開催にあたっては、郡山市のガイドラインに基づき、マスク着用、密にならないような座席配置、消毒液の準備などを徹底しました。

まず、平田村立蓬田小学校の佐藤春奈先生から、視写と音読についての実践報告がありました。視写では視写用のシートを使い、3分間で教科書の文書を写し、ペアで誤字脱字をチェックし、何文字写せたかを記録します。シートにして蓄積することが、子どもたちの達成感につながっているそうです。また、音読では「音読タイム」を設け、当該学年以降の教科書の文書を読ませているそうです。視写と音読の両方を取り入れることで、「言葉のまとまりを意識するようになった」などの子どもたちの変容がみらたことが報告されました。

次に、いわき市立湯本第一小学校の徳永一夢先生からは、RSの6つの観点をどのように授業に取り入れているのか、7つの実践報告がありました。例えば、4年算数「角の大きさ」の単元では、「オセロの実況中継」(『AIに負けない子どもを育てる』の204ページ)を参考に、分度器の使い方を言語化し、それに基づいて分度器を使う授業を行ったそうです。授業を通じて、定義の重要性を子どもたちは感じたようです。また、授業を行うにあたっては、リーディングスキルテストのための授業を目指すのではなく、教科の本質にせまることが大切であると報告がありました。

当研究所研究員の目黒朋子からは、2月に開催された板橋区立第六小学校の研究授業報告を行いました。報告では、1年算数「ずをつかってかんがえよう」、3年理科「じしゃくにつけよう」、4年理科「物のああたたまりかた」、5年社会「社会を変える情報」において、RSのどの観点を意識して授業が組み立てられているのかが紹介されました。

 

当日は、当研究所研究員の菅原真悟による作問ワークショップも開催しました。

菅原からは、子どもたちがどのような文を読むのを苦手としているのかを、問題を作る過程で考えることがワークショップのねらいであると趣旨説明をし、それから小学校から高校までの教科書を用いて、「係り受け」と「照応解決」の問題を実際に作ってみることに参加者全員で取り組みました。

自分たちで実際に問題を作ってみることで、文の構造を理解するとはどのようなことなのか、子どもたちはどのような文を読むのを苦手としているのかを、あらためて考えるきっかけになったようです。

 

F-laboでは、今後も定期的に例会を開催し、子どもたちの読解力育成方法を検討する取り組みを、先生方の実践を通して発展させていきます。

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